特別編第2話 裏山の冒険隊
皆さんお久しぶりですう、私立竜人学園の高等部一年のグラスですう。色々な種族が暮らす学校に通ったり、身寄りの無い人間の女の子を世話したりしていますう。
「おはようグラス」
「シビルちゃん、おはようございますう。朝食はもう出来ているから一緒に食べましょうねえ」
今日は学校が休みの日だけど、朝早くからお出かけの支度をしていますう。
「今日の朝食は食パンにハムと目玉焼きを乗せたやつか」
「冒険ごっこの途中で食べるお弁当も作りましたから、楽しみにしてくださいねえ」
わたしとシビルちゃんは朝食を食べ終えると、登山向けの服装に着替えて、エイリーク君の通う学校の裏山に向けて出発しましたあ。
・・・
というわけで、エイリーク君が通っている学校の門の前に来ましたあ。待ち合わせの場所には、エイリーク君がもういますう。
「おはようシビル、グラス!今日は楽しみすぎて待ち合わせの時間より30分早く来たぜ!」
「あ、そうなのか」
「お待たせいたしましたあ」
するとエイリーク君はシビルちゃんに、何かを渡しましたあ。
「なんだこれは……」
「それは勇者の証の剣だ!お前にもやるぜ!」
「ありがと、貰っとく」
「二人共、かっこいいですう」
二人の手には、エイリーク君がお小遣いで買ったプラスチック製の剣が握られていますう。今はこんなふうにかっこいいデザインが多いんですねえ。わたしには、氷のチカラと鋭い爪ががあるから、武器はあまり必要ないのですう。そもそも、これは飽くまでも『冒険ごっこ』なのですから、おもちゃの剣でも十分楽しめると思いますう。
「よし、メンバーは揃った、冒険開始だ!!」
「「「おおおーーーーッ!!!」」」
掛け声を上げて、わたし達三人は裏山を登り始めましたあ。エイリーク君はわたし達と会う前から学校の裏山によく来ているので、この山の事は色々詳しいみたいですう。
「この辺に生えている草とかキノコとかは普通に食べれるものも多くてな、こうやって拾って料理の材料にもしているぜ」
「わたしも採って良いでしょうかあ?」
「ああ、でもあんまり採りすぎると山の動物達の分が無くなっちゃうから程々にな」
「はいですう」
「うん……っと、この植物はなんだ?」
「あっと!それは生でも焼いても食べたら腹壊すから触らないように!」
「おお……これが勉強出来る人なのか」
エイリーク君は将来冒険家を目指すために、学校の図書室で野草図鑑などを読んでいて、その知識はわたしよりもありますう。わたしも昔は両親と一緒に山や海にも遊びに行った事がありましたが、ここまでの事はさすがに教わらなかったですう。
「うーん、ずいぶん歩きましたねえ、ところでエイリーク君は、どうして冒険家になりたいと思うのでしょうかあ」
「それはな、初めて母ちゃんが読んでくれた本に出て来る冒険家がカッコ良かったからだ!」
「そうなのですかあ」
「ああ、剣を持った冒険家が、沢山の困難を乗り越えて目的を果たすのがとてもカッコよかったんだ!今でもあの本の冒険家は憧れにして目標なんだぜ!」
「良かったらその話、俺にも教えてくれるか?」
「もちろん!あの話は一文字一文字最初から最後まで暗記済みさ!この場で語ってもいいんだぜ……」
お話しながら歩いていた矢先。前方に、何かの気配がしたかと思うと……!
「って!あれは……イノシシ……!?」
「こんな時に出くわすとは……!」
「はわわ……こういう時はどうするか思い出さなきゃですう……!」
突然目の前に野生のイノシシが現れましたあ……!かなり気が立ってるみたいで、今まさにこちらに突撃しようとしていますう……!
「おいおい……こんなの悪い冗談だろ……!」
「俺とシビルのおもちゃの剣じゃ太刀打ち出来ない……って、こっちに来たっ!」
すごい勢いで突っ込んでくるイノシシ……!
「 ダ メ で す う っ ! ! ! 」
シュピィィイイン!!!
わたしは咄嗟に空気中の水分を凍らせて氷の風をを吹かせましたあ!幸い湿度も高かったので氷の濃度も高くなりましたあ!
突然の冷たい風に驚いたイノシシは慌てて茂みへと逃げて行きましたあ……。
「はあっ……はあっ……!」
「すっげえ……これが氷竜のチカラなのか……!」
「みんなを守るために、出来る事をしただけですう……!」
「やっぱグラスは、すげえや……!」
「俺達を、守ってくれてありがとう!」
「ええ、でも、ここからは周りに注意しないといけませんねえ」
わたしとシビルとエイリークは、このまま裏山の頂上を目指して歩きましたあ。その後は特に大きな危険にも見舞われなかったですう。
・・・
こうしてわたし達は、やっとの思いで頂上に辿り着きましたあ。
「さて、お弁当タイムですねえ」
「みんなでお弁当見せ合おうぜ!」
「ああ、いいぜ」
わたし達はせーので弁当箱を開けて中身を見せましたあ。わたしの弁当箱には、鶏のひき肉と卵とほうれん草の三色弁当が入っていますう。シビルのには、三色弁当の余りを炒めたチャーハン風の弁当が入っていますう。そしてエイリーク君のは、唐揚げやブロッコリーをしっかり詰めた栄養ありそうなお弁当ですう!
「今朝、母ちゃんが用意してくれたんだ!」
「すごいですう!今度わたしも作ってみますう!」
「さて、また動物に狙われる前に食べなきゃな」
わたし達はお弁当をそれぞれ美味しく召し上がると、下山に向けて歩き出しましたあ。さすがにわたしの翼で飛んで降りるのはちょっと無粋な気がしますのでえ……。
・・・
……と、いうわけで、わたし達は無事に下山する事が出来ましたあ。
「今日の冒険、大成功!!!」
「採れるものも沢山採れたよな」
「お疲れ様ですう」
みんなのリュックには、木の実やキノコなどがたくさん入っていますう。今日の夕飯はこれで何か作れそうな気がしますう。
「さて、次はどこへ行こうかな?少し離れた森か、それとも海辺か……」
「今度も行けそうな日があれば一緒に行ってやるよ」
「本当か!今度行く時はシビル達を守れるように強くならないとな!」
「エイリーク君、熱心ですう!きっとこの先もシビルちゃんと一緒に……」
「え?グラス今なんて言った!?」
「いやいやいや!別に二人の事なんてなんとも思ってないですよお……///」
「アッハッハッハッハ!!!二人共面白いよな!」
「テ、テメエラ……覚えてろよ……///」
なんか、将来の二人の行く末を示唆するような発言が出てしまったような気がしなくも無いですが、今日の冒険ごっこはこれにてお開きとなりましたあ。学校の裏山で採れた山の幸で作った料理はとても美味しかったですう。
あと、後日エイリーク君から聞いた話ですが、学校の農園を荒らすイノシシが最近現れなくなったとの事ですう。あの時追い払ったのが、まさかねえ……。
* * * * * * *
夜、ベッドの上で、シビルちゃんはまた本を読んでいましたあ。
「なあグラス、また面白い物語があったから読んでるぜ」
「わたしも一緒に見たいですう」
そのお話は、色の魔法使いとなった少女達が、世の中の困難や災いに立ち向かう色とりどりの景色が広がる物語なのですう。
「俺達の行き先、何色で彩られるんだろうな」
「きっと誰にも表現出来ない、綺麗な色になると思いますよお」
物語を見ながら、わたしとシビルちゃんは眠りにつくのでしたあ……。
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