第3話 盾の乙女

 わたしは北の果ての地の戦士だった。

 盾の乙女・・・そのように呼ばれる女戦士。けれど盾の乙女であることに嫌気が差してしまい、わたしは故郷を捨てて逃げてきた。

 盾の乙女は、戦場で敵と戦うだけの戦士じゃない。もっと大事な役目がある。

 それは・・・傷を負って手当の施しようのない味方を看取ること、あるいは苦しむ前にこの手で神々の館ヴァルハラへ逝かせることだ。

 昨日まで麦酒ビールを酌み交わしていた友を、ついさっきまで戦勝を誓い合った同胞を、この手にかけることに耐えられなくなってしまったから。



 幸い、腕に覚えのある戦士はどこでも重宝される。誰一人知る者がいないはずの地でも、領主レイドリク伯のお屋敷から招きを受けた。

 今のわたしは、領主レイドリク伯の娘であるアーシャ様の護衛役だ。


「申し訳ありませんでした。わたしがお嬢様の側を離れたばかりに、皆さんに危ない思いをさせてしまいました」


 お屋敷に戻って。わたしは、アーシャお嬢様だけではなく御者のラルクとメイドのシャーロットに謝罪する。


「ラゲルナ様が出られた後すぐに、あのならず者たちが現れたのです。客車キャビンをこじ開けられて、御者ラルクメイドシャーロットが外へ引きずり出されてしまいましたが、怪我がなくて良かったです」


 あの悲鳴は、護衛のわたしを馬車から引き離すための罠だったのか知れない。わたしは、自分の迂闊さを反省した。

 それと・・・それだけのために、あの連中が少女を殺したのなら見逃してはいけなかったのだと後悔した。


客車キャビンに一人で残されたわたくしが襲われそうになった時、突然あの方が目の前に現れたのです。そして、あの野盗を客車キャビンの外へ投げ飛ばしてくれました」


 突然、現れた?・・・きっとその通りなんだろう。

(最初はあの連中の仲間かと思ったけど)

 しかし。それならわたしを足止めするはずだし、お嬢様を助けるものおかしい。一体、の目的は何だったのか?


「お嬢様、今日のことは忘れて下さい。は、人が関わってはならない人外の存在です」


「でも、私を助けてくれたのですよ?」


「・・・お嬢様」


 メイドシャーロットが、オドオドしながら口を開いた。


「あの方は、一体いつ客車キャビンに入られたのでしょうか?わたしは壊れた扉の側で野盗に捕らわれていましたが、外から中に入る人影に気付きませんでした」


 声が少し震えている。メイドシャーロットも、何かしらの不気味なものを感じたようだ。

(あれは、戦って勝てる相手じゃない)

 いや、戦っていい相手じゃない。わたしの戦士としての本能が、悲鳴のように警告してる。

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