第12話 悪夢・・・誕生

「きゃああ!」


 お嬢様の悲鳴・・・反射的に海賊の剣ヴァイキングソードを引き抜いて、お嬢様の部屋へ向かう廊下を疾走する。

 お嬢様の部屋に飛び込む直前、確かに見えた・・・複数の人の形になった白い霧!


「お嬢様!」


 うつ伏せに倒れたお嬢様の側に、メイドのクレアが立っている。クレアの手には、紅玉ルビーの首飾りが握られていた。

 クレアが短剣を持っているかも知れない・・・そう思ったわたしは、倒れているお嬢様のもとへ走ってその上に覆い被さった。とにかくお嬢様を守るのが最優先だ。

 背中から短剣を突き立てられる覚悟もしていたが、それはなかった。

 クレアが部屋を出る気配がしたので、お嬢様の息を確認する。


「大丈夫・・・怪我もしてない」


 お嬢様の首に手で締めたような跡があるが、息はしてる。他に傷もない。

 わたしもクレアを追って廊下へ出た。外へ向かうはずだと思って、一番近い出口に繋がる廊下を走った。


「・・・え?」


 どこにもクレアの姿がない。真っ直ぐなはずの廊下で、クレアを見失ってしまったのだ。

 緊張の糸が切れた瞬間、また意識がどこかに飛んでしまう。

 目の前に、異様な地下牢の光景が拡がった。



 ・・・痛いィィィ!

 下腹部が燃えるように熱い。大量の血液が、両足の間からドクドクと流れ出ているのがわかる。


「きゃああああああ・・・」


 思わずあげた悲鳴が石組みの暗い部屋に響き渡った。

 急に視点が切り替わる。

 それきり女は動かなくなった。女の下腹部が、内側から突き破られる・・・猛禽類の鉤爪を思わせる鋭利な爪が、女の腹を割いて突き出ていた。

 真っ赤な血にまみれた「何か」が、ゆっくりと女の腹から這い出てくる。血まみれの小さな影は、四つん這いで石の床を這う。格子に組まれた丸太の方へゆっくりゆっくりと向かっている。鉤爪の付いた右手が、丸太を掴んだ。

 血まみれの影は、二本の脚で立ち上がる。その影はいつの間にか、人の子供ほどの大きさになっていた。左脚に巻き付いていた触手が伸びて、出入口をさえぎっている丸太に巻き付く。

 ・・・ミシ・・・ミシ。

 部屋全体が軋みをあげて震え出す。丸太は引き裂かれて、丸太を止めていた石組みまでが崩れ出す。さえぎるものを取り除かれた。

 影は、人の大人ほどの大きさになったいた。姿形は人の女のように見える。射干玉ぬばたま色の髪の間から、切れ長の双眸が覗く。



「・・・ノアール?」

 意識が戻った・・・やはり御屋敷の廊下に、わたしは立っていた。

わたしの記憶を少し・・・あなたに差し上げました』

 ノアールは、そう言ったんだっけ。

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