第11話 まるで知っているがごとく
この
例えば、生まれてからずっと暮らしてきた村が崩壊したのを見てしまった時。
例えば、忙しい両親に代わり、小さい頃から親代わりのように育ててくれたお祖父様が殺されたと分かった時。
絶望の果てに感じた────お祖父様を、村の人達を実験材料のように扱う少年に憎しみを抱くより先に、自分が死んでしまえば家族に会えるかなと思ってしまった時。
リルの代わりに怒ってくれたのは、少年に対して殺意を抱いてくれたのは彼女が敬愛する神様だった。
「マンティコアもどきを一瞬でもいいから止めてくれ」
「キュッ!」
「────!」
神様たるヒナ様は、少年に対してどう動けばいいのか分かっているように行動した。
お祖父様達が核となってしまったマンティコアもどきの動きに合わせて蜘蛛が糸を使い身体を雁字搦めにし、スライムがその足を身体で包み、消化する。
糸を噛み千切り、溶けた足がすぐ元通りになってしまうというのにヒナ様は慌てず────スライムの身体に入り込み、動きの遅くなったマンティコアもどきの口に飛び込んだのだ。
それに少年は唖然としたが、すぐ状況を理解し嘲笑う。
「あはははは! 自ら餌になりにいくとか馬鹿じゃん!! はははははは! ……チッ、あーあ。つまんねぇ死に方しやがって」
少年がリルを見る。
あとは仕事をするだけだとばかりに木の上から降りて、マンティコアもどきをけしかけようとする。
「そのまま抵抗するなよ。逃げたら足折るからね」
少年の冷たい声に、リルは恐怖を抱かない。
────だって、蜘蛛が逃げようとせずリルの傍にいるから。
マンティコアもどきの中へ飛び込んだはずのヒナ様が楽しそうにしているのが伝わったから。
リル自身の核から感じるのは、神様の感情。ヒナ様の意思。
「私は抵抗しません。……ですが、ヒナ様に与えられた命を無駄にするつもりもありません」
マンティコアもどきを一瞬でもいいから止めろと命じたのはスライムと蜘蛛だけではない。
マンティコアもどきの口に向かって雷撃魔法を放つ。身体から煙が出て動きを止めて────その身体の上に、蜘蛛が飛び乗った。
そうして、マンティコアもどきの身体を通してヒナ様が蜘蛛の中へ入り込む。腐りかかった身体だからネバネバした物体たるヒナ様ならば通り抜けることぐらい無理ないのだろう。
「今だヒビキ! 全力でその核を消化しろ!!」
「っ!? お前何を────!」
少年が対処するより先にヒナ様達が動く。
蜘蛛から聞こえてきたその声に応じるように、スライムが体内の核を飲み込んでいったようだった。
マンティコアもどきの身体が倒れ、それを消化するようにスライムが背中から突き破って出てくる。
核を飲み込んだのだろう。スライムの身体はほのかに赤く光っているように見えた。
「クソッ!」
「無駄だぜ。死体じゃねえならな」
彼が魔物を召喚したらそれに寄生し、自滅へ追い込む。
「何でこんなっ、な、何だよ……何なんだよお前!?」
少年が慌てて走り去ろうとしたのを、ヒナ様が逃がすわけがない。
「お前のようなクズ野郎は系譜なんてしてやらねぇ。……お前の身体を俺に寄越せ」
「ひっ!?」
追い詰めたヒナ様が、その少年の身体を包む。
そうして抵抗してくる少年を飲み込み、口の中へ────。
「お前が俺の実験材料だ。ウォルター」
それが少年にとっての最後となった。
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