第34話 修行に明け暮れる 7

 林道に入ると、準備運動を始める三下。


 急がば回れ、まず、体力ってことか。


 まずは、技術的、と、考えていた三下だったが、それは、最低限、対等の体力、特にスピードがあればこそだと気が付いたのだ。


「ダンジョン内の方が、効果は高いかもしれないけどな。」


 一言呟き、走り出す。


 軽く走って、慣れたぐらいに、全力で。


「くっ!走り難い。」


 当然、林道はまっすぐではない上、足元が悪い。すぐにペースを下げることになった。


 が。


「はぁ。」


 少し走った。それだけで、深呼吸、一回では終わらない程に、荒い息遣い。


「こりゃあ、確かに勝てるわけないな。」


 今度は、歩くよりは早い程度のペースにする三下。


 いつもの所まで走るとしたら、こんなもんか。


 まだ、荒い息を落ち着かせながら、三下は、スローペースで走り続けた。



 林は歩いて抜け、ゲートの前に来た三下は、息は荒くないが、足は、膝が笑うまではいってないが、だいぶ疲労を感じていた。


 とりあえず、一層目はいけそうだな。


 三下は、訓練不足の少し前の自分に、恨み節を呟きながら、ゲートをくぐると、相変わらず、飛び掛かるスライムに突きを食らわせ、落ちたところを二度踏みしながら進んでいった。



「ふぅ。」


 一層目のボス部屋に立っているゴブリンを見ながら、三下は、ため息をついていた。


「どうするか?」


 ここまで、少しでも早く、で、スライムを倒すのも、その間の移動も、なるべく早くやってきた為、二層目を往復するほどではなくても、疲労は感じている。


 しかし。


 足は別。


 明らかに疲れを感じる。


 三下は、軽く、体をほぐし、


 まっ。考えるまでもないな。


 軽く思い、ボス部屋に入った。


 遅いゴブリンを待つ間、観察してみるも、何か見つかることもなく、目の前に来ていた。


 タイミングをあわせて、ゴブリンの右腕を掴んで、逆関節をきめるが、離れようとしたときに、足がもつれる。


「くっ!」


 三下の右腕に、痛みが。


 しかし、かまってはいられない、何とか転倒しないように踏ん張るも、顔を上げた時、ゴブリンは、既に攻撃態勢に入っていた。


 このっ!


 三下は、姿勢をなおさず、跳ねるように、ゴブリンに体当たりを食らわせ、そのままの勢いで、ゴブリンを下にして、一緒に倒れこむ。


「ギャブッ!」


 三下が、ゴブリンをクッションがわりにして、上を転がり、起き上がる。


 下敷きになったゴブリンも、起き上がって、三下へ向き直った。


 右腕を使用不可にするのは成功したらしく、左腕だけを上げで走り出すゴブリン。


 三下は、落ち着いて、左腕も逆関節をきめた。


「シャァァァ!」


 両腕が使えない為、噛みつくつもりなのが、叫びながら三下に向かってくるゴブリン。


 三下は、顔面を、思いっきりのフルスイングで殴った。


「ギッ!」


 後ずさりするゴブリン。


 三下は、追わない。

 足の疲れ具合から、追っていかずに、時間をかけてでも、なるべく動かずに倒したかった為だ。



 三下は、ゴブリンが消えるまで、殴ってはさがらせを、延々と繰り返した。

 


 左右を変えながら殴り、飽きるのも過ぎたぐらいにゴブリンが消えると、三下の足は、多少は回復していた。


「やっとか。」


 ポツリと呟いた三下は、ゆっくりと、ボス部屋を出た。


 もう一度、軽く、体をほぐし、調子を確認する。


「ちょっと、難しいそうだな。」


 足を除けば、疲れ具合は普段とそう変わらないが、逆に言えば、今の足の疲れ具合で、もう一度、ゴブリンと対戦するのは難しかった。


「ふぅ。とりあえず、今日は帰るか。」


 リュックを背負い、奥にはいかず、ゲートに向かって、歩き出す。


 そうだ、せめて、リポップするあたりまでは、軽く走るか。


 三下は、小走りになった。



 緩い上がりで、右に左にと、曲がる通りを、小走りのつもりで、既に歩くのとほとんど変わらない速さで、三下が移動していると、急に、スライムが飛び掛かってきた。


 おっと!


 反射的に叩き落とす三下。


 すぐさま踏みつけるも、後ろからも、スライムに飛び掛かられる。


 しまった!


 どうやら、気がつかないうちに、リポップのラインを越えていたらしい。


 急いで、左脇に絡みついたスライムを剥がして叩きつけるが、踏みつける前に、左肘に、スライムが絡みつく。


 マズい!


 しかも、今までは、後ろに回り込まれないように、討漏らしに気を付けていたが、疲れと、油断で、スライムのリポップのラインを越えて進んでしまったことで、囲まれてしまったらしい。


 四方から飛び掛かってくるスライム。


 三下は、向きを変えると、奥に向って、全力で走り出した。


 リポップしていくラインを越えれば、スライムが出てくることはなくなるはずだからだ。


 当然、ゲートに向うよりも、早くスライムが出なくなるはずだった。


 三下は、避け、叩き落とし、絡みつかれたのは無視して走った。


 予想はあたり、数分もなく、スライムが出なくなる。


 リポップしていくラインに追いつかれないように、止まらず、ペースを落として移動しながら、三下は、スライムを剥がして、再び飛び掛かられないように、後ろに投げていく。


 はぁー。


 結局、また、一層目のボス部屋のところに、三下は来ていた。


 まぁ、二層目で囲まれなかっただけマシだな。


 三下は、ばん、と、顔を叩いて気合を入れると、慎重にスライムを倒しつつ、ゲートに向って歩き出した。

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