第13話 突入部隊 3

「傷を見せてくれ。」


 怪我をしていない隊員に警戒を頼み、腕を抑えている隊員に、剛機は声を掛ける。

 隊員は、痛みに顔をしかめながら、腕を上げた。

 傷口は、噛み口は浅いものの、肉が食いちぎられる寸前になっている。


 防刃服の上からで、この噛み傷か、相当だな。


「そっちも見せてくれ。」


 肩を噛まれた隊員にも、声を掛ける。

 肩の傷は、食いちぎられるまではないが、防刃服の上からとは思えない傷になっている。


「二人は、医療具だけ持ってここを出ろ。装甲車の隊員に、処置と連絡を頼め、その方が間違いなく早い。」


「まだやれます!」


 抗議をする隊員に、剛機は、はっきりと答えた。


「駄目だ。今は、無理をする時ではない。」


 有無を言わせない圧力に、黙る二人。


「いいな。」


 剛機の念押しに、頷く。


「よし、急ごう。残る二班で準備を手伝ってくれ。あと、弾を分けてくれ、俺は多めに頼む。それから、落とし物を二人に渡してくれ、警戒は俺がやる。」


 銃を構える剛機。

 反対に、銃を降ろして、拾い物を渡す為に反対を向く隊員達。


「ご武運を!」


「ああ、大丈夫だ。すぐに戻る。」


 ゲートを通って出ようとする二人に、剛機は、自信をもって答えた。


 

 

 

「さて、内部の簡易調査としては十分にできた。これで、命じられた任務は完了だ。ここからは、俺の勝手な追加になる。頼めるか?」 


 早朝と同じ、敬礼で返す隊員達。


「頼んだ。とは言え、奥へ行くには弾が不足しているから、倒した報酬らしいクリスタルを集めよう。何か意味があるはずだ。」


 二人が残していった装備を分け、準備が終わると、剛機は、銃を手にした。


「後ろに回り込まれさえしなければ、鈍足だ、難しくはない。この部屋は、これだけ時間をかけても出てこないことから、安全だと思う。だから、この部屋を背にして、ゾンビどもをぎりぎりまで引き付けて、離れすぎないところまで一掃して、二班が落とし物を拾い、一班が警戒。ゾンビが急に現れたら声を掛けるから、二班は屈んだままでいてくれ。撃ったら、一度こちらに戻る。で、また引き付けよう。」


 剛機を中心に、二班が両脇、その外側に一班が並ぶと、すりガラスを抜けるように出てきた数体のゾンビを倒して、広間との境に並んだ。


「撃て!」


 剛機は、並んでもすぐには撃たせず、数メートル、本当に、ぎりぎりまで近づくのを待って、発泡させる。

 頭部を撃たれ、先ほどよりは早く掃討されていくゾンビ。

 まだ、近いとも言える距離で撃つのをやめると、二班が、落とし物を拾いに走り、急にゾンビが現れると、二班を屈ませたまま頭部を撃ち、消えたところで、二班を戻して、近づくのを待つ。


「撃て!」


 二回目の掃討を始めてすぐに、剛機は、自分の体の異変に気が付いた。


 なにっ!体が急に軽く、、。


「止め!」


 思わず撃つのを止めさせ、周りを確認する剛機。

 隊員達が何事かと剛機を見る。


「いったん下がろう。」


 ゲートの前に戻ると、剛機は、隊員達の前に立った。


「聞くが、今の俺に、外観的な変化はあるか?」


「特にはないと思いますが、、、。」


 首を傾げて、意味がわからない、と、答える隊員。


「あぁ。すまない。急に体が軽くなった気がしたから、何か、別の攻撃でもあったのかと思ったんだ。」


 意味がわかった隊員達が、あらためて剛機を見る。


「大丈夫だと思います。」 


 暫くして、頷き合うようにして答える彼ら。


「そうか、なら、いい。だが、どうして体が軽くなった気がしたんだ?いや、確かに、軽くなってる。間違いない。」


 手に感じている銃の重さが、わずかとはいえ、小さくなっていることに剛機は、気が付いた。


 どうなってるんだ。レベルアップでもしたのか?


 顎に手を当てた剛機は、少しの間考えると、どうしようもなく待っている隊員達へ声を掛けた。


「お前たちは、ゾンビを倒して、レベルアップすると思うか?」


「それは、、、。」


 どう答えようかと、言いよどむ隊員。


「だが、試してみる価値はある。」


 剛機は、自分の装備から弾を取り出すと、隊員達に渡し始めた。


「もし、今の俺のがレベルアップだとするなら、お前たちも、そう遠くないうちに同じように体が軽くなるはず。そして、そうだとするなら、今の俺のが、すぐレベルアップするとは考え難い。だから、一発でも多くお前たちに撃たせて、俺と同じようになるか確認したい。落し物は俺が拾う。やるぞ!」

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