第15話 首相官邸 3
部屋に扉をノックする音が響く。
栗夫は、少し顔を上げて答えた。
「上手くいったようだな。」
PCがアナウンサーの声で、勇者、勇者と騒ぐのを聴きながら、ソファーにもたれた栗夫は、ノックをして入ってきた次官に声を投げた。
「こちらでは確認していませんが、そうみたいですね。全員が帰還したんですか?」
騒ぐPCから、渋谷のダンジョンの突入結果に気が付いた次官は、肩の力が抜けるのを感じながら、栗夫を見た。
「あぁ」
息をつくように答える栗夫。
二人は、少し黙ってPCの騒ぐ声を聴いた。
「先に負傷して帰還した、二人についてですが、」
切り出した次官の言葉を続けるように、話し出す栗夫。
「重傷だが、命に別条はなし。現場復帰も可能、と、後は?」
栗夫の言いたいことに気が付いた次官は、軽く頭を下げる。
「申し訳ありません、発表する前に報告するべきでした。」
おおように頷く栗夫。
「それで、何でこんなに遅くなったんだ。」
ポケットから小さいプラスチックケースを取り出す次官。
「こちらの、隊員が付けていたカメラのデータの回収と、編集に思ったよりも時間がかかりまして。」
栗夫は、受け取る為に手を出そうとして、面倒ごとの予感に手を止めた。
「中は見たのか?」
「編集の際に確認しています。」
「何が映ってた?」
「確認される方が早いと思いますので、どうぞ。」
栗夫は、目を細くして、見るかどうかを迷うも、ケースを受け取り、PCに突き刺した。
アナウンサーの声が消え、隊員の声に切り替わる。
銃声と、時折、指示が飛び、次々と消えていくゾンビと、光る何かが落ちていく。
凝ったカメラワークもなければ、効果音も何もないチープとしか言えない動画だった。
しかし、それが逆に現実味を帯びさせいていた。
栗夫は、一言も発することなく、画面を見続けた。
「ゾンビね。この、落とし物はあるのか?」
無言で動画を見ていた栗夫が、ぼそりと呟く。
「こちらになります。」
次官は頷き、取り出した小さな輝きを、栗夫に差し出した。
「何でできてる?」
値踏みというより、睨むように、手に取ったクリスタルを見る栗夫。
「簡易な確認は行いましたが、全く不明です。できうる限りの調査機関に渡そうと思っています。」
「このゾンビを倒せば、確実に手に入るみたいだからな。破壊しても構わん。徹底的に調べさせろ。重傷者までだして手に入ったのがこれだけでは、割に合わないからな。」
栗夫は、ゴミのように次官へクリスタルを突き返す。
「わかりました。」
受け取ったクリスタルを、次官は、スッと、懐にしまった。
「次は、先に報告してくれよ。」
「わかりました。では、しばらくお待ちください。」
頭を下げ、出ていく次官を見送った栗夫は、苛立つ勢いをソファーの背に押し付けた。
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