第4話 首相官邸

 三下がゲートを覗き込んでいる頃


「最後の、イチイチサンナナ部隊から連絡がありました。目標の消失を確認。ここは、人的な被害はないそうです。」


 しっかりとスーツを着込んだ次官が、総理たる熊田 栗夫の前に立っていた。


「そうか。」


 栗夫が、ため息をつきながら答える。


「ただ、、。」


 言いよどむ次官。


「なんだ、面倒ごとが増えるのか?」


 機嫌の悪さを隠すことなく次官を睨む栗夫。

 次官は、慌てて答えた。


「いえ、どうも、避難指示に気が付かなかった様子の民間人が一人いたようです。」


「ほっとけ、そんな奴。」


 阿保らしい。栗夫は、もう一つため息をつきつつ、頭を抱えた。


「それで、こいつはどうなってる?」


 栗夫の前に置かれたノートパソコンのモニター画面に、渋谷のスクランブル交差点が映し出され、その真ん中に、直径三メートルほどの黒い円盤が立っていた。


「ただいま、突入部隊の編成をしています。監視カメラの画像から、中に入ったと思われる4名は、未だ帰還していません。都内で他に確認された五つの円盤と、日本国内で確認できている二十程の円盤は2メートルぐらいの大きさで、侵入者も確認されていますが、帰還者は確認されていません。」


「識者共は?」


「一通り連絡しましたが、誰も、、、。」


「何のために委員会やらを用意して金を回していると思ってるんだ。使えん!」


 顔の前で手を組、せわしなく指を動かす栗夫。

 一瞬、間をおくと、意を決したように、次官が口を開いた。


「あと、確認中ですが、。」


「まだあるのか?」


「申し訳ありません。」


 正直、かなりいっぱいいっぱいになっている栗夫は、聞きたくなかったが、立場上仕方なく、続きを促した。


「なんだ。」


「言葉が通じるようになっていると、報告が入っています。」


 次官は、言っている自分も信じていない表情になっている。


「はっ、意味が分からん。」


 明らかに不審者を見る目を次官に向ける栗夫。


「私も、信用はしていないのですが、国外の情報収集をしている全員が言っていまして、、。」


「つまりは、英語も、ドイツ語も、他の外国語も全て理解できるようになったと、そう言っているんだな。」


「全ての言葉かはわかりませんが、確認できる言葉は、全て、のようです。」


「信じられん。」


 栗夫は、またもや、ため息をつきつつ、ソファーにもたれ掛かる。


「私も思いました。そのPCで確認してください。」


 次官は、今、渋谷のスクランブル交差点が映し出されているPCを、苦笑しながら指し示す。

 ゆっくりと体をPCへ向けた栗夫は、慣れない手つきで外国のHPを適当に確認していく。


「、、、、、。」


 ページが開かれるごとに、栗夫の目が見開かれていく。


 少しして、栗夫が呟いた。


「信じられん。」


「私もです。」


 次官も、疲れた顔でため息をついた。




「神。本物なのか。」




 栗夫の一言が、残った。

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