第7話 リル


 それは、いつも聞いていたはずの声から始まった。

『────の蘇生を確認』

 レベルやスキルが上がるだけでなく、その力を使う際にも聞いていた声がする。

 スキルを使うことで魔力が少なくなり、ゼロになれば気絶するため警告を発するはずの神様の声。

『個体名ヒナによる個体名リル・オライオンの所有スキル雷撃魔法がされました』

『個体名ヒナが魂の系譜を実行し、されました』

『個体名ヒナを親と認定────解除不可能となります』

『魂の系譜により、個体名リル・オライオンの魂に七つの制約が発生します』

『第一の制約を解除するには能力値が足りません』

『第ニの制約を解除するには能力値が足りません』

『第三の制約を解除するには能力値が足りません』

『第四の制約を解除するには能力値が足りません』

『第五の制約を解除するには能力値が足りません』

『第六の制約を解除するための能力値を確認────解除を行います』

『第六の制約を解除。魂の系譜によるスキル譲渡を確認しました』

『個体名ヒナによる◼️◼️スキルを継承しました』

『◼️◼️スキルを確認、実行するにはスキルレベルが足りません』

『第七の制約を解除するには能力値が足りません』

『現在六つの制約が解除されておりません。スキル譲渡を行うには一定条件下まで能力値を上げる必要があります』

『アムリタの加護が追加されました』

 たくさんの情報が流れ、静かになっていくのをリルは微睡みつつ感じていた。

 まるで母の腕の中にいるかのような居心地の良さ。

『個体名ヒナが魂の強制排出を実行しました』

『個体名リル・オライオンに身体の支配権が譲渡されます』

 騒がしい声に目を開ければ、そこにいたのはあの美しい真っ黒な生き物であった。



 森の中でヒビキが俺達を見守り、アオイが楽しそうに頭上で変な形のクモの巣を作る。

 クモの巣というか絵だな。スライムの絵を作っているようだ。

 まあそれはいいとして……。

「俺は雛乃……いや、ヒナでいいや。そう呼んでくれ。それで、俺が神様じゃないのは分かった?」

「「「「はい」」」」

 ため息をつく俺の真正面には、何故か正座をする四人。

 ────そう、リルだけではない。

 兵士達が騒がしく面倒くさいので強制的に寄生と系譜を行った結果、俺を崇め奉るみたいに大人しくなったのだ。

 しかし何故か俺をアムリタの神様だと信じて疑わない。兵士共も似たようなことを言う。

 俺そんな変なスキル使った覚えないんだけどな……。

「というかここ、アムリタ樹林なの?」

「はい、そうですヒナ様」

「んで、なんでリルちゃんを追ってたのヒビキにやられた兵士くんや」

「アレックスです。勇者を出した村の人間には全員祝福スキルが貰えるようなので、それを利用したいと国の研究機関から全員捕縛せよとの命を受けてやってきました」

「ヒナ様、この人らを殺していいでしょうか?」

「ちょっと落ち着いてリルさん」

 十歳の子供なのに目が憎しみで怖いことになっている。

 リルと兵士達は一応俺の仲間にはなってるみたいだけど、立場の違いによっては敵対はするらしい。

 一応俺の声を聞いて攻撃するのは諦めたみたいだけど、きっと「殺っていいよ!」って言ったら容赦なく雷撃魔法が出てたな。

「……とりあえず、リルちゃんの故郷が襲われてるなら助けに行くしかないな」

「ありがとうございますヒナ様!」

「アレックスくん達は立場もあるだろうからこのまま解散な。そんで後で会おう。……ある意味、裏切ってるってことバレないようにしろよ」

「あっはい……」

 なんか名残惜しそうな顔をしているアレックス達を先に見送り、俺はリルを見た。

 村が襲われてるのに異様に冷静なリル。俺の力で彼女を壊したかもしれないと少し怖くなったが、今は考えるのを止めよう。

 贖罪としてでも、リルの故郷を救わなくては。

「状況によっては俺は君に寄生……リルちゃんの身体に入って操るかもしれない。それでも構わないかな?」

「もちろんです! 私の身体を自由に扱いくださいませ!」

「う、うん……」

「キュ?」

「────?」

 何の感情を読み取ったのだろうか。ヒビキとアオイが俺の顔を見つめてきたのだった。

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