第2話 領主令嬢

 馬車は、ならず者風の野盗に襲われていた。

 客車キャビンの扉は壊されて、御者とメイドが野盗に連れ出されている。野盗の一人が、剣を振り上げて御者に斬りかかろうかと言うところに、わたしはギリギリで間に合った。海賊の剣ヴァイキングソードを横薙ぎに振り切ると、鈍い音を立てて野盗の胴体に食い込む。野盗の身体は、大人の背丈分くらいは吹き飛んだ。


「チッ!」


 メイドを連れ出した方の野盗は、わたしの剣戟を見て戦意喪失したらしい。吹き飛んだ仲間を助け起こして、逃げ出した。

(悪党でもいいトコあるじゃないか!)

 いや、関心してられない・・・お嬢様は?

 客車キャビンに目をやると、3人目の野盗が外にはじき出されるのが見えた。


「お嬢様!」


 地面に転がる野盗は、ゼイゼイと息を荒げていて、右胸から腹にかけて鋭利な何かで斬りつけたような傷を受けていた。いや、違う・・・獣の爪に引き裂かれたような傷だ。

 野盗は、わたしを見つけるとヨロヨロとした足取りで立ち上がって走り去っていく。

(何が・・・起きたの?)

 頭の中が整理できずに、わたしは走り去る野盗の背中を見送ってしまう。そして、やっと気付く!


「お嬢様?」


 客車キャビンに飛び込んだわたしは、脅えてはいるが無事なお嬢様を見て安堵した。


「ラ・・・ラゲルナ様・・・」


 脅えるお嬢様は、向かい側の席を指さした。その示す先には、あのがいた。



 お嬢様の向かいの側の席に、平然と座っている


「あんた・・・ここで何してる!」


 思わず、ローブの上から胸座むらぐらを掴んでしまう。


「酷い言い方です。わたしは、この方を助けて差し上げたのに」


 そう言いながらローブの中から出したで、胸座を掴んでいるわたしの右手を握った。


「・・・左手が!」


 馬鹿な!どうして・・・海賊の剣ヴァイキングソードで、確かに引きちぎったはずなのに。

 胸座むなぐらから手を離して、わたしはお嬢様の身体を抱きかかえた。そして海賊の剣ヴァイキングソードの剣先をに向ける。


「外に出なさい。お嬢様から離れるの、今すぐ!」


 不満そうには、席から立ち上がって客車キャビンの外へ向かう。客車キャビンから飛び降りた時に、はだけたローブの下には白い裸体が見えた。



 わたしは、メイドを客車キャビンに入れ、御者に「急いで馬車を出す」ように指示をする。そんな様子を、側では恨めしそうな目で眺めていた。


わたくしは、領主レイドリク伯の娘でアーシャと申します。領主屋敷を訪ねて来て下さいませ」


 客車キャビンから身を乗り出したお嬢様は、に人差し指から外した指輪を渡してしまう。


「この指輪をお持ち下さい」


 は、指輪を受け取って嬉しそうに微笑んだ。

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