第31話 首相官邸 6

「こんな時間に、申し訳ありません。」


 次官が頭を下げると、栗夫は、ため息をついた。


「かまわんさ。一応は、これが仕事だからな。で。」


 数日で板に付いた疲れた顔を上げて、次官に先を促す。


「ダンジョン探索の部隊に、怪我人が出ました。」


「確か、二班が遊んでいただろ。欠員の補充はそこから、、。」


「怪我をしたのが、部隊長なんです。」


「なに。どういうことだ?」


 栗夫は、眉を上げて、次官を見た。


「どうも、ダンジョンの三層目、確認できている最下層においてですね。未確認の怪物、隊員はホブゴブリンと言っていましたが、それと、単独交戦の結果、負傷した、とのことです。」


「なぜ、単独交戦なんだ。」


「私も、わからなかったのですが、他に手がなかった、と、言っています。」


 次官は、USBメモリーを取り出し、栗夫に渡した。


「その彼の、ヘルメットに付けてあったカメラの動画です。」


 栗夫が、PCに取り付けるのを見ながら補足する。

 すぐにPCから戦闘音がなりだす。


 戦闘音が終わると、栗夫は、次官を見た。


「弾が、あたっているように見えるが、、。」


 頷く次官。


「あたってます。人間なら、最初の一発で動けないと思われます。」


「他に誰かいないのか?」


「いません。部下からの信頼もありますが、戦闘力もかなり高く、そうですね、このホブゴブリン?」


 尋ねるような次官に、栗夫は、鼻を鳴らす。


「ホブゴブリンでいいぞ。」


「はい。このホブゴブリンに、部下四人で挑んだとしても、倒せずに、重傷、もしくは死亡なると思われます。」


「そこまでか。」


「はい。」


「つまり、明日から、ダンジョン探索は中止と。」


「はい。なので、確認の為に。」


「仕方がないな。どのくらいの期間になるんだ?」


「一ヶ月程かと。」


「ちっ。長いな。」


「ただ、彼は、レベルアップ者ですし、この戦闘の前にもレベルアップしているようなので、もしかしたら、早く治る可能性があります。」


「それは、、研究者共が喜びそうだな。」


「そうですね。実際、既に暴走気味になってまして、血液検査では、頼んで多めに採血して、ほとんどの機関にまわされたようです。」


 諦めたように息を吐く栗夫。


 最近、ため息ばかりだな。


 そう思いながら、もう一つ、ため息をついた。


「他には。」


「その彼から、ダンジョン専用の装備の提案があります。」


「装備?」


「はい。今日の、今日の話なので、詳しくではありませんが、盾と、接近戦専用の銃を用意したいと。」


「どうしても必要なのか?」


 次官は、少し考えると、慎重に言葉を選びつつ、答えた。


「そうですね。動画を見る限りでは、接近戦になる前に倒すのは難しい、と思われますので、私、個人としては、考察の余地はあると思います。実際に戦闘をしたわけではないので、本当のところは、わかりませんが。」


 栗夫は、鼻を鳴らして、次官を軽く睨む。

 判断の責任の押し付けに、失敗したからだ。


「流石に、上手く答えるな。」


「ありがとうございます。」


「まぁいいさ。どちらにしろこっちの責任だ。とりあえず、見積りでも作らしとけ。暫く暇になるみたいだし、ちょうどいいだろ。」


「わかりました。あとですね。」


 更に続ける次官に、栗夫は、顔をしかめた。


「まだあるのか。」


「申し訳ありません。こちらは、明日に報告する予定でしたが、ついでなので。」


「なんだ?」


「クリスタルについてです。」 


 ソファーに深くもたれ込み、疲れた様子をしていた栗夫が、体を起こした。


「何かわかったのか?」


「はい。先日の試験機関の爆発は、やはり、クリスタルが原因でした。」


「それで?」


 急かす様に促す栗夫に、次官は、一息つくと話し出した。


「そうですね。まず、爆発した理由なんですが、クリスタルの破壊試験の後、作業員の不手際で、クリスタルの細かい破片が床にばら撒かれてですね。その破片を、翌日の清掃時に、清掃作業員が集めてバケツの水に混ぜ込み、そこへ、煙草の火を落としたことによるものでした。」


「つまり、バケツの水に、クリスタルの細かい破片が混じっていたことで、爆発した、と。」


「はい。どうやら、ダンジョンクリスタルは、細かく砕いて液体、まぁ、水ですね。と、混ぜると、その液体を可燃性の液体に変化させる効果があるみたいです。しかも、その効果ですが、ガソリン比で、最大約三十倍以上のエネルギーになるみたいなんです。」


「三十倍?」


「簡単に言うと、ガソリンの代わりに、そのクリスタルの破片を混ぜた可燃性の液体を使うと、何もしなくても、最大出力が三十倍以上になると思ってください。」


「、、、、、は?」


「後は、あらゆる可燃性液体を燃料とするものに使える可能性がありまして、軽油としては、既に使えることがわかっています。あとは、ジェット燃料や、火力発電所の燃料などですね。」


「、、、、、、、。」


「当然ですが、それらも、約三十倍以上の出力が得られるとおもわれます。」


「、、、、、、、。」


「また、混ぜ込む量を調節することで、出力をコントロールできるみたいでして、ガソリンと軽油については、同じぐらいの出力に調節して、実際の車両によるテストは問題なく終了しています。」


「、、、、、、、。」


「そして、もう一つあります。それは、排気です。このクリスタルを混ぜ込むことで可燃性の液体になったものは、燃焼後の排気が、クリスタルを混ぜ込む前の液体と、それに含まれていたものだけになります。」


「、、、、、、、。」


「つまり、完全にクリーンに近い排気になります。」


 次官は、一気にまくし立て、栗夫を見た。

 栗夫は、ゆっくり唾を飲込む。


「、、、、結論は?」


 頷いた次官が、口を開く。


「クリスタルは、砕いて液体に混ぜ込むことで、人類が理想とする可燃性の液体になります。」


「そんなことが、、。」


「もちろん。まだ可能性です。確認するためには、クリスタルの数が少なすぎます。が。ほぼ確定と言えます。」


 次官は、栗夫の感想を待って、黙った。


「、、、、、、、。つまり、ダンジョンから、クリスタルを大量に引き出せれば、原油を輸入する必要がなくなり。排気の問題も解決してしまう、と。しかも、高出力化が期待できる。に、なると。」


「はい。」


 栗夫は、一番のため息をついた。


「まさしく。神の所業だな。」


「そうですね。」


 二人は、少しの間、黙った。

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