第4話 御屋敷の客人
3ヶ月前。レイドリク伯の奥方すなわちアーシャお嬢様の母上様が亡くなられた。健康を害して長らく病床に伏されていたと言う。
アーシャお嬢様の母上様は、少し離れた土地にあるレイドリク伯家の別荘で治療をなさっていた。別荘にそのまま残された母上様の遺品を整理するために、お嬢様はお屋敷と別荘を何度も行き来している。
あの事件は、別荘からお屋敷へ戻る途中に起こった。
お嬢様は御屋敷の者たちに「指輪を持ってきた方を、客人として丁重に迎える」ように指示をした。しかし、わたしはお嬢様に知られないように「お嬢様に伝える前に、わたしに知らせる」旨を御屋敷の皆に言い含めた。お嬢様付きメイドであるシャーロットが、あれの不気味さを伝えてくれたおかげで御屋敷の使用人たちも納得してくれた。
領主レイドリク伯は武勇の誉れの高い方で、今も戦で領地を留守にしている。領主様の留守に、お嬢様を危険な目に遭わせるわけにはいかないのだ。
剣と皮鎧の手入れをしていると、アーシャお嬢様がメイドのシャーロットを連れてやってきた。御屋敷の使用人たちが手慰みで焼いた焼き菓子を、持ってきてくれたのだ。
「ラゲルナ様は、そんな大きな剣を振るうのですね」
この地の騎士や戦士は、概ね十字形のロングソードを使う。それに比べたら、わたしが使う剣は、分厚くて幅も広い。当然、重い。
「やはり、手に馴染んだものが一番ですから」
北の果ての地で、盾の乙女として戦っていた時からの手に馴染んだ剣だ。剣の芯の部分は柔らかい軟鉄なので、少しグネグネと曲がっている。使い込んだ剣は、蛇のように曲がることから毒ヘビの力を宿すとも言われている。
「父上の率いる騎士団でも、ラゲルナ様に1対1で勝てた者がいなかったと伺いました。そんな方が、御屋敷での警護など退屈ではありませんか?」
お嬢様は、わたしを「ラゲルナ様」と呼ぶ。一応、わたしの扱いは使用人ではなくて客人扱いだからだ。
アーシャお嬢様の父上であるレイドリク伯は武勇で知られる方だ。北の
「いいえ。お嬢様をお守りする役目は、百万の敵を討つよりやり甲斐があります」
本当にそう思っている。お嬢様の人柄に触れたら、おおよその者がそのような気持ちになるはずだ。
何より・・・もう、友を殺さないでいいんだから。
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