第6話 ラウンド2
昼がそろそろ近づいている時間に、三下は、目が覚めた。
普段なら、ここまで起きる時間が遅くなることはないが、余程疲れていたのだろう、横っ腹の傷を気にしながら、起き上がる三下。
一応、血は止まっているな。
崩れた包帯の隙間から見えるガーゼのシミが、大きくなっていないことから、それなりに処置も上手くいったらしい。
三下は、包帯を巻きなおすと、座卓の脇の、定位置に座り込んだ。
さて、今日はどうするか。
昨日のことから、ダンジョンには全く行く気にならない、かと言って、仕事が無いことから、特に何もない、昔は多趣味で遊んでいた時期もあったが、冷めてしまい、いくつか残っているだけだ。しかし、今は、それもやる気はない。
携帯をいじくるのも面倒に感じた三下は、とりあえず、テレビのスイッチを入れた。
「これは現実です。合成ではありません。付近には避難指示もでています。昨日に続いて今日も現れた怪物は、ここのを含めて四組が、都内で確認されています。」
バチバチ、ガガン。
急に、アナウンサーの声を塞ぐように音が響き渡る。
「あっ。今、とうとう怪物が四本目の電柱を倒しました。自衛隊の到着はまだでしょうか。都内では、朝方にいきなり現れた怪物に襲われるなどで、複数の重傷者でています。繰り返します。これは現実です。合成ではありません。自衛隊は、、と、今、自衛隊の装甲車が見えました。こちら、、、。」
三下は、テレビの電源を切ると、ゆっくりと立ち上がり、丈夫そうな服を選んで着こむと、玄関口に立てかけてあったバールを握りしめ、外へ出た。
三下は、昔の自分を思い出していた。
三下の昔は、やってはみるものの、何に対しても全て、逃げ出して終わっていた。
いや。終わってないかな。
それらは、三下の中で、まだくすぶっている。
いろいろと理由をつけて、今だに逃げているだけだ。
それらは、成否でも、勝ち負けでもなく、決着、と、いうかたちで最後の区切りをつけないかぎり、終わることはない。
先日のゴブリンとの死闘のように。
ましてや、今、起きていることは、神が、絡んでいる。
逃げて、逃げ切れる問題じゃない。なら、今度こそ、決着のつく最後まで。
三下は、覚悟を決めると、ダンジョンへ向った。
バールを、工夫して邪魔にならないよう腰に引っ掛けた三下は、スライムを、慣れた手順で叩いて踏んで、と、ゴブリンのいるボス部屋へ来ていた。
昨日と同じく、部屋の真ん中に立っているゴブリン。
先に、あの右腕を振り払えばいけるはずだ。
三下は、昨日の経験から少し考えると、腰からバールを外して握りしめ、ゴブリンの前に歩き出した。
「ギャ。」
動き出すなり、両手を上げて走り出すゴブリン。
三下は、左足を前に、バールを下げて、遅いゴブリンを待った。
「ギャギャ。」
叫びつつ、案の定、右腕を振り下ろしてくるゴブリン。
三下は、落ち着いて、下げていたバールを振り上げて、その右腕を打ち払う。
よしっ!
が。
バールとともに振り上げた両腕の向こうに、衝撃で体をのけぞらしつつも、踏み込んでいくる三下に向って、左腕を振り回してくるゴブリンが見える。
くっそっ!
とっさに、バールを振り上げた勢いを利用して、ゴブリンの左腕の動きに合わせて体を回転させる三下。
ゴブリンの爪は、浅く、三下の背を捉える。
三下は、そのままゴブリンが正面にくるまで体を回転させ、無理に左腕を振り回した為、姿勢を崩しているゴブリンから距離をとった。
左を忘れてた。
痛みの具合から、昨日ほどの傷ではなさそうだ、と、判断する三下。
立て直したゴブリンは、すぐさま左腕を上げて走ってくる。
動きが遅くて助かったぜ。
今度は、右足を前に、バールを下げて構えた三下は、ゴブリンの左腕をバールで跳ね上げ、返す勢いで、ゴブリンの頭部を叩きつけた。
、、、、。
ゴブリンが確実に消えるのを待って一息ついた三下は、落ちたクリスタルを拾うと、外へ向かった。
外は、昼をすぎたあたりで、まだ明るく、スプラッター姿の三下は、仕方なく、暗くなるのを待って部屋へ戻った。
医療セットから包帯などを取り出して、適当に処置していく三下
あの、両腕をまず何とかしないと。
今日の反省をしつつ、包帯を巻き終えると、布団にもぐりこんだ。
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