第12話 ヒビキの覚醒
「皆の供養を手伝っていただき、誠にありがとうございます。ヒナ様」
「いや、あのままにしておけねえからな。気にすんな」
あれから一週間が経った。
俺はウォルターの身体を使ってリル達と共にいくつか無事な方の建物で生活しつつ、瓦礫の撤去や死体の供養をした。
それとファンナム村の伝統なのか。リルが無事だった服の中から一番綺麗な白色のワンピースを着て、新しい墓に向かって舞いを披露する。
そうして一週間ほど魂の送り火として使い続けていた蝋燭の火を消した。
それが直前までやっていたこと。
今はリルが帝国へ向けて準備をしているところだ。
俺がいなくとも帝国に行くつもりの復讐心溢れるリルが心配だから一緒にって気持ちは強いんだけどなぁ……。
「ヒビキが動かなくなっちまったし……」
「────!」
「このまま石みたいになったスライムを荷物みたいに連れていっても大丈夫な気はするけど、どうするか……」
「私は急いでいませんので、ヒビキ様が無事なことを確認してから帝国に向かうというのはどうでしょうか?」
「……まあ、それが一番妥当か」
────そう、あの戦闘直後、何故か赤く光り輝いてたヒビキの身体が石のようになって動かなくなった。
まるで幼虫が蛹へ進化を遂げるかのごとく。いや、蝶という名の進化に変わるか、蛾という名の化け物になるかはヒビキ次第だけど。
(核を吸収しちまったなら身体に大きな影響があって当然だもんな……)
海ノ旅団に出てきたバッドエンドを思い出す。
ヒロインの核を食べた主人公が化け物に変わる瞬間のこと。
何故かは分からないが、ヒビキがそうなるとは思ってないんだ。
というか────理性のない獣へ変異してしまうこの世界の禁忌とは、人間の核を人間が食べることで起きるもの。
魔物はよく人間を餌にするから核を食べて当然。核を食べることで変異するなら全てのモンスターがそうなってしまうだろう。
ヒビキはスライムなのだから禁忌を犯したわけではない。でも、身体が一週間も動かなくなるだなんて様子がおかしい。
「それではヒナ様。私は夕食を作りに行ってきますね」
「おう。頼んだぞ。俺はアオイと一緒にヒビキんとこ行ってくる」
「────!」
好奇心旺盛なアオイはこの一週間、森の中を探検することがなかった。
まったく動かなくなったヒビキをアオイは観察し続けていたのだ。
まあ、心配しているというよりは好奇心で────ヒビキはこれからどうなるかなと興味を抱いてるだけだと思うけど。
「あっ……!」
小さな部屋にある机。その上に置いたクッションの中心にいるヒビキの様子を見にきた俺がみたのは、灰色に固まったヒビキの身体に亀裂が入った瞬間。
そのまま身体が粉々になるかと思ったが、本能でそれは違うのだと分かった。
亀裂の入った灰色の身体より奥に、半透明で真っ赤なスライムの身体が見える。
それはまるで卵の殻から抜け出そうとする雛のようだった。
もぞりと動くヒビキが、殻を突き破って出てきた。
「────!」
アオイがピョンっと机へ飛び乗ってヒビキの周りを走る。
淡く輝いていた光が消え、残ったのは真っ赤な身体のスライム。
それがどうしてなのか、外の太陽に照らされ反射する淡い赤の身体が、ゆっくりと変化していく。
まるで俺が無理やり人間の形を作り上げようとしたみたいに────いや、俺よりも上手く人の原型を作り上げ、半透明だった身体に色がつきはじめる。
スライムとは思えない人間の姿。服を着ていない全裸の子供に既視感があった。
────まるで、神殿の旅団に出てきた主人公の子供の頃の姿のよう。
金髪ではなく黒髪という色違いな部分はあれど、第三者がリルと共に見せればきっと姉弟だと勘違いするぐらいには似ている。
だいたい七歳ぐらいだろうか。リルより年下の子供の容姿になったスライムたるヒビキの目が開かれる。
その目は、ヒビキの赤い核のような色をしていた。
「女王さま」
「いや、何で女王?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます