第12話 突入部隊 2

 一瞬、視界がブラックアウトし、全く違う景色に切り替わる。

 足場の高さはそろっているようで、バランスを崩すことなく、侵入できた。

 剛機は、そのまま、五メートルほど進んで立ち止まり、銃を構えて周りを警戒した。


 本当に、何もないんだな。


 動画で見たように、洞窟の様な材質でできている部屋で、明かりは必要なく、剛機より十五メートルほど先から、かなり広くなっているように見えるが、何もない。

 後ろからきた隊員が、剛機の両側に並んで銃を構えていく。


「完了しました。」


 最後の隊員が配置につくと、報告の声を上げる。


「前進だ。何があるかわからない、注意してくれ。」


 剛機が歩き始めると、少し遅れて、隊員も歩き出す。

 一歩一歩、広くなっているところに近づいていく剛機は、残り十メートルをきった辺りで、影が見えていることに気が付いた。


「止まれ。俺には先で、影が動いているのが見えるが、確認できるか?」


 部隊を止めて、隣の隊員に確認する。


「確認できます。」


 はっきりと答える隊員。


 幻影ではないな。


「ロックを外して撃てるようにしよう。前進。慎重にな。」


 さらに、一歩一歩、広くなっているところに近づいていく、残り五メートルで、三つの大きくなっていた影のところから、何かが出てくる。

 かなりの鈍足なのか、酷くゆっくりと、それでも確実に、すりガラスを抜けるかのように出てくる。

 それは、


 ゾンビ?


 そのままだった。


「撃てっ!」


 かなりの鈍足でも、距離は五メートル程、迷う暇はない。

 パンパンパンと、銃声が響くが、倒れない。

 体が振動するのが確認できることから、弾が当たっているのは間違いないが、平然として進んでくる。


「もう一度だ。撃て!」


 パンパンパンと、もう一度、銃声が響き、小さな何かに変わるように消えていくゾンビ。


 何に変わった?


 かなり小さいのはわかるが、確認している暇はない。大きくなっていた二つ影のところから、ゾンビが出てきている。


「二回撃て!」


 さっきよりも長く響く銃声の途中で、消えていくゾンビ。同じように、何かを落とす。


 次は、あれか。


 剛機の予想通り、大きくなっていた一つの影から、ゾンビが出てくる。


「撃て!」


 消えた後、出てきそうな大きな影はなく、無数の影が見えている。


 もしかして、この影すべてがゾンビなのか?


 少し待っても、大きくなる影がないことから、進むことにする剛機。

 一歩ごとに影がはっきりしていき、広いところに出るころには、


 やはり、ゾンビか。


 と、はっきりわかるようになっていた。


 空間は、幅が二十五メートル程で、高さは六メートル程、奥行きはわからないが、相当な距離がありそうだった。

 ゾンビは、鈍足で適当に移動していて、いきなり襲ってくる様子はないものの、十メートルと少し離れたところをうろついている様子は、かなり異様だった。

 一通り辺りを見回したぐらいに、近くにいた数体が部隊に向かって移動し始める。


「各自目標、撃て!」


 発砲音が始まり、近くにいたゾンビから姿が消えていき、小さく光る何かを落としていく。

 少しして、それなりに離れたところまでゾンビを消したところで、


「止め!」


 と、指示を出しす。ついで、隣の隊員に、


「悪いが、後ろにある、ゾンビが落とした何かを拾ってくれないか?」

 

「わかりました。」


 銃を下し、踵を返す隊員を横目に、正面を警戒する剛機。

 ゾンビは、適当に移動しながらも、近づいてきている。


「拾いました。」


 落とした何かを拾っていた隊員が戻ってくる。


「危ない物かもしれないのに、悪かったな。」


「いえ、特に危険は感じませんでした。こちらになります。」


 隊員が、拾ったものを差し出してくる。

 剛機は、正面への警戒を残しながら、隊員の手で輝いている何かに目を向けた。


「クリスタル?」


 もちろん、剛機もゲームは知っているし、実際、今でも多少はやっている。その感覚から、どう見ても、それは、報酬にしか見えなかった。


「とりあえず、適当に持っていてくれ、そろそろ、一度片付けよう。」


 近づいてくるゾンビの中に、あきらかにこちらに向ってきているのが出てきていた。

 銃声が始まり、消えていくゾンビ。


「止め。」


 剛機は、ある程度離したところで止めさせ、正面の、少し光が集まっているところを指で指し示す。


「あそこの落とし物を拾いに行こう。撃ちながら前進して、念の為、半分ほどで二班は止まって退路確保、一班は撃ちつつあそこまで行って、俺が見張るから適当に拾ってくれ。」


「はっ!」


 答える隊員を見て、頷いた剛機は、銃を構えて、前を向いた。


「前進!」


 進みだした剛機達へ向かって、数体のゾンビが移動を始める。


「撃て!」


 引き金を引きながら進んでいく剛機は、予定通り、二班を中間程で退路確保で待たせ、目的地を抜けたところで足を止めた。


「俺が警戒する。落し物を拾ってくれ。」


「はっ。」


 剛機の両側の隊員が、後ろの落し物を拾おうと向きを変えた時、その後ろで声が上がった。


「うわっ!」


 咄嗟に声のした方へ向く剛機。そこには、ゾンビに腕を噛まれている隊員と、助けようとしている隊員の姿があった。

 走り出す剛機。

 二人のところに着いた剛機は、銃口をゾンビの頭部に押し当てる。

 

「顔を守れ!」


 二人が、急いでヘルメットを引き下げる。剛機は、それを確認することなく、発砲する。

 ゾンビは、一回目の連射の衝撃で口を開いて隊員を離し、二回目ので消えていく。


「なっ!」


 落ち着く暇もなく、反対側の隊員が、声を上げる。

 今度は、肩を噛みつかれている。

 

「頭部を二回撃て!」


 助けようと走り寄る隊員に、指示をしたところで、横で気配を感じた剛機は、そちらを向いた。

 いきなり、ゾンビが噛みつこうとしている。


「くっ。」


 下がりながら、銃口を、開けているゾンビの口に押し込み、二回、引き金を引く。


「撤収だ!走れ!ゲートの部屋に戻れ。」


 慌てて走り出す隊員達。

 剛機は、その後ろに湧き出るように現れたゾンビに銃弾を浴びせた。

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