第2話 死んだらネバネバ
「うぉぉぉぁ!?」
目が覚めたら病院かと思いきや天井がない!
空が青い! 風が心地よい!
周りが木々で覆われていて意味がわかんねえ!
……というわけで、なんか目が覚めたら何処か知らない森の中に放り込まれていた。
もしやあの女が死体だと勘違いし、俺の身体を埋めようとして森に放置したとかか?
というか身体の感覚がおかしい。
殺されたはずなのに何故無傷なのか。夢でも見てたのか。それともここはあの世か。
穴が開いた筈の胸部分を見ても真っ黒なだけで何もない。
「いや待て。真っ黒?」
何度も確認するが全身タイツをつけているかのように真っ黒で──いや、違う。これは違う!
大慌てで周りを確認。何処かに川の流れる音がしたのでそちらへ走り、水面を見下ろした。
「……顔がない?」
まるで骨を無くしたように身体がぐにゃぐにゃと動き、全身が真っ黒。
視界はあるのに目玉がない。嗅覚が働いているのに鼻がない。スライムのようにある程度固まったものとは違う。
ネバネバしたそれは人のような形になろうとしてグニャリと潰れた。
「何だよこれはぁぁぁぁぁ!?」
叫び声が森に響き、頭上にいたらしい鳥達が驚いて飛んでいった。
いや落ち着け。まだ慌てる時じゃない!
視界が変になってるだけかもしれないだろ。もしくは何かのドッキリで、何処かにカメラがあるかも。
「……そうかこれは夢か!」
夢でしかあり得ない光景が続いたんだ。きっとゲームをやりすぎたせいだろう。
目を覚ませば大丈夫。
死んだらネバネバした真っ黒スライムもどきの身体になるなんてあり得ないだろ!
このまま地面に倒れこんで目覚めるのを待つ。
川の流れる涼しげな音。動物達の鳴き声。旅団シリーズで聞いた魔物特有の鳴き声。
──魔物の鳴き声?
どういうことなのかと確かめようとした瞬間、身体がねじ切られるような衝動を感じた。
「いたっ……くないだと?」
身体がねじられ、切りつけられているのは分かるのに痛みはない。
目を開けてみるとゲームで何度も見たゴブリンが俺のよく分からない身体を掴み、ナイフで切り取ろうとしているのが見えた。
俺の身体が素材か何かだと思ったのだろうか。
よく見ればゴブリンの腕に切り傷があるが。
……ははーん? なるほど、こいつは俺の身体を包帯代わりにしようとしてるのか。
というか、旅団シリーズで見たゴブリンそっくりだな。胸に飛び出た核があるのも見えるし……。
ギコギコとノコギリのように切りつけているがうまくいかないらしく、汗をかいているゴブリン一匹。
いやこれどうしよう。夢の中なのに妙にリアリティーがあるんだよなぁ。
痛覚は鈍いが、ゴブリンに掴まれているという実感はある。
現在進行形で切り取られようとしている身体に痛みはない。
でも一応俺の身体だし、切断されたらどうなるのか分からない。
もしこれが現実なら、ゴブリンをどうにかしなきゃならねえし……。
『────標的を確認』
『寄生可能生物であることを確認』
『寄生しますか?』
「うぉぉ!?」
「ギィィ!!?」
不意に脳内に聞こえてきた声に叫ぶ俺。
ネバネバした変な物体から声がしてビビるゴブリン。
というか、何だ今の?
寄生しますかって言ったよな。えっ、ゴブリン相手に寄生しますかってこと?
「ギッイイイイ!」
「ちょっ!?」
数歩後ろへ下がったゴブリンが、警戒した様子で再びナイフを手に襲いかかってこようとする。
思わず両手で顔を庇おうとして、グニャグニャなスライムもどきの身体では抵抗することすら難しいと判断。
逃げてもいいけど、ナイフで襲いかかってくるゴブリンが一匹だけとは限らない。
他にも敵がいる可能性があるなら、こいつをさっさと殺らなくては。
『寄生しますか?』
「よくわかんねえけどやれるならやってくれ!」
叫んだ瞬間、何かが身体にインストールされたような感覚に陥った。
両足で立つ方法が当たり前のように、無意識ながらにソレを実行する。
「ギィィ!?」
ネバネバした全身を使って、ゴブリンを覆い隠す。
抵抗してくる奴の口から中に入り込み、身体の中から────奴の核へ侵入した。
不意に感じるのは奴の俺に対する恐怖。畏怖。そして命を諦めたような、敗北感。
静まり返った森の中、ゴブリンの鳴き声は止んでいた。
「……まじか」
目を開けて身体を確認すると、俺の身体はネバネバではなくなっていた。
ゴブリンの身体に寄生したようだった。
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