第14話 神々の残滓

 お嬢様は、ズタズタになったクレアの遺体を確認したあと、その右手から取り上げた紅玉ルビーの首飾りをわたしに差し出した。


「お嬢様?」


「魔法使いの、あの方を呼んで下さい。お礼は、この首飾りを差し上げます」


 躊躇ためらうわたしに、お嬢様が語ったのはだった。



『森に囲まれた小さな村

 跳梁跋扈ちょうりょうばっこする魔物に苦しむ村人は神託を仰ぐ

 村娘を生け贄に、一晩森に置き去りにせよ

 生け贄の村娘は子を宿した

 そして

 魔を喰らう魔を産み落とす』



「この首飾りの呪いに引き寄せられる魔を喰らうために、わたしの前に現れたのだと思います」


 わたしはまだ迷いを捨てきれなかったが、お嬢様はもう覚悟を決めていた。わたしはお嬢様に従う。

 ノアールを迎えに、森番小屋へ向かった。



「では、わたしは魔法使いとして御屋敷に行くんですね」


 お嬢様が「ノアールを魔法使いと言っていた」のを伝えると、ノアールは妙な緊張感テンションで喜んでいた。

 とは言え、森番小屋を出るまでのが一仕事だった。

 ノアールは、相変わらず黒いローブの下は裸だ。持って来た服を着せなければと思ったのが、それが面倒だった。

 右手の鉤爪が袖を通らない。それで、服の右袖を短剣で切り落とそうとしたときだ。


「短剣を右手に触れさせないで下さいね」


「?」


「妾は未熟者なので魔力の制御ができないんです。右手と左脚からは魔力が流れ出てしまっています」


 なるほど、それで異形の形なのかと納得する。


「魔力と鉄は、相性が悪いんです。不用意に触れ合ってしまうと、互いに反発したり、最悪どちらかが壊れたり消えてしまったりするんです」


 ああ、と思い当たった。

 ノアールがズタ袋を引き摺って御屋敷に現れた日、不意に触れた瞬間に激痛を感じたことがあった。あの時、わたしは右手で剣の柄を握ってたっけ。


「この世界で魔力と呼ばれているのは、太古の昔に世界を創った神々の残滓ざんしなのだそうです。そして時が流れて、人が鉄を使うようになって魔力は更に不安定になりました」


 大昔は、銅を加工した剣で戦をしていた。鉄の剣を持てるのは、特別な者だけだった。それが今では雑兵でも鉄の剣を、使い捨てている。

 戦だけではないか?

 農夫も鉄の道具を使いこなしている。


「ノアールは、鉄が嫌いなの?」


「はい、大嫌いです」


 ノアールの顔から笑顔が消えていた。嫌悪あるいは憎悪の感情に、ノアールの眉が歪んでいた。


「この世界が鉄で溢れてしまったら・・・魔力は存在しなくなります。魔力をかてにする妾も、この世界には存在できなくなるのでしょう」

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