第10話 使用人工房1

秋葉原駅に到着し料金を払い乗ってきたタクシーを降りる。


このあたりは相変わらずみんな忙しそうに動いている。特に地下通路に繋がる道はひっきりなしに車やトラック、歩行者が行き交っている。


そんな光景を横目にやっぱり人の多い大通りまで移動し、とあるメイドカフェのドアに付いてる鈴をチャランチャンと鳴らしながら入る。



「おかえりなさいませ〜何名様ですか?」


「2人でお願いします」


「2名様ご帰宅です〜」



対応してくれたメイドさんに人数を答えると空いていた4人用のテーブルに案内され、隣り合うようにして2人で座った。



「ご注文がお決まりになりましたらお声掛け下さい〜」


「あ、じゃあお願いします」


「は〜い、お伺いします〜」



席についてからノータイムで注文に入る。ここのお店は何度も来たことがあるし、裏のお店に入るための注文も熟知しているからメニュー表を見る必要もないのだ。2人とも会員カードを裏向きに提示して、注文を始める。



「スペシャルタイムズの天使の輪トッピングを2つお願いします。あ、追加で右羽と左羽をそれぞれお願いしますね」


「は〜い。ご注文を確認します〜、スペシャルタイムズに天使の輪と右羽、左羽セットよろしいですか〜?」


「うん。あってる」


「了解しました〜、少々お待ち下さい〜」



私が注文し、店員さんの確認は明里が答える。メイドさんは提示した2枚の裏向きの会員カードにインクの出ないボールペンを少し走らせてから奥に入っていった。


裏のお店である、雑貨屋に入るための手順がこれだ。飲み物は実際に運ばれてくるのでそれを飲み終わったら奥へと案内してもらえる。



「にぃ、そういえば、ここのクランなにやってるクランなんだっけ」


「使用人工房か?ここのクランはなんだっけ...いろいろやってる、メイドやら執事やらの使用人の育成、衣服やアクセサリーの作成、メイドカフェ、ダンジョン攻略、使用人派遣業、装備品の作成、魔導具作成・解析、不動産とかかな?あ、警察との連携もあるか」


「思ってた以上にいろんなことしてるクランだった」



使用人工房はそこそこ大きなクランで、いろんなことに手を出してる少し珍しいクランだ。通常のクランならダンジョン探索をメインに生産も少しやるみたいなところが多い。でもここはメイドオタクやら使用人に憧れた者やらが集まるクランなので趣味に全開である。そんな者たちを纏めているクランマスターも相当な趣味人だしな。



「にぃはどこかのクランに所属するつもりはないんだよね?」 


「ああ、クランに入らなくても困ってないし何かあったときが面倒だからな。取引くらいならするが」


「なら(ずっと私に縛り付けられそうで)良かった」



そんな会話をしながら待っていると、さっき注文した飲み物とコースターが運ばれてくる。



「お待たせいたしましたご主人様、お嬢様。スペシャルタイムズに天使の輪と右羽、左羽セットです〜」



メイドさんから見て奥側に座っていた私に右羽、手前側に座ってた明里に左羽の白い天使の羽のような飾りがついているカップをおいた。


パパっと2人で写真を撮ってから炭酸の爽やかな飲み物を飲んだ。



「飲み終わったか?」


「うん、もう大丈夫」


「そう、ならひっくり返すぞ」


「うん」



そう言って飲み物の下にあったコースターを飲み物をどかして裏向きにする。これが最後の手順だ、少しすればメイドさんの誰かが奥へと連れて行ってくれるだろう。



「失礼いたしますご主人様、お嬢様、こちらお下げしてもよろしいでしょうか奥へご案内いたしますか?」


「はい、お願いします」


「では、こちらを置いていきますのであちらの扉をご利用ください〜」



メイドさんが飲み物とコースターを下げるとき、一つの鍵を机に置き、ある本棚の方に手で指した。


今回は本棚か、このお店の奥へと続く扉は数カ所あり、毎回違う指定された扉から入るシステムになっている。行き着く場所は同じだから問題無し。


特にここで待つ理由もないので席を立ち本棚のに向かい、裏側に回る。鍵穴にさっき貰った鍵を指して扉が現れるのを確認してからその扉を開き、暖かい色の通路の中にはいって進んでいく。


進んだ先にある2つめの扉に自分の会員カードを指定の場所に探すと、扉のロックが解除された音がして自動で開いていく。


その先には、白を基調としたそこそこの広さの部屋が広がっていた。真ん中に一対の長ソファーと広い四角い机があり、壁際などに調度品もバランス良く雰囲気を壊さないように置いてあった。



「やっぱここいい部屋だな」


「うん。いい部屋」

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