第10話 ラウンド5

「さてと、どうする?」


 三下は、丁度反対側に見える、もう一つの出口を見て少し考えた。

 向こうに見える通りは、こちらと同じように曲がっていて、奥が見えなくなっている。


「どちらにしろ、行くしかないからな。」


 答えはすぐに出た。


 リュックを背負い、バールを腰に引っ掛け、三下は、更に奥に続く反対側の出口へ向かった。


 一層目より明らかに多いスライムを、両手両足で倒しつつ進む三下。一時間と少しして、次のボス部屋に着いていた。

 ここまでは、距離的にも一層目と変わらず、曲がりはあるものの、やはり、一本道。


「簡単で助かるぜ。」


 三下は、拍子抜けを感じつつも、ボス部屋を覗き込んだ。


 ゴブリンだな。


 一層目のボスと全く変わらない様子で、部屋の真ん中に立っているゴブリン。


 多分、前のよりは強いんだろうな。


 試してみようか。と、思ったところで、思い出す三下。


 そういえば、戻ったら、もう一回、ゴブリンいるんじゃないのか?


 頑張れば、この二層目のボスのゴブリンを倒せるかもしれないが、戻って、一層目のゴブリンがいた場合、そのゴブリンを倒せるだけの力が残っていなければ、アウトだ。


 とりあえず、戻って確認するか。


 三下が、中ほどの手前から出始めたスライムを倒しつつ、一層目のボス部屋に戻ると、案の定、ゴブリンはリポップしていた。


 ちっ。やっぱりいやがる。


 息はあがっていないものの、疲労から、身体が明かに怠く重くなっていることに、三下は気が付いていた。


 バールは、スピードで不利になりそうだ。


 一瞬、その破壊力にひかれたが、一撃で終わらせることができなければ、次は、自分が一撃を食らうのは間違いない、と、三下は、避けれるスピードを選び、またもや、何も持たないままゴブリンの前にでた。





 一声上げ走り出すも、遅いゴブリン、だが、三下も、疲労から遅くなっている。

 

 パターンで、右腕を振り下ろそうとするゴブリンの右手首を掴み、逆関節をきめ、離れようとした時に、それははっきりした。


 ゴブリンが放った左の攻撃を、避けきれなかったのだ。


 びりびりと三下の右の袖口が破れ、手首に痛みが走る。


 三下は、痛みに気をとられないようにしながら、下がる。


 が。


 遅い。


 ゴブリンが踏み込んで左腕を振り回してくる。


 間に合わねえっ!


 相打ち覚悟で、左足を突き出す三下。


「アギィ。」 


 一瞬早く、三下の蹴りがゴブリンの顔面を捉えるが、勢いのついたゴブリンの腕が止まることはなく、三下が突き出した左足に激突。

 その爪が、弾かれた三下の足を引っ掻きながら抜けていく。


 お互いにバランスを崩しながらも、三下とゴブリンは、勢いのまま離れ、向かい合った。


 遅いと、ここまで上手くいかないとはね。


 三下の左足は、先に蹴りがあたっていたこと、一度、足に腕があたって威力がなくなっていたことから、本当に擦り傷だったが、

ひざ下から裂けたズボンが、傷を派手に見せていた。


 間をおいて、左腕を上げ、走り出すゴブリン。

 何とか、その腕を逆関節にきめた三下は、離れず、ゴブリンに殴りかかった。

 三下の拳は、力は弱くなっていたが、目元にあたった為、離れようと下がるゴブリン。

 追いすがって、更に拳を振るう三下。

 一度、離れて蹴る。そんな動作はどう見てもできない為、追いすがるしかないのだ。

 

 暫く、逃れようとするゴブリンを、必死に追いつつ、拳を振るう三下、という状態が続き、疲労でさらに三下の拳の力が抜けたとき、ぎりぎりあたった一撃で、ゴブリンが消えていった。


 膝が崩れるままに、座り込む三下。





「、、、、、、。」


 指一本も動かす気にならない状態で止まっていた三下は、呼吸が落ち着くと、落ちている小さなクリスタルを拾って、何とか立ち上がった。

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