第32話 修行に明け暮れる 6

 三下は、相変わらず、飛び掛かるスライムに突きを食らわせ、落ちたところを二度踏みしながら進んでいた。


 ふぅ。


 手を止めて、大きくため息をつく。

 暫くの間、進展は、ほとんどない。

 スライムに関しては、稀に、踏みつけるのが一回で消える時も出てきたが、それだけだった。

 一層目のゴブリンに関しても、怪我をすることはなくなっていたものの、倒すまでに必要な、コンボなどの回数が減ったわけではなかった。


 ふぅ。


 一層目を抜け、二層目のボス部屋手前に来た三下は、もう一つ、ため息をついた。


「さてと。」


 目の前には、二層目の最後にいる、ボス、ゴブリンLeve2が、部屋の中央に立っていた。


 どうする?


 一層目のゴブリンで、怪我をすることがなくなっていたことで、多少、余裕が出来ていたことと、進展らしいものがないことから、三下は、二層目のゴブリンLeve2に挑戦してみようと思っていた。



 眺めながら、考える三下。



 暫くして、呟いた。


「いざとなったら、逃げればいいか。」


 三下は、テクテクとゴブリンLeve2へ向かって歩き出した。



「ギャヒ。」


 一声上げて、走り出すゴブリンLeve2。


 早い?


 いや。相変わらず遅いのだが、一層目のゴブリンLeve1に慣れていた三下には、微妙な差でも、大きく見えていた。


「ちっ!」


 思った以上に早く、目の前に来たゴブリンに、三下は、思わず後退する。


 が。


 正解、だったようで、ゴブリンLeve1では、かすりもしないはずの爪が、三下の服を掠めていく。


 こいつは。


 違いに気が付いた三下は、いつも以上に間をとって、構えた。


 すぐに駆け寄ってくるゴブリン。


 広めに間を取りながら、仕掛けるタイミングを確認しつつ数回下がるも、三下は、上手くタイミングを合わせれない。


 と。


「このっ!」


 いつまでも、手を出せない状態に焦った三下が、思わず、右の前蹴りを放つ。


「ギョ!」


 蹴りは、ゴブリンの顔面に突き立つが、動きを止めるのには一瞬遅く、ゴブリンの爪が、三下の右足を傷付けていく。


「くっ!」


 ゴブリンが、怯んでいる隙に、離れようと下がる三下。


 しかし。


 既に部屋の隅に追い込まれていることに気が付く。

 いつもより長めに間をとっていたことで、思った以上に、部屋の隅によっていたのだ。


 しまった!


 しかも、ゴブリンは、怯む時間も短くなっていた為、視線を戻すと既に目の前に来ていた。


 今は、駄目だ!


 無理をすれば今は勝てると思われるが、次が難しいことは間違いない。帰れなければ意味がない。


 負けを認めて逃げることに、妙なプライドのようなものが邪魔したが、三下は、振り切った。


 覚悟を決めた三下が、ゴブリンに向って踏み込む。


 ゴブリンは、それに合わせるように右の肩を引いた。


 三下は、左手は捻りながら、右手はそのままで、ゴブリンの左腕を掴む。


 ゴブリンは、右腕を、三下を追うように振り回していく。


 と、三下は、いきなりゴブリンの左腕を、強引に左へ押しのけた。


「キッ。」


 急に横に押された為に、バランスを崩したゴブリンだったが、それでも、三下の脇を引っ掻く。


「てっ。」


 思わす、声が出た三下だったが、痛みに耐えながら、ゴブリンを押しのけたことで空いた脇を抜ける。


 そして。


 三下から見て右手に見えていた、一層目の通りに向って、そのまま走り出した。


 全力で走れば。


 三下は、特別、足が速い訳ではなかった。が、それでも、ゴブリンよりは早く走れる自信はあった。


 振り向きもしないで、全力で走る。


 三下は、一気にボス部屋を出て通りに走り出た。


 そして、一旦、振り向いく。


 ボス部屋の中央には、何事もなかったかのように、ゴブリンが立っていた。


 ちょっと、焦ったか。


 三下は、一息つくと、傷の手当てを始めた。

 


 一通り、傷の処置をした三下は、ゆっくりとボス部屋の中央にいるゴブリンを見た。


「一応、確かめてみるか。」


 再び、ボス部屋に入る三下。

 ゴブリンが動き出すまで進むと、止まって、ゴブリンを待つ。


「そろそろかね。」


 それなりに近くまで来たところで、下がり出し、そのままボス部屋を出た。


「あ。」


 それなりに近くまで来ていたはずのゴブリンが、いきなり、ボス部屋の中央に戻っている。


「、、、、。」


 三下は、黙って、もう一度、繰り返した。


「おっと。」


 やはり、ゴブリンは、いきなり中央に戻っている。


「ま、いいか。取り敢えず、逃げれてよかったぜ。」


 三下は、リュックを背負うと、一層目のボス部屋へ向かうことにした。



 中央に佇む、一層目のボスゴブリン。

 三下は、リュックの具合を確かめた。


「さてと。」


 ついでに、完全に戦闘を回避できるか試そうとしていた三下は、リュックを背負った状態で、ボス部屋に入った。


 動き出すゴブリンを見ながら、ゆっくりと右へ動いていく。


 ゴブリンは、三下を正面にとらえるように方向を変えながら向かってくる。


 ある程度にゴブリンが近づいたところで、三下は、急に走り出した。

 ゴブリンの左側を抜けようとする。


 ゴブリンは、何とか、右腕で三下を攻撃しようと体をひねってくるが、届かない。


 三下は、止まらずに、ゲートに続く通りへ走り出た。


 振り向くと、ゴブリンは、部屋の中央で止まっている。


「上手くいったみたいだな。」


 三下は、ゲートに向かって歩き出した。

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