第25+α話 氷竜に育てられた生命
このお話は、氷竜の子グラス本編最終話の追補編となっていて、わたしとシビルのお別れのシーンの直後の出来事になりますう。もちろん本編の最後のネタバレを含む内容になっていますので、可能な限り、最後まで見てから見て欲しいですう。
先日、シビルが突然、わたしの家を出ていくと言い出しましたあ。何故なら、そのお腹の中に、エイリークとの子供を宿していたのでしたあ。必要なものを家から取り出した後、シビルは改めてシルビアと名乗り、エイリークの住むブレイバル家に嫁ぐ事になったのでしたあ。
シビルとお別れしてから数日後、アルブル村の教会で、シルビアとエイリークの結婚式が行われましたあ。
「それでは、新婦の入場です!」
大きなオルガンで賛美歌が奏でられる中、わたしグラスは、花嫁衣装を纏ったシビル……じゃなくってシルビアさんを新郎のエイリークさんの所へと案内しましたあ。
「とても、綺麗ですよお……」
「ああ、この衣装の一部は、グラスが手がけていたんだよな……じゃなくてグラスが手掛けていたのですね……アアマダナレネエ」
こんな会話を交わしながらも、お腹に赤ちゃんが眠っているシルビアさんをエイリークさんの前に導き、あとは一連のやりとりを最前列から見守りますう。
村の牧師さんが、二人に問いかけますう。
「えー、新郎エイリークと新婦シルビア。二人は健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす事を誓いますか?」
二人は答えますう。
「誓います」
「……誓います!」
エイリークさんは落ち着いていても、シルビアさんの声は少し緊張気味でしたあ。
「それでは、指輪の交換と誓いのキスを」
二人は指輪を交換しあい、何を思っているのでしょうかあ。指輪の交換が終わると、二人は……!
誓いの口付けを交わしましたあ。
ワアア……パチパチパチパチ……!
夫婦の誓いを終えた二人の事を、参列者達は精一杯の拍手でお祝いしてくれましたあ。
「さーて!それじゃあ例の、アレをやるか!」
シルビアさんがかつてのシビルちゃんを思わせる勢いで声を上げると、みんなで一斉に外に出ましたあ。
ざわざわ……
みんなが教会の外に出ると、シルビアさんはブーケを持って言いましたあ。
「さあ、これを受け取ってみな!!!」
始まりましたあ!ブーケトスですう!シルビアさんの手から、ブーケが後ろ向きに投げられましたあ!これを受け取った人は次の花嫁に選ばれるらしいんですう!次々と集まる人達には、わたしも含まれていましたあ。
パシッ
そして、そのブーケは……
わたしが受け取りましたあ。
「な、なんか、受け取っちゃいましたかあ……!」
「グラスさん、おめでとー!」
「おめでとう、グラス!」
「あっ、ありがとうございますう〜!!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ……
みんながわたしをお祝いしてくれましたあ。こんなわたしにも、きっと素敵なお相手がやってくるのでしょうかあ……!その後も、宴は長く続きましたあ……。
* * * * * * *
半年後。
シルビアさんは、自宅でわたし達が見守る中、出産の時を迎えていましたあ。
「うう……あああっ……!!」
「もっとチカラ入れてねえ〜!もうすぐ出て来るからねえ〜!」
グリューさんがシルビアさんの赤ちゃんを取り出そうとしていますう……赤ちゃんも、早く出て来てみんなに会いたいと頑張っていますう……わたしもその様子を固唾をのんで見守りますう……!
「あああああっ……!」
「頭出て来た〜……でも、全然抜けないよ〜!って事でグラスさん手伝って〜!」
「……はいですうっ!!!」
わたしは出て来た頭を優しく掴み、ゆっくりと引っ張りましたあ。すると、赤ちゃんはわたしの想いに応えるかのように、シルビアさんの中から、ゆっくりと引き上げられて……!
「頑張って……シビルちゃん!!!」
「あっ!このままの勢いで、赤ちゃんが出るよお〜〜〜!!!」
「うおあああああああああああ!!!!!!」
温かい生命が、出てきましたあ……!
オギャア……オギャアアアッ!!!
「おめでとお〜〜元気な女の子だよお〜〜♪」
「おめでとうございますう〜!」
「ハァッ……ハァッ……」
元気な声を上げる赤ちゃんと、疲労困憊なシルビアさん。さっきは思わず昔の名前で呼んじゃいましたあ。
「みんな本当にお疲れ様〜!グラスさん、今回の報酬は蒸しパン一年分を定期的に届けてあげるからねえ〜」
「はいっ、ありがとうございますう!」
そこに、産声を聞いたエイリークさんも駆けつけて来ましたあ。
「良く頑張ったな、シルビア」
「ええ……ありがとエイリーク、あと、グラスも……」
「これからは、この子を立派な冒険家に育てるためにもっと頑張らないとな」
「子供の将来ぐらい自分で選ばせなさいよ……もう……」
「分かってるって!」
へその緒を切り、産湯に浸かり、柔らかい布に包まれた赤ちゃんを横にして、わたしはシルビアと話しましたあ。
「この子のお名前は考えていましたかあ?」
「お腹の中にいた頃からもう名前は決めてある。男の子でも女の子でも、この名前にしたくて私で決めた。この子の名前は……」
グレィス
「良い名前ですねえ」
「俺……いや、私にとって最強で最高のドラゴン、グラスの名を少し借りたんだ」
「そうだったんですねえ。とても嬉しいですう」
「まだまだ、私達にはグラスのチカラが必要だ。この子も将来グラスみたいな誰にでも優しい人に育ってほしいからな……」
シルビア・ブレイバル。
わたしが、初めて育てた小さな生命。
幼い頃、住んでいた村が人間を嫌う集団に襲われて、家族を喪い、数年間森の中を彷徨い生き続けていましたあ。
食べれるものは何でも食べて、自分を傷付けるものを傷付けて、森の怪物だと噂されていましたが、わたしがそうだとは知らずにあなたを保護して、シビルと名付けてから、二人の楽しくも不思議な毎日が始まりましたあ。
お互いの生活を支え合う事を条件に食材を採る事をお手伝いした日々。
エイリークや、村の仲間達と仲良く楽しく交流した日々。
マリーン族やバード族などの色々な種族と出会い、知見を広めてきた日々。
自分の過去に向き合い、自らの手で因縁を打ち破ったあの日。
エイリークの初めての冒険のパートナーとして一緒に山を登って、そこでお互いの愛を確かめ合った日。
孤児のシビルは死に、アルブル村の民、シルビアが生まれた日。
そして、その生命が、新たな生命を生み出した今日の良き日。
色々な事があって、わたし達はここまで辿り着く事が出来ましたあ。
それでも、わたしとみんなの毎日は、これからも続いていきますう。
その後、シルビアとエイリークの娘グレィスは、両親の愛情をたっぷり受けて育っていきますう。わたしも頻繁に様子を見に来て、一緒に遊んであげたりしていますう。それでも、まだ一緒に空を飛ぶのはまだまだ先になりますげどねえ……。
* * * * * * *
それから、半年と二年後。
わたしは、シルビアの娘、グレィスを腕に抱いて、空に向かって言いましたあ。
わたしたちは、いつでもここにいますよお!
……
どこかから聞こえてくる女性の声。
「あの方が、あの方ならば、この子を託す事が出来る……」
「ピィィ……」
その腕には、生まれて間もないドラゴンの赤ちゃんが抱かれていた。
氷竜の子グラス~APPEND EPISODE~ 早苗月 令舞 @SANAEZUKI_RAVE
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