第11話 突入部隊 1

 筋肉痛の三下が、まだ寝ている早朝、豪氏 剛機(ごうし ごうき)、曹長たる彼は、今回の作戦の為に特別に集められた部下の前に立っていた。

 ここには、彼を含めた十名の隊員と、移動するための装甲車を運転する隊員二名以外、誰もいない。


 いつもなら、上官が長々と喋る時間もない。


 まだ、日が昇る少し前の、静かな時間に、彼らは集まっていた。


「特に、言うことはない。皆、わかっていると思う。ついてきてくれ。」


 並ぶ部下たちが、きっちりした敬礼で返すのを確認した剛機は、ゆっくりと頷いた。


「搭乗。」


 同時に、静寂を破るように装甲車のエンジンがスタート。

 隊員達が、わかれて二台の装甲車に乗り込んだ。

 剛機は、部下全員が乗り込むのを確認すると、前で待つ装甲車の助手席に乗り込み、運転席に座る隊員に声をかけた。


「やってくれ。」

 

 ゆっくり動き出す二台の装甲車は、渋谷のスクランブル交差点で立っている、ダンジョンへ続くゲートへ向かった。





 途中、パトカーと合流し、その先導で走る装甲車。

 程なくして、警察官が道を開けて待つ、渋谷のスクランブル交差点へ到着した。

 彼らが準備するためのスペースを囲む、大勢の報道陣、その報道陣の外に、大勢の国民、それだけでなく、この作戦は、世界中が注目していた。

 そして、それだけ注目をされている作戦でありながら、誰一人として、上官は来ていない。作戦としては、総理たる熊田 栗夫からの直接の命令になる為、おかしくはない、が、その総理たる熊田 栗夫も来ていない。


 それは。


 この作戦の成功率の見込みがマイナス、つまり、失敗になっていることを示していた。


 上官としてここに来るということは、その失敗の責任を取らされる、と、いうことになる。

 誰も、失敗の責任は取りたくない。ましてや、世界中が注目している作戦の責任だ。


 だから、誰も来ていない。


 剛機は、ゲートの近くに来たところで、運転している隊員に指示を出して、装甲車を停止させた。

 装甲車を降りると、隊員が装甲車を降りつつ、前に整列している。

 全員が降りたのを確認した剛機は、指示を出した。


「ゲートの前に移動して整列。」


 剛機が、ちかちかと光るフラシュの中を歩き出すと、隊員も従って歩き出し、彼が、ゲートを背に向き直ると、隊員は、その前に横一列に並ぶ。


「決死隊とも言える、突入部隊が整列しています。彼らは、政府がゲートと名付けた円盤の向こうへ進行する精鋭部隊です。」


 彼らに、一番近い場所を占領しているアナウンサーの声が聞こえる。

 剛機は、それを無視しながら、隊員を見回した。


 少し緊張し過ぎか。まぁ、俺もそうだな。


 隊員を見て、自分の状態に気が付いた剛機は、肩の力を抜くことにした。


「装備の確認を始めてくれ。」


 意識して、普段の口調で指示を出すと、背中のバッグを降ろす。

 口調の変化と、意味に気が付いた隊員達は、少し緊張を解くと、同じ様に背中のバッグを降ろして確認を始めた。


「世界各地で確認されているゲートは、侵入者は確認されているものの、未だ、帰還者は確認されていません。」


 アナウンサーが喧しくまくし立てている中で、剛機と隊員達は黙々と装備の確認をする。


「時間的なこともあり、部隊を突入させるのは日本が初めてとなり、世界中から注目されています。」


 注目か。


 以降、剛機は確認に集中し、聞こえる音を消した。





「よし、装填しよう。」


 全員がバックを背負ったことを確認し、次の指示を出し、自身も動作を始める。


 実弾の入ったマガジンを自動小銃に挿入、スライドを引いて、ロックをかける。続いて、予備のオートマにも実弾の入ったマガジンを挿入、スライドを引いて、ロックをかけた。


「並んでくれ。」


 彼らの動作一つ一つに、カメラのシャッター音とフラシュが浴びせられる。

 数メートルも離れていないところで、マイクにかぶりつくように喋っているアナウンサーの声は、剛機にとっては、遠くに聞こえる雑音になっていた。

 それは、隊員達も同じで、けっして、大きいとは言えない剛機の声を理解し、ゲートの前に二列に並んだ。


 頷く剛機。


 そして、隊員達に背を向け、ゲートに向かった。


 先頭は、彼のみ。


 大きく息を吸って、ゆっくり吐き、右手に持っている銃を胸元に引き上げると、左腕を突き上げた。


「突入ーー!」


 剛機は、小走りにゲートに突入した。

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