第3話 やれることを探す



 ゴブリンの身体の中に入っているというよりは、元々ゴブリンだったと思ってしまうぐらいには違和感が無かった。

 両手を上げても走っても身体が崩れることはない。攻撃だってゴブリンがやっていたようにナイフで軽々と出来るぐらいだ。

 むしろ俺が寄生する前より能力上がってないか?

 ナイフを振り回しただけなのに木をぶった切れたんだが。まさか俺が身体に入り込んだことで潜在能力が強化されてるのか?

 それに腕に怪我していたはずなのに、今はそれが見当たらない。回復も俺がいるから出来た……?

「検証してみるしかないか……」

 一回寄生したせいか、どうやればいいのかが理解できる。

 今なら他の生物に乗り移ることも、身体から離れることも何でも出来る。

 とりあえずゴブリンの身体から抜け出てみよう。

 まるで着ぐるみを脱ぐように、身体に埋め込まれた核から外へ飛び出す。

 ゴブリンの身体ではないネバネバした真っ黒のもの。それで試してみたが、やはり手を上げたり走ったりすることは出来るけど身体の形を一定に保つことができなかった。

「ギィィ!」

「あっ、あーあー……」

 意識を取り戻したゴブリンが俺を見てビビり、すぐさま逃げ出していった。

 もうちょっと実験に付き合って欲しかったんだけどなー。

 ……まあいいか。必要なのは検証してみることだ。

 ゲームと似たようなもんだ。どんなフラグがあるか分かったものじゃない。

 いろいろ試してこの力について知ろう。



 寄生能力の使い方が分かったからだろうか。最初に聞いたあの声は全くないまま寄生することが出来たので好き勝手に行った。 

 それで検証してみた結果、この『寄生』能力について理解できたのは3つ。

 核があり、自我に目覚めたものにしか寄生は出来ない。無機物に入り込むことは出来なかった。

 寄生した生き物の潜在能力を引き出すことが出来る。ただしそれ以上の力は出せない。寄生したゴブリンがナイフで木々を斬り倒せるけれど、炎を吐き出せないようなもの。

 そして、怪我をしている生き物は俺が寄生するだけでどんな怪我も治せてしまうことだった。

 切断された手足すら寄生した瞬間、切断面から俺の黒いネバネバした身体が出てきてそこから再生し、本物の手足になったのを見てドン引きしてしまった。

「俺ほんと何の生き物なんだろ……」

 ネバネバした身体を恐れる生き物達。検証のために寄生しまくったせいか、警戒されているのが分かる。

 そんな俺に対して無警戒で近づくのは自我のないスライムぐらいだろう。寄生出来なかったし。

 自我のない生き物には他にやれる方法はないだろうか。俺の能力が一つとは限らない気がするし……。

 足元にてぷよぷよしているスライムを軽く指もどきでつついてやると、俺の身体を補食しようとしたのか、触った所が少しだけ溶けて透明なスライムが真っ黒になった。

『補食行為を確認』

『寄生不可能な対象です』

『分体譲渡可能な対象であることを確認』

『魂の系譜を行いますか?』

 はい久しぶりに聞きましたー!

 新しい能力について言う誰かの声! 女の人っぽいけど、何か機械的な感じのする人!

 ……いや、人ではないか。

 旅団のゲームであればこの声は核からの干渉。スキルシステムの声なはずだ。シリーズの主人公ごとにそれぞれ違う核であるためか、毎回別の声だったしな。

 ──というか俺、全身真っ黒でネバネバした身体なんだけど核なんてあるの?

 うーん……まぁ、今は核があるかどうかの確認なんてしなくていいか。核が無くてもこうして生きてられるんだしな。

『魂の系譜を行いますか?』

 俺の魂が切り裂かれるとかじゃねえよな?

 そうじゃないならやってもいい。そう考えると能力が実行されたのか、俺の脳内に直接刻まれていく黒くなったスライムに力を分け与える方法。

 身体を食わせたことによって実行可能となり、その身体を作り替える。

 そして俺の心に似たものを作り、それを埋め込むというもの。擬似的な自我の誕生であった。

「キュッ」

「うぉ!? 鳴き声あげやがった……」

「キュッ?」

 先ほどまでは無関心かつ機械的な動きしかしてなかったのに、今は俺の様子を伺い、懐いているのが手に取るように分かる。

 よく観察してみるとスライムの真っ黒な身体がほのかに透明に戻り、その真ん中に赤い核らしきものがあった。

「系譜ってことはサモナースキルに近いものかな」

 これもともと寄生出来る対象ならどうだろうか。

 そこらにいる魔物ですらない虫一匹ならどうなる?

「まあ、やるだけ損はないよな」

 スライムが俺の近くから離れず、何をするのかを見守っている。

 顔がないのに絶対そうだと思えてしまうのはきっと系譜という繋がりが出来たせいだろう。

 とりあえずスライムは放置して、近くの木の枝で呑気に歩いてる蜘蛛に近づく。補食が必要な気がするので手を細く長くして蜘蛛の口元にやると、お腹が空いていたのか警戒することなく噛みついてきた。

「キュゥ!」

「こら、なに虫に対して怒ってんだよ!」

 スライムが身体を膨らませ蜘蛛を補食しようとしてきたので慌てて止める。それと同時に蜘蛛に擬似的な心を、核を作り上げる。

 すると蜘蛛の身体が急に大きくなり、淡い水色の特徴的な模様だったのが、濃い青色へ変化していく。

 観察しているうちに俺を認識したのか、手のひらサイズになった蜘蛛と目が合った。

「────!」

「キュ……」

 蜘蛛がスライムの身体の上にピョンっと飛び乗る。

 先程のように補食するかもと慌てたが、スライムは同じ系譜となった蜘蛛に対して嫌そうにするだけで何もしない。

 補食をしようとしないスライムの身体はトランポリンみたいになるのか、そのまま沈むことなくポヨンと弾んだ蜘蛛は楽しそうだ。

「……スライム」

「キュッ」

「えっと、蜘蛛」

「────!」

 呼びかければこちらに視線を向ける2匹。

 まるで子供が親の傍を離れないように、スライム達も俺に寄り添い付き従う姿勢を見せた。

「あー……スライム、木の枝を消化してくれ」

「キュッ」

 鳴き声をあげたスライムが枝を体内へ入れて消化する。

 そうしてまたこちらを見た。

「……蜘蛛、俺の頭上にある木々に蜘蛛の巣を作ってくれ」

「────!」

 ピョンっと軽く飛んだ蜘蛛が軽快に移動し、手早く大きな巣を作る。糸を下へ垂らし俺の元へ戻った蜘蛛が、スライムの身体に飛び乗ってこちらを見る。

 命令に反抗もせず、それが当然とでもいうかのように。

「……これいろいろと問題ありすぎるスキルだな」

 敵対している相手にも有効なのか試してみたいけど、森にいる魔物に警戒されている今となっては使えない。

「えーっと……もう大丈夫だぞ。俺に従わなくてもいいんだ。自由に生きてよし!」

 ──沈黙。

「自由に生きていいんだぞー!」

 ──沈黙のち、俺の足元にすり寄る2匹。俺に従わなくてもいいのに、それは嫌だと伝えてくる。

 まあ、自我を持ったばかりだもんな。赤ちゃんと同じか。

 蜘蛛に至っては進化したばかりで自分の身体に困惑──は、してないように見えるけど、一匹でいたらどうすればいいのか分からなくなって混乱するかも。

 ────もういいか。覚悟を決めよう。

 ここは夢じゃない。現実だ。そして検証した結果、スライムと蜘蛛が仲間になった。

 何故俺の身体は人じゃなくなったのか。どうしてゲーム世界から魔王が来たのか。

 それを考えるのは前作魔王に会ってぶん殴ってからにしよう。

「まずはお前達の名前でも考えてやらないとな」

「キュッ」

「────!」

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