第23話 首相官邸 5

 次官が、報告書にメモを書いていく。


「では、突入部隊の一斑を、他のダンジョンの探索に行かせる。で。」


「あぁ。彼らが一番適任なのは間違いないからな。」


 栗夫が、ソファーに体を埋めるように座って、次官に答えた。


「しかし。」


 ちらりと次官を見て黙らせた栗夫は、大きく息を吐いた。


「お前の言いたいことはわかる。渋谷のダンジョンの探索だろ。」


「はい。」


 ため息を漏らしながら、ソファーにもたれている栗夫は、身動ぎした。


「だが、彼らの有無に関係なく、人数を投入できれば何とかなる、と、言ったのはお前だぞ。」


「それは、そうですが。自衛隊に作らせた探索計画が、人数の投入によるものだった、と、言うだけで、実際に上手くいくかはわかりません。」


 次官が黙ると、栗夫は、顎をしゃくりながら次官を見た。


「とにかく、他の国も、あの大きさのダンジョンには部隊を送り始めているからな、結果は、他の国に任せればいい、一番になる必要はない。それより、小さい方のダンジョンを調べたほうが、より国民の為になると思ったまでだ。クリスタルによっぽどの価値があるなら考えないこともないが、それは、価値がはっきりわかってからだ。」


「わかりました。」


 今度は、次官が、ため息をついた。

 栗夫は、その様子を見て頷いた。


「後は、先日の試験機関の爆発だが。」


 かなりめんどくさそうに、腕を広げる栗夫。


「作業員の意識がもどったので、差しさわりのない範囲で聞き取りをさせましたが、全くわからないそうです。」


 報告書のページをめくって、確認しながら、次官が答えた。


「他で、クリスタルとの関係はどうだった?」


 面白くない。と、顔に書いて、ソファーに座り込む栗夫に、薄く、息を吐き、次官は答えた。


「調査の途中ですが、今のところ全く。」


「そんなはずはない、と思うぞ。」


 急に、ソファーにもたれるのをやめ、体を起こした栗夫は、組んだ手の上に顎をのせながら、軽く頭を振る次官に向かって、目を細めた。


「話を聴く限りでは、他には考えられない。」


 次官は、困ったように肩をすくめた。


「私もそう思っていますが、今のところは。明日、従業員からの聞き取りを行う予定ですので、何かありましたら報告します。」


「クリスタルの試験は、爆発のあった日の前日なんだろ?」


 かなり興味があるのか、前のめり気味になっている。


「はい。試験後の破片や、結果も試験当日にこちらに引き渡されています。」


「楽しみだな。」


 冗談っぽく言う栗夫に、次官は、苦笑した。


「そうだといいですね。次の報告ですが、、、、、。」


 栗夫は、また、ソファーにもたれた。


 



 剛機が引き金を引くと、パパパ、と、音とともに銃弾が飛び出し、それは、的の中心に跡を残した。


「明らかに調子はいいな。試せば試すほど、はっきりわかる。これがレベルアップか。」


 銃を下した剛機は、的を眺めながら呟く。


「剛機曹長、こちらでしたか、幕僚長がお呼びです。」


 一人、射撃場にいた剛機は、声を掛けてきた隊員へ振り向いた。


「わかった。すぐに行くと伝えてくれ。」


「わかりました。」


 戻っていく隊員を見送ると、剛機は背を向けた。





「渋谷のダンジョン以外のダンジョンの探索ですか。」


 直立不動の剛機の向かいには、デスクを挟んで、幕僚長が座っていた。


「あぁ。今だと増えて、七十程になっている。」


 幕僚長は、いったん話を区切って、剛機を見た。


「私としては、そう遠くないうちにある、渋谷のダンジョンの探索の準備をしてもらいたかったが、官邸は違う考えらしい。まぁ。より国民にアピールできる。より、票になる方を選んだわけだ。こちらとしても、我々をアピールする、と、言う点については同意できるため、引き受けるつもりだが、君はどうかと思ってね。」


 スッと、敬礼をする剛機。


「ご命令とあらば。」


 頷く幕僚長。


「では、君に一任する。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る