第30話 ダンジョン探索 4 豪氏 剛機(ごうし ごうき)

 翌日。


 剛機達は、先日と同じダンジョンの二層目を抜け、三層目を、ゴブリンを撃ち倒しながら、進んでいた。

 一時間ほど、もう少しでボス部屋に着くだろう、と、言うところで、剛機の体が軽くなった。

 思わず立ち止まる。


「どうしました?」


 同じく、一斉に立ち止まり、剛機を見る隊員達。


「いゃ。すまない。何でもない、どうも、レベルアップしたようだ。」


 おぉ。と、隊員達。


「おめでとうございます。」


「あぁ。多少、こいつに頼り過ぎて、実感は少ないが、ありがとう。」


 剛機は、苦笑しながら、銃を振って見せる。


「弾が沢山持てますし、銃を早く振り回せれば、かなり有利だと思います。」


「確かに、そうだ。間違いない。よし、調子を上げて、ボスへ向かうぞ。」


「はい!」



 十数分後、剛機達は、三層目のボス部屋に着き、中をうかがっていた。


「言うなれば、ホブゴブリン、ってとこですね。」


 外観は、鍛え上げられた肉体を持つ、成人男性、身長は、男性の平均よりは、多少、高くみえる。

 緑色の肌は、ゴブリンと変わらず、ボス部屋は、ゴブリンの部屋に比べて、一回り大きくなっていた。


「どうします?」


 明らかに危険を発しているホブゴブリンから目を離すことなく、隊員が声をかける。


「かなり危険なのは間違いないな。こいつでも、倒す前に、一度は攻撃を食らうことは間違いないだろうな。」


「全員で、一斉射撃でも?」


 軽く、首を振る剛機。


「近すぎる。展開しているうちに、直接的な戦闘になるだろう、そうなったら、同士討ちになるから撃てない。」


「一度、引き返しますか?」


 黙り、考える剛機。


「いや、今より有効な装備が思いつかない。出直したところで、そうは変わらないだろう。向かいに奥に続く通りがないことから、最下層は間違いないから、確認だけにするのも手だが、なんとなく、それは不味い気がする。」


「あの。つまり?」


「やるしかない。俺がやろう。」


 ホブゴブリンを見る剛機の目に、闘志の色が沸き上がる。


「もしかして、一人でですか?」


「あぁ。」


 見たこともない程の、意思と、闘気を見せる剛機に、隊員達は静かに口を紡ぐしかなかった。


「とは言え、全くの無策もやられるようなものだしな。」


 心配そうに黙る隊員達を、安心させるように、軽く笑った剛機は、少し、考えるように隊員達を眺めると、二人を指した。


「二人とも、バッグを下ろして、中を全部出してくれ。」


 そう言いつつ、剛機もバッグを下ろして中を出し始める。


「どうするんですか?」


「ん。攻撃されるのがわかっていて、何もしないわけにはいかないからな。盾代わりに使えないかと思って。お前たちのバッグは、中に入れて、少しでも厚みを増すのに使う。」


 剛機は、隊員二人のバッグを、自分のバッグに押し込むと、具合を確認する。


「一回ぐらいは、何とかできそうだな。」


 ショルダーベルトに左腕を通して握ると、右手に、自動小銃を握った。

 剛機は、心配そうにしている隊員達を見て、もう一度、笑って見せる。


「なに、心配するな。死にはしない、どうにも危なければ、すぐに逃げてくる。多分だが、部屋を出てまでは追ってこないと思うから、部屋と通りの境目ぎりぎりで戦えば、逃げるのもすぐだ。大丈夫だ。」


 剛機は、ボス部屋の中央に立っている、ホブゴブリンに向って歩き始めた。


「ご武運を。」


 軽く、銃を振って答えると、部屋に踏み込んだ。


 パパパ、と、ホブゴブリンが動いた瞬間に、引き金を引く剛機。


 だが、ホブゴブリンは、右に、跳ねるように移動して、一瞬、動きが止まる程度のぎりぎりのあたり具合で躱して走り出す。

 当然、人間なら動けなくなるが、ダメージが行動に影響しない為、足が止められなければ、あたるのは無視して飛び込んでくる。


「くっ。」


 剛機は、追って銃を動かしながら、引き金を引き続ける。

 

 が。


 三度目の引き金を引いた時には、ホブゴブリンは、剛機の目の前にいた。


 狙いもなく、引き金を引く剛機。


 ホブゴブリンは、それを無視して、右腕を突き出してくる。


 剛機は、咄嗟に、右に動きながら、左手に持った、盾代わりのバッグを前に出す。


バン。


 爆ぜる様な音とが響き、剛機の左肩に衝撃と痛みが走る。


 バッグを貫通した、ホブゴブリンの爪が、剛機の肩に突き刺さったのだ。


 剛機は、痛みを無視して、左腕を動かし、ホブゴブリンの右腕をのけると、右手に持った銃を、ホブゴブリンに押し付けるようにして、引き金を引く。


 銃声とともに、あたった衝撃で後退するも、左腕を突き動かしてくるホブゴブリン。


ガシャン!


 金属音が聞こえ、剛機は、銃身でそれを受けていた。


 瞬間、互いが停止後、ホブゴブリンは、更に力を入れて、押し込もうとする。


 剛機は、その状態から、無理矢理、銃口をホブゴブリンの顔に向けた。


 あたれ!


 引き金を引く剛機。


 放たれた弾は、一発だけあたり、ホブゴブリンの頭部を弾けるようにのけぞらせた。


 勢いで、銃身からホブゴブリンの左手が外れる。


 剛機は、すぐに銃を構えなおして、再び引き金を引く。


 銃弾を浴びたホブゴブリンは、更に姿勢を崩し、もう一度、剛機が引き金を引くと、消えていった。

 隊員達が、歓声と、心配の声を上げながら走り寄る。


「大丈夫ですか?」


「肩に、あたったように見えました。」


 剛機は、一息つくと、近くに来た隊員達を見回した。


「大丈夫だ。生きてる。」


 隊員達の表情が、安堵にかわる。


「肩の傷の手当てをしないと。」


 隊員の声に、一つ頷いた剛機は、部屋を出た。

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