第6話 戦闘のち、目覚め



「負けそうになったら兵士に『寄生』でもして止めてやるからな」

「キュッ」

「────!」

「人間は殺しちゃ駄目だぞ。気絶させるだけでいい」

 2匹が前へ飛び込む。それぞれやる気充分。

 人間相手にどれだけ強いのか検証するにはうってつけだ。

 こんなにも余裕があるのはきっと、寄生や系譜の能力で奴らをどうとでも出来ると思えているからかな。そうじゃなければ仲間である2匹に無茶振りなんてしない。

「なんだぁ? スライムの亜種か?」

「ケッ! たかがスライム一匹に俺たちが負けるとでも思ったか!」

 うーんどうやら手のひらサイズの蜘蛛は脅威とすら判断しきれてないらしい。系譜で身体とかかなり変化してるし見た目魔物に見えるのにな。そういえば旅団シリーズに魔物独特の気配とかあったような……。

「死ね!」

 ヒビキに向かって剣を振り下ろそうとした兵士。

 それを素早い動きで避けたヒビキは、スライム特有の柔らかくも弾力のある身体を大きく膨らませ────兵士一人を丸のみにした。

「キューッ!」

 半透明の身体の中でゴボゴボと溺れ、もがき苦しむ兵士。浮上することも出来ないのか、大きな泡を吐いた兵士が力尽きたタイミングでそいつを身体から追い出した。

 ヒビキは気絶した兵士の胸の上でドヤ顔している。スライムに顔無いけど絶対にドヤッてしてる。

「なんとむごいことを……くそっ、警戒しろ!」

「────♪」

「ゴホァ!?」

 もう一人の背後から蜘蛛が襲いかかり、首筋に噛みついた。殺すなって言ったし、麻痺の毒だろうか?

 ビクビクと痙攣させた兵士が倒れ、泡を吹く。

 ……死なせてないよな? 大丈夫だよな?

「アオイー! こいつ本当に殺ってないよなぁ!?」

「────?」

「キュ……」

 アオイが首を傾けて微妙そうな感じ。慌てて泡を吹いてる兵士に寄生して回復させようと近づくが────。

「勝った気になるなよ貴様!」

 俺を捕まえようとした最後の一人たる兵士が動こうとしたので慌てて後方へ避けた。

「言っておくが今の俺は強いぞ。お前らに負けないぐらいはな!」

「ガキのくせにスライム共を使役したぐらいで生意気なこと言ってんじゃねえ!」

「試してみるか?」

 寄生先のリル少女の身体から出来ると思えた魔法。

 旅団シリーズなら、魔法だと呪文無しでは威力が下がる。

 だから魔法使いは呪文を覚えなくてはならない──けど、俺はそんなのゲームの知識しか知らないのでなんも言わずにそのまま手のひらから電撃をイメージし、解き放つ。

「ギャアアアア!!」

「えっ……!?」

 マジの雷の威力にも匹敵するのが出てきたせいで兵士が焦げ付き、そのまま倒れた。

「やばい!? 殺しちまったか!? か、回復ぅー!!」

「キュッ!」

「────!」

 悪かった! こんなに威力が出るとは思ってなかったんだ!

 あと兵士共がこんなにも雑魚だとは思わなかったんだよ!

 人殺しにはなりたくないから死ぬなよ……!



「とりあえず兵士共はなんとかなったが……なかなか起きないな」

 アオイの糸で縛り付けた兵士達は放置。後で何処かの村にでも放り投げれば魔物に襲われることなく助かるだろう。

 それよりも気になるのはリルという少女。あれから寄生を解除して起き上がるのを待っているけど、なかなか目覚めてくれない。

 念のため系譜もしたので言葉は分かるはず。

「うーん。ゴブリンとかならもうとっくに起きてもいいのになぁ」

「うっ……ヒッ! ば、化け物ぉ!?」

「うわぁぁぁ! 影の化け物!?」

「まさか神殿の……こ、殺さないでくれ頼むから!!」

 兵士の方が先に起きちまったよ。これは手加減の出来るヒビキに頼んでもう一度気絶してもらった方がいいか?

 それか兵士共にも系譜しちまうか。いや、その方がいいな。仲間にさせちまえばいろいろ情報吐いてくれるだろうし。

 というかこの黒いネバネバ姿のままでも言葉が分かるようになったのはリルに系譜したおかげか?

 そう思っていたら、少女がもぞりと動き出す。

「ケホッ……ここは……」

「おはよう。えっと、俺のこと分かるか……?」

 寝ぼけていた少女の瞳がだんだんと覚醒する。

 ハッと我に返ったリルが、俺に向かって頭を下げた。

「はい、分かりますアムリタ神様。ただの村人たる私を救ってくださりありがとうございます」

「お、おお……」

「神様のおかげでこの命があります! どうぞこの身体、好きなように扱いくださいませ!」

「いやそこまでのことは求めてない。あと俺は神様じゃない」

 なんか勘違いしてるなこの子。アムリタ神様ってなんだよ……?


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