第8話 ファンナムの村



 どうやら俺達は出遅れたらしい。アレックス達もいないその村は、滅びを迎えていた。

「これは酷いな……」

 血に濡れた大地。崩れ落ちた建物。明らかに人が殺されたのだと分かる状況。

 呆然とそれを眺めているリルが、一粒の涙を流す。

 それを俺は何も思わずに、ただ見ているだけ。

「キュ?」

「────?」

「いや、なんというか……酷いって分かるのに心が動かないんだ。人間に寄生したら悲しいって思えるのかなって」

 分かっているんだ。ゲーム世界と類似しているから、ここが現実だと思いきれていないってことは。

 自分の身体だって、五感はあれど人とは違うものに生まれ変わっていたし。

 ここまで来るのに何の苦労もなかった。魔物にだって余裕で勝てた。

 まるでいつものゲームのごとく、ただ目標を設定してクリアしていっただけだ。

「みんな、連れていかれたのね……」

 リルの震える声が聞こえる。

 その村────ファンナムの村からは至るところで腐ったような臭いがしていた。

 あの三人の兵士達が離れる前に聞いた話だ。

 敵国であるから村を利用し、村全体を実験場にしようとしていた。村人はそのまま連行。死んだものは肉体を実験として使うと。

 死体すらほとんど消えていて、あるとすれば残骸のみだ。

 あまりの惨状に膝をついたリルが静かに泣いている。

 傍にいて慰めてやりたいが、人ですらない俺がいても居心地は悪いだろう。

「キュッ!」

「……ん、なんだ?」

 ヒビキが地面を見つめて鳴いていたのでなんだろうかと俺も見下ろしてみた。

「白い線? いや、これは────」

 そこにあったのは一つの建物に対して円を描くように書かれた白い模様。

 海ノ旅団で見たことのある人を魔物へ変えてしまうもの。

 それがここにあるということは、実験場として使われた跡ということ……?

「グォォォォ!」

「きゃああああっ!?」

 リルの悲鳴が聞こえて見ると、そこにいたのはライオンに似た獣。ゲームでよく退治していたマンティコアだ。

 しかしゲームで見たマンティコアとは少し違う。身体の一部が腐っていて、何処か様子がおかしい。

 色違いかと思える白色の体毛をしているのは海ノ旅団でみた人間から魔物へ変異した者の証。

 自我があれば寄生が出来るし、無理なら系譜でどうにかやれると思ったのに……!

『寄生不可能な対象です』

『補食を実行──魂の腐敗を確認しました』

『魂の系譜不可能な対象です』

 寄生も系譜も出来ない。普通の魔物とは違うそれに俺は驚愕した。

 まさかとは思うが、死体を魔物に変えたのか?

「リルちゃん、こっちだ!」

 ゲームを何度もしてきたせいだろうか。なんとなく分かるのだ。

 この魔物はヒビキ達でも勝てない。今の俺達が戦えば負けてしまうほどの強敵なのだと。



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