第4話 トラブルは蜘蛛から



 名前についていうと、我がかなめ家は代々ネーミングセンスがない。

 男である俺に雛乃ひなのなんてつけるぐらいだし、父さんなんて蛇無じゃむである。

 ジャムが好きなことからそういう名前になったなんて父さんは乾いた笑みを浮かべながら言ってたなぁ……。

 大学生になって一人暮らしのために引っ越してから家族に会ってないけど、元気にしてるのかな。

 まあ俺、死んだけど。魔王に殺されましたけど。

 ……とりあえず死んだ後どうなったのかについては考えるのは止めよう。

 親不孝なことしてしまった件については後悔が残るが、魔王をぶん殴って復讐してやることを最終目標に生きると決めたから。

「キュッ」

「────?」

「悪い、考え事してたわ」

 つまり、俺もネーミングセンスは皆無なので下手にオリジナルな名前を考えるのはやめようということだ。

 名前をつけるなら俺なりに良いものにしよう。

「スライムの名前は……赤、レッド……いや、キュッって鳴き声が森に響くからヒビキ」

「キュッ」

「蜘蛛は……青いから、アオイ?」

「────!」

 気に入ったらしい2匹がそれぞれ嬉しいという反応を見せる。

 それぞれピョンっと軽くジャンプした後、俺にすり寄ってきた。

「さて、名前を決めたから次にやることはあのクソ魔王がいる場所まで直行……って、いいたいけど」

「キュッ?」

「────?」

「ここ、どこだろうなって……」

 旅団シリーズで森に関連するのは『神殿ノ旅団』である。

 時系列は海ノ旅団より約100年前まで遡る。勇者が魔王を倒す旅に出て数年後の物語。

 主人公は勇者ではなく戦闘能力皆無な考古学者。

 国王に命じられ、アムリタ樹林の奥深くにある神殿に行き、魔物を国から遠ざけることの出来る宝玉を取ってくるのが目的のゲームだ。

 戦う力がないため、魔物から逃げ隠れするしかなくて、途中にある遺跡の謎を解きつつアイテムを回収し生き延びるサバイバルゲーム。

 森がメインならそのゲームしかあり得ない。

 でも寄生能力で生き物を見つけるために森の中をたくさん歩き回ったけど、遺跡なんて欠片も存在しなかったぞ。つまりここはアムリタ樹林ではないってことだ。

 あと俺たちは人間じゃない。寄生すれば俺は人間になれるけど、ヒビキ達は違う。

 下手に正体を見せてしまっては兵士達が俺らを倒しにくる可能性があった。

「うーん……」

「キューッ」

「ん、どうかしたかヒビキ」

「キュッ!」

「あれ、そういえばアオイはどうした?」

「キュゥ!」

 ピョンピョン跳ねたヒビキの丸いスライムの身体。その上にいたはずのアオイがいなくなっていたが────ヒビキが俺とは違う視線を向けてその先へ向かっていく。

 どうやらアオイは好奇心旺盛なようで、何かを発見したらしい。

 俺も歩いていくと、草むらの奥にいたのは、ボロボロで血だらけの少女だった。

 誰かに殴られたのか、顔が腫れて前歯が一部欠けている。身体には剣で切りつけられたような大きな傷があり、そこから血がボロボロ流れていた。

 こちらを見る目は恐怖で染まり、怯え震えていた。

「人間の女の子じゃん! だ、大丈夫か!?」

「鬲皮黄窶ヲ窶ヲ?」

「いや言葉通じてねえし!!」

「キュッ?」

「────?」

 参ったぞ。これはどうすればいい?

 寄生して身体の傷を治す────いや、言葉が通じる可能性をかけて系譜するか?

 というか、なんでこんな森の奥に魔物に抵抗出来なさそうな女の子がいるんだよ!?

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