第24話 修行に明け暮れる 4

 三下は、飛び掛かるスライムに突きを食らわせ、落ちたところを二度踏みした。


「くっそー。遅え。」


 色々と、技術的に何とかできないか、と、試していた三下だが、結果は、あまり変わらないだった為、とにかく、拳にスピードをつけようと頑張っていた。

 つまり、スピードが早ければ、ぶつかった時の威力もでかい。脳筋的な考えだったが、他になかった為、三下は、それだけに集中することにしていた。

 次に、飛び掛かってきたスライムにも、とにかく早く、で、突きを食らわせる三下。

 その勢いで、一層目のゴブリンまで行き、逆関節と左右突きと、蹴りのコンボ連発で倒し、二層目のゴブリンのところで引き返して、一層目のゴブリンのところに戻った。


「流石に、一層目の往復よりかは疲れてるな。」


 軽く体を動かし、緊張を解き、深呼吸をしながら、ゴブリンの前に出る三下。


「カァッ。」


 ゴブリンは、一息、叫ぶと、走り出した。

 三下は、攻撃の左右を確認して下がるが、少し遅かった。

 服やら、包帯などが引き裂かれ、浅く、胸に傷を付けていく。


「ちっ。」


 三下は、止まらずに下がると、傷は無視して構えた。

 ゴブリンは、振り切ったところで一瞬止まり、再び腕を振り上げると走り出した。

 今度は、左肩を引く。


「ヒットしても、左右が変わるわけね。」


 三下は、その左の攻撃を、下がるも、浅く胸で受ける。


 が。


 今度は、下がらない。


 止まった後に、振り上げる左の爪が掠めるのを無視して踏み込み、左の突きを、ゴブリンの顔に打ち込む。


「アギャ。」


 ゴブリンは、半歩下がるも、耐えきり、右腕を振り回してくる。

 

 三下は、敢て掠めるぎりぎりでそれを躱して踏み込むと、ゴブリンの頭を両手で挟むように掴んだ。


 引き倒すように頭を抑えつけ、そこに向かって左膝を跳ね上げる。


「ギャウン。」


 膝がゴブリンにあたった瞬間に両手を放した為、頭部が跳ね上がる。


 しかし、思った程に威力がなかったらしく、すぐさま、ゴブリンが左腕を振り回してくるも、位置が近すぎて、前腕が三下の脇に押し当てられる。


 三下は、それには逆らわず、右膝でゴブリンの左脇を突きあげた。


 バランスを崩して、右手を下につくゴブリン。


 すかさず、左で顔を突く三下。


 ゴブリンは、突かれた勢いで仰向けに倒れ、そこへ、拳を振り切った三下の左足が突き立つ。


「しまった。」


 三下は、思わず踏み出した左足を、すぐに引こうとするが、ゴブリンが足を振り払おうとした右の爪が足刀部にあたり、バランスをとるために、またもやゴブリンの腹部を踏みつける。


「クワァフ。」


 ゴブリンは、踏まれた勢いで息を吐きだされながらも、左腕を動かしてくる。


「のやろ!」


 三下は、足に迫っている左の爪を躱すために全力で左足を踏切った。


 爪は、三下の左足首を掠めていく。


 今度は、三下は、そのまま下がると、距離をとった。


 何事もなかったかのように立ち上がるゴブリン。


 焦るな。


 それなりにダメージは与えていそうでも、全く変化のない異様さにあらためて気が付き、三下は、頭に血が上りかけるが、深呼吸とともに、そこは無視する。

 作戦としては、あたるのが避けれないなら、いっそ、近づいて膝で、と、考えてみたのだが、結果はわからない。


 ゴブリンは、立ち上がるとすぐに走りはしていて、三下の近くまで来ていた。


 と。


 突然、ゴブリンに背を向けて走り出す三下。

 ゴブリンは、止まって、呆気にとられたように見送る。

 三下は、部屋のぎりぎりまで離れたところで止まり、ゴブリンに向き直った。


「カァアア!」


 ゴブリンが走り出し、三下も、走り出した。


 ゴブリンは、タイミングを合わせて、右肩を引き、三下も、右の拳を振り上げた。


 ゴブリンの腕が振り下ろされる。


 三下は、それを全く無視して踏み込み、ゴブリンの腕を左肩に受けながら、走ってきた威力を殺さないようにして、振り上げた右の拳をゴブリンの顔面に打ち込んだ。


 ゴブリンの攻撃は、三下が近づきすぎた為にほとんど意味がなくなっていた。爪ではなく、手首が三下の肩にあたっていた為だ。


 ゴブリンの頭部が弾けるように上向き、尻餅をつく。


 三下は、その間に離れて構えた。


 結構、体力いるぜ。走れるうちに終われるか?


 そろそろ、息が荒くなっているが、三下は、ゴブリンが走り出すのに合わせて、再び走り出した。



 何度目かの拳が、ゴブリンにきまり、消えていく。

 三下は、膝に力が入らず、ふらふらしながらリュックに向かった。


「走りにくいと思った。」


 あらためて足を見た三下は、ポツリと呟いた。

 足刀部に爪があたったおかげで、すぐに使用不可にはならないだろうが、靴が壊れかけていたのだ。

 三下は、傷などを処置すると、上着を着込んだ。

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