第11話 悪夢・・・地下牢
・・・冷たい。
誰かに呼ばれたような気がして、目が覚めた。
上の方にある小窓から入る光に照られて、組み上げられた石の壁が赤く染まっている。小窓から差し込むのはきっと夕焼けの光なんだと思った。
重い身体をゆっくりと起こす。素足で立つと、石の床は冷たかった。
薄明かりに照られた部屋は、石組みの倉庫のようだ。出入口となるはずの開口部には、太い丸太を格子状に組んである。格子の部分は太い縄で頑丈に結ばれていて、中からは出られないように遮っている。
丸太の格子の隙間から麦粥と干し肉が差し入れられているの気付く。
重い身体を引き摺るようにして、開口部に近づいて麦粥に手を伸ばした。大きく膨れた下腹部は、身を屈めるには少し邪魔になる。
お腹の中の「何か」は育っているんだと思った。
麦粥はまだ温かかった。けれど味はしない。干し肉も同じ。味がしないのではない・・・味を感じられなくなったんだ。
麦粥を身体の中に流し込んで、もう一度立ち上がった。両手を背一杯伸ばしても、小窓にはやはり届かない。丸太も頑丈に組まれていて、女の力ではビクとも動かせない。
石の床の冷たさが厭になった。寝床に戻り、毛布に包まって闇に意識を沈めるとほんの少し心地よく感じられた。
朝から気分は最悪だった。夢見が良くなかった。
(どうして地下牢に閉じ込められているんだろう)
(臨月で、ボロ切れのような毛布に包まるなんて)
いや、夢は夢・・・問題なのは現実の方だ。
お嬢様の愛犬が死んだ・・・いや、殺された。
「短剣が、首に突き立てられておりました。お嬢様には、愛犬の死だけはお知らせしましたが・・・まだ詳細はお伝えしておりません」
お嬢様の愛犬は、ここしばらく餌を食べられずに、相当に弱っていた。それはお嬢様もご存じだったはず。このまま「病死としておくべきか」と言う相談を、執事から持ちかけられれいるところだ。
そうもいかない・・・と言うのが、わたしの判断だ。お嬢様ではなく、犯人の方が問題になる。殺しの味を覚えてしまえば、それは肥大化しかねない。今回は犬でも、次に人が狙われるかも知れないから。
そう考えたが、犯行に使われた短剣を見て気が変わった。
「執事様。これ、わたしの短剣です」
「なんと?」
短剣と言っても、使い捨てにしてるうちの一本だ。この御屋敷でも、食事の時に肉の切り分けに使った後で何本か無くしてる。
(わたしに罪を着せようとした?)
わたしだったら、狙われたとしてもどうにでもできる。お嬢様の負担にならないように執事と口裏を合わせる約束をした。
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