第6話 黒いお土産

 ・・・お嬢様が身に付けている首飾りが欲しい。

 ・・・あれは滅多にない呪いのこもったものだ。

 最初は、嫌がらせを言っているのか思った。お嬢様が指輪を渡して「屋敷に来るよう」に呼びつけたのに、いざ来てみたら「二度と関わるな」と言われたんだ。不機嫌になっても当然だろう。

 けれど・・・が言う「呪い」を、戯言とは聞き流せない心当たりも、実はあるのだ。



「ごめんなさい。あれはお嬢様のものだから、わたしの一存では約束できないの」


「そうなんですね。でも構いませんよ」


 微かにがっかりしたように射干玉ぬばたま色の眸を伏せたが、すぐに顔を上げた。


わたしは、あなたに会いたかったんです」


 そう言いながら、涼やかな笑顔でズタ袋のひとつを取り上げた。


「あなたに喜んで貰いたくて、お土産を用意してきたんですよ」


 ズタ袋の中から、ごろりとドス黒い塊が転がり落ちる。


「・・・!」


 それは、人の・・・男の首から上の頭部だった。ドス黒くなった血糊にまみれた顔は、森でお嬢様を襲った野盗の一人だ。残ったふたつのズタ袋からも、あの時の野盗の頭が転がった。


「この3人を見逃したことを後悔なさっておられたから。差し出がましいことですが、妾が後始末をしておきました」


 ふつふつと怒りが込み上げてくる。右手が勝手に、腰の海賊の剣ヴァイキングソードの柄を握っていた。

 野盗を殺したことに怒ったんじゃない。「見逃すべきではなかった」と後悔した、わたしの心の中を覗き見されたことが腹立たしい。



 不意に、の視線が空に向いた。


「どうしたの?」


 まるで、何かを追いかけるようにフラリと足を踏み出した。海賊の剣ヴァイキングソードを握ったままの右手が、の身体に軽く触れてしまう。


「・・・っく!」


 衝撃と激痛・・・剣を握った右手は痺れ、鞘の止め紐が切れて剣が地面に落ちる。


「ごめんなさい。他に気を取られていました」


 は、謝罪をしながら落ちた剣を拾い上げて手渡してよこした。今の衝撃・・・一体、こいつの身体は何なんだ?



「先ほど、関わるなと仰いましたが・・・もう、いろいろとようです。妾がいた方が都合が良いかと思いますよ?」


 何を意味して言っているのかは分からない。けれど、その言葉に悪意はないように思えた。


「力を貸してくれるの?」


「はい。妾は、あなたと仲良しになりたいんです」


 更に何を言っているの分からない。いや、分かりたくない。もしかしたら、見返りに魂とか持って行かれたりするんだろうか?

 まあ・・・それでもいい気がしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る