第13話 人ならざる力

 お嬢様を部屋のベッドに寝かせてから、わたしと執事でクレアの残された荷物を調べた。その荷物からは、わたしが処分したつもりの短剣が何本か見つかった。


 大広間で食事を取るときには、大皿に盛られた肉や野菜を短剣で切り分けて自分の皿に取る。切り分けるときに手も短剣も脂にまみれてしまう。使い古しの短剣なら脂にまみれた後は手入れをせずに捨ててしまうものだ。


 クレアは、わたしが処分した短剣を何本か拾い集めていたらしい。


「指輪を持って来た女を内緒で追い返そうとした件を、お嬢様に告げ口したのもクレアでございました」


 執事から知らされても「ああ、やっぱり」としか思わない。愛犬の首に刺さっていたと言う短剣を見たとき、告げ口の犯人も同じだろうと思っていた。


「わたしはクレアに嫌われてたんだね」


 お嬢様の護衛役としてだけでなく、御屋敷の使用人とも上手くやってるつもりだったから、少し残念な気がした。



 お嬢様が目を覚ましたと連絡を受けて、わたしはお嬢様の部屋へ行く。


「もう少し、わたくしを信用して下さいね」


 お嬢様は、ベッドから上半身を起こしていた。「やれやれ」と言った感じの、子供を咎めるような口調でわたしをたしなめた。


「申し訳ありませんでした」


 わたしとしては、謝る以外にしょうがない。愛犬のことも、ノアールのことも、お嬢様に正直に話して対処するべきだったのだ。


「クレアのことは、街の市警に通報しておきなさい。でも、不用意な調査を街の何でも屋ギルドなどに依頼しないように。噂を聞きつけた無法者が何をするか分かりませんからね」


「はい」


 仰る通りだろう。賞金目当てに過激な行動に出る者や、横から紅玉ルビーをくすねようとする者も出るかも知れない。クレアの身の安全にも繋がる。


「お嬢様!ラゲルナ様!」


 血相を変えた執事が、部屋に飛び込んできた。


「クレアが・・・見つかりました」



 玄関ロビーの吹き抜けに、御屋敷の使用人のほとんどが集まっていた。何十人も集まっているのに、誰も声を発しない。


「・・・あり得ない」


 クレアは、右手に紅玉ルビーの首飾りを握った姿でロビーに倒れていた。全身が獣のようなに食い荒らされてズタズタになっている。


「ついさっき、わたしたちがロビーを通ったときには、何もありませんでした」


 何人かメイドが証言してる。証言の通りなら、目を離した僅かの時間にクレアの死体は現れたことになる。

 獣にやられたような傷跡、突然現れた死体。

(ノアール?いや、これはノアールの右手による傷じゃない!)

 人ならざる力が、御屋敷を飲み込んでいるのを誰もが信じた。

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