第28話 ダンジョン探索 2 豪氏 剛機(ごうし ごうき)

 時折、銃声が聞こえ、その度に、スライムが消えていった。


「射撃の練習に丁度いいですね。」


「ああ。全くだ。」


 スライムが飛び上がるまで待つ必要もない為、見つけるなり引き金を引くだけ、彼らが外すことはまずない。どうにも狙えなければ、それこそ、少し近づき、飛び上がるところを撃つだけ。


 剛機達は、前を交代しながら、二層目を進んでいった。

 そして。一時間と少しして、剛機たちは、次のボス部屋に到着した。


「今度は、ゴブリンがちゃんといるようだな。」


「全く動く様子がないですね。」


 剛機達は暫く、慎重に確認していたものの、動く様子がないことから、隠れることなく、普通に、ボス部屋の前に立っていた。


「どうします?」


 全く動く様子がないゴブリンに、銃を向けることなく眺めている剛機へ、隊員が質問する。


「ちょっと気分的には腑に落ちないが、動かないなら丁度いい。ここから撃つ。下がってくれ。」


 隊員の声に、行動を決意した剛機が指示すると、隊員達が、急いで下がる。


「悪いが、安全第一なんでな。」


 この距離で、外すことはない。

 剛機は、自信をもって引き金を引いた。


パンパン


 銃声が鳴る。


 が。


 弾は、ゴブリンにはあたらなかった。


「なに?!」


 剛機が顔色を変える。銃弾が、通りと、部屋の境目で、消えてしまったのだ。


「弾が消えただと?」


 剛機の一言後、全員が停止ししたように、黙り込む。


「ど、どういうことでしょう。」


 近くにいた隊員の声で、剛機は動き出し、銃を確認する。


「わからん。確認する為に、そっちに一度、撃ってみるから、悪いが、壁に寄ってくれ。」


 隊員達が、壁に背を付けて中央をあけると、剛機は、二発、通りの奥に向けて空撃ちをする。

 光る射線が、通りの奥に消えていく。

 確かに、弾は発射されている。

 剛機は、もう一度、銃を確認すると、部屋に向けて、つまり、部屋の中央にいるゴブリンに狙いを付けた。


「後、三発ある。全部撃つから、お前たちも見ていてくれ。」


 隊員達が適当に並び、それを確認した剛機は、再び、引き金を引く。


パンパンパン


 銃声とともに放たれた銃弾は、又もや、通りと、部屋の境目をこえることができずに消えていく。


「これは、、、。」


 思わず呻く剛機。

 隊員達も、再び、停止している。


「参ったな。まさか消えるとはな。」


 降参、とばかりにため息をついて、銃を下げる剛機。


「弾くとか、止めるとかじゃなくて、消える、ですもんね。」


「間違いなく、神の力、ですよね。」


 目を丸く固定した状態で、隊員達が、思い思いに口を開く。


「まったくだ。」


 剛機は、もう一つため息をつきながら、新しいマガジンを挿入して、スライドを引いた。


「どちらにしろ、部屋に入る。いや、ゴブリンが動き出せば、弾はあたるはずだ。部屋に入ろう。」


「銃が無効化されて、弾が出ないとかは、ないですよね。」


「むぅ。そうだな。ないとは言い切れないな。」


 隊員の意見に、また、ため息をついた剛機は、手を、顎にあてた。


「よし。いったん、バッグを降ろして、少しでも身軽にして警棒を準備してくれ。まず俺が部屋に入って、奴が動き出すと同時に撃つから、駄目だった場合は、交代して、警棒で奴を攻撃してくれ。俺もすぐに参戦する。危険だが、いいか?」


「はっ!」


「まぁ。多分、これで秒で決着するはずだ。気楽に待っていてくれ。」


 流石に、格闘戦になりそうだ、と、緊張している隊員達に、ニヤッと笑ってみせる。


 剛機は、銃口を下げた状態でボス部屋へ入ると、ゴブリンが動くと同時に構えて引き金を引く。


パンパン


 と、銃声が響き、しっかりと放たれた銃弾が、ゴブリンの頭部、額に正確に命中する。


 剛機は、ゴブリンが完全に消えるのを確認すると、銃を下した。

 息を吐きながら、緊張を解き、中央まで行くと、落ちているクリスタルを拾う。

 一通り、周囲を確認して、


「いいみたいだ。一度、休憩しよう。」


 隊員達に声を掛けた。



 部屋で適当に休む隊員達の脇で、剛機は、壁にもたれて休んでいた。

 一人が、剛機に、近づいていく。


「この後は、どうします?」


 少し、考えるように答える剛機。


「そうだな。ここまで、二時間半ぐらいか?」


 隊員は、自分の腕時計をちらりと見る。


「そのくらいです。」


「戻るのに、同じぐらいに時間がかかると、昼は完全に過ぎるな。」


「はい。」 


 剛機は、奥に続く通りに目を向けた。


「ん。ここで急いでも、そう変わらないだろうから、今日は、ここまでにしよう。ちょっと、昼が遅くなるが、かまわないか?」


「自分は、大丈夫です。」


 頷き、他の隊員に目を向ける。


「大丈夫です。」


 等、聞いていたらしい隊員達の答えを確認し、剛機は、もう一度、頷いた。


「では。今日はここまでにして、帰るとしよう。」





 三下が、目一杯のスピードで、スライムを突く。


バシャッ!


 派手な音はするものの、スライムは、弾かれることなく、三下の拳にへばりついた。


「おっと。」


 慣れた様子で、スライムを引きはがし、叩きつけるとともに、踏みつける。

 三下は、軽くため息をつき、肩を窄めると、


「上手くいかないぜ。」


 呟きながら、飛び掛かるスライムに突きを食らわせ、落ちたところを二度踏み、と、多少、進展がないものの、それを集中して続けていた。

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