第22話 修行に明け暮れる 3 ゴブリンの観察
目が覚めると、部屋は薄暗く、ザァー、と、音が聞こえていた。
雨か。
ズルズルと布団から這い出ると、胡坐をかいて座る。
傷の具合を調べ、包帯をなおすと、外を見た。
結構、ふってるな。
三下は、ダンジョンまでの道のりを考えて、顔をしかめた。
林道まではともかく、林の中では傘はつかえない。靴も、普通のではずぶ濡れになってしまうだろう。
「ハァーーー。」
ため息とともに体が動き、痛みが走る。
あらためて、自分の体を見る三下。
数日で擦り傷だらけになった体は、瘡蓋ができている傷もあるが、完治したものは一つもない。
「休まないと不味いか?」
体力は回復しているようだが、痛いのは痛い。
が。
どうせ、すぐに増えるだろうしな。
時計を見ると、昼の少し前。
よし。怪我をしないだけなら、ゴブリンと二回目をやらなければいいはずだ。
三下は、準備をすると、古めのカッパを着こみ、長靴をはいた。
殴り、落ちたところを踏みつけると、足に絡みついてくるスライム、普通に靴だと足がべちゃべちゃになるが、今回は長靴の為、そんな心配はなく、もう一度、スライムを踏みつける三下。
「わりといいな。」
履き替える靴を忘れただけだが、思いのほか、スライムにはよかったらしく、三下は、機嫌よく二度踏みしていた。
続いて、突きを空打ちして動きを確認。
止まって考えると、クリスタルを拾って、次のスライムへ。
三下は、ゆっくりとダンジョンを移動していった。
「おっと。着いたか。」
三下は、いつの間にかボス部屋の手前まで来ていた。
さてと。
履いているのは長靴。
スライムにはいい感じだったが、ゴブリンには少々不味い。蹴ったら最悪、脱げそうなぶかぶか具合だ。
だが、戻るのもバカバカしい。
「今日は、落ち着いて観察するかね。」
それなら、長靴でもいけるだろ。
三下は、リュックを手に持つと、強引にぶら下げていたカッパを外して降ろし、その隣程に、リュックを置いた。
長靴らしい音を立てながら、ゴブリンへ向う。
ゴブリンは、三下に気が付くと走り出した。
三下は、軽く構え、ゴブリンを待った。
「相変わらず遅い。」
今一度、ゴブリンをよく見てみる。
背は低く、短い脚に、妙に長い腕、移動が遅いのは、脚が短いのが原因の大半と思われ、脚の動きが異常に遅いとかではない。
体の動きも、人の平均と思うと、多少遅い程度で、極端ではない。
つまりは、それなりに強敵になるわけだ。
三下は、近づいてきたゴブリンが、攻撃に出るな、と、いうところで下がり始め、ゴブリンは、それに合わせるように右肩を引いた。
振り下ろされる腕は、もちろん三下にはあたらない。
ゴブリンは、腕を振り切ったところで一瞬止まり、再び腕を振り上げると、三下に向かって走り出す。
次に、ゴブリンが、肩を引くのを確認してから下がる三下。
結構、ぎりぎりだ、遅くなっていたらあたるわけだ。
本当に、寸前を抜けていく爪を、焦ることなく観察する。
三下は、数回、同じ様に避けると、今度は、肩を引くのを確認してから左に、ゴブリンから見ると右に回り込むように腕を避け、がら空きになった右肩に、左のフックを打ち込む。
ゴブリンは、たたらを踏み、反撃はできない。
三下は、その間に離れ、ゴブリンを待った。
ゴブリンは、落ち着くと、三下に向きながら両腕を上げ走り出し、今度は、左肩を引く。
攻撃があたると、左右の入れ替わりね。
三下は、右へ回り込みながら、右のフックをゴブリンの左肩へ打ち込む。
次は、左、右、と、フックを肩に打ち込む三下。
ゴブリンは、ダメージが限界を超えたのか、急に消えていく。
おっと。ここまでか。
集中を解いて、軽く体を動かす。
三下は、クリスタルを拾って、カッパをぶら下げなおしたリュックを背負い、出口に向かった。
スライムを、殴っては二度踏みで、一層目を抜けた三下が、ゲートから外へ顔を出すと、雨はまだ降っていた。
調子は悪くない、慰労は思ったより少ない、時間はまだありそう。
今、戻ってきた一層目への入り口を見ながら、両腕を大きく回してみる。
「何か、いつもより肩が軽い気がするんだよな。もう一回、いけそうな感じだ。」
三下は、もう一度、両腕を大きく回して、再び、ボス部屋へ向かった。
ボス部屋の中央に、ゴブリンがいることを確認して、体の調子を確認した。
「やっぱり、肩が軽いきがする。」
声を出して、確認の結果を意識する。
やるだけやって見るか。観察ならできそうだ。
荷物を降ろし、三下は、二回目のゴブリンに挑むことにした。
走ってくるゴブリンを落ち着いて眺める三下。
敢て、ゴブリンが肩を引くのを確認してから下がる。
更にぎりだな。
落ち着いて、爪の軌道を眺め、それを数回。
次に、更に危なくなるが、回り込むようにして避けつつ、フックを肩に打ち込む。
何とか成功。
三下は、とにかく離れると、軽く体を動かしだす。
「、、、、、、。」
たたらを踏んだ後、姿勢をなおしたゴブリンは、三下の動きを警戒して、止まっている。
「あ。何か、わかったぞ。」
一言とともに、肩を大きく回すように動かし、警戒する様子もなく、ゴブリンへ向けて歩き出す三下。
「シャァァァ。」
警戒か威嚇か、近づいてくる三下に向かって声を上げていたゴブリンが、意を決したように走り出す。
三下は、肩の力を抜いて、眺めるように攻撃の左右を確認して回り込み、フックを肩に打ち込む。
タイミングが危ないのは変わらないが、三下に、心理的な余裕ができる。
これなら、蹴りでもいけそうか?
これまでは、疲労と緊張から、足を上げることすら思いつかなかったが、心理的な余裕ができて、考える余裕もできていた。
すぐさま、蹴りを出す三下、微小なタイミング差で、ゴブリンの顔をけ飛ばすことができる。
しかし。
やばかった。調子に乗り過ぎた。長靴が脱げなくて良かったぜ。
三下は、状況からフックを選択し、ゴブリンが消えるまで打ち込み続ける。
ゴブリンが完全消えたことを確認し、クリスタルを拾った三下は、またもや、軽く体を動かす。
「上手いこと力を抜く練習しないとな。」
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