第25話 言えないことを隠すコト


 ゲームセンターに行った帰り際、ぬいぐるみを持ち帰ると家でバレてしまうことについて、僕たちは駅の地下通路で話し合っていた。


「うーんどうしよう? 確かに帰った時にパパとかママ居たら言い訳出来ないもんね」


「そうだね。見られたら私も流石にまずいかも。塾の回数とか増やされそう……」


「だよね……。せめてバレずに部屋のどこかに隠せたら良さそうだけど……」


 三人とも顔を合わせて悩ませる。

 バレたら不味いし、怒られないかもしれないけど、怒られそうな気がするし。

 ならバレない方がいいし。

 どうにかしないとという気持ちになってくる。


「じゃあこの中で、今から帰った時に家に誰も居ない確率が一番高い人が預かるのはどう?? 後日ぬいぐるみをその人の家に取りに行く感じで」


「それなら良いかも! 私も今日じゃなくて、明日とか明後日なら誰も居ない時間に持ち帰れるし!」


「ぼ、僕もそれが良いと思う!」


「じゃあ誰が持ち帰るか決めよう!!」


 そうして、三人で話し合った結果…………僕が持ち帰ることになってしまった。

 

 灘さんのお家はいつも両親の帰りが遅いけど、今日は早い日らしくて、相田さんの家はいつも夕方にはお母さんがいるらしかった。

 その上で、今日も遅いと分かってる僕が引き受けることになった。


「じゃあマコトくんよろしくね!! 明日るみちゃんと取りに行くから!」


「私からもよろしく! それまでパンクうさぎちゃんをお願いね!」


「う、うん。分かった!」


 という感じで、僕達は家に帰ることになった。


ーーーーーー


 両手にぬいぐるみの袋を抱えながら、帰路に着く途中、頭の中は楽しかった記憶と今からの不安で埋め尽くされていた。


 今日は楽しかったなぁ。初めて友達とゲームセンターに行けたし。

 それにぬいぐるみもたくさん取れたし。

 でも今から帰った時に誰か居たらどうしよう……。

 ぬいぐるみとかは流石にバレたら怒られちゃいそうな気がするし……。


 なんて思いながら歩いていると、いつの間にか家に着いていた。

 ドキドキしながら敷地内を見ると、そこには既にお母さんの車があった。


 どうしよう!! 今日に限ってお母さん早い!!

 もう17時半だし、こんな時間に帰ってきたら怒られるかな……。

 いつもは15時には帰ってきて家で本読んでるし……。

 うーん。と、とりあえずぬいぐるみは庭に隠しておこうかな、確か明日は晴れだし、明日帰ってきたら家の中に入れれば大丈夫なはず……!


 そう思って、僕はぬいぐるみを庭の木々の奥に押し込んだ。

 外から見れば分からないし、今からは暗くなるし、大丈夫だと思う……。


 そんな普段はしたことがない隠し事をして、僕は少し緊張しながら恐る恐る家のドアを開けた。


「た、ただいま〜〜」


 僕がそう言って靴を脱いでいると、リビングからお母さんが玄関にやってくる。


「おかえりマコ! 帰ってくるの遅いから心配してたのよ! 今日って学校終わるの遅い日だっけ?」


 困り気味な顔で、珍しく不安そうなお母さんの表情を見て、気まずくなる。

 そして居心地が悪くなって、咄嗟に素直に言わなきゃと思ってしまう。


「う、うん、違うくて、その、遅くなっちゃってごめんなさい! えっと、学校終わってから友達と遊んでたら、思ってたよりも遅くなっちゃって……」


 思わずお母さんから目を逸らして、言い訳を話してしまう。


 さっきまでダメなコトだと思ってなかったことが、ダメなコトのように感じてきてしまう。


 怒られる。そう思いながら、目をお母さんに戻すと、なぜかアワアワしているのが見える。


「え、マコちゃん今なんて言ったの!? 友達!? お友達が出来たの!?」


「う、うん。出来たよ、灘さんと相田さんって言うんだけど……」


「ええええ。しかも二人!? 本当に友達が出来たのね?? あらどうしよう! 今日はもうお祝いしなきゃだわ!! あのマコちゃんに友達が出来たなんて……。とりあえずパパに連絡しなきゃ、あとケーキも頼まなくちゃ」


 お母さんはそう言いながら、どこか知らない世界に行ってしまうかのように、リビングに入っていった。


 よく分からないけど、なんか嬉しそうにしてたから、怒られずに済んだ? かもしれない……。

 とりあえず、一難去ったので、僕も一旦二階の自分の部屋へいくことにした。


ーーーー


 部屋に入って、ベッドが目に入る。すると、思わず飛び込んでしまった。


 ……背負っているランドセルが重い。


 なので一旦それを床に置いて、今度は普通に寝転がる。


 そして天井が見える。


 こんなに疲れたの初めてかもしれないなぁ。


 そう思いながら、今日の出来事を思い出す。

 学校終わりにゲームセンターへ行って、ぬいぐるみを取ったこと。

 みんなのも取ってあげたら喜んで貰えたこと。

 帰りにぬいぐるみを預かることになったこと。


 最初から最後まで全部ダメなコトだけど、すごく楽しかった。

 そんなことが胸いっぱいに広がった。

 何より、灘さんと相田さんとしっかり友達になれた気がして、嬉しかった。


「灘さんと出会ってから毎日振り回されてる気がするなぁ」


 そう思いながら目を部屋の奥にやると、最近読めてない本がたくさん見える。

 今まで知らない世界は本の中で知れればそれでいいと思っていたけど、違ったなぁなんて思う。


 そうして色々と思い出していると、急に眠くなってくる。

 夕飯までは寝ちゃダメなのに……。


 そう思いながら、僕は寝てしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る