第23話 苦手なコトまた話すコト


 週末から二日後、振替休日の次の日。

 

 僕は珍しく一人で登校していた。


 というのは正しくなくて、今日は単純に駅前で灘さんが待ってなかった。


 考えてみれば、先週の月曜日から灘さんと毎日のように遊び始めて、それで朝も灘さんが駅前で待っててくれてたから一緒に登校してたけど、毎朝同じ電車に乗ることをお互いが知ってただけで、一緒に学校に行く約束とかはしてなかったなぁと。

 

 だから、今日駅前に着いたときに、いつもの場所に立ってなかったのはビックリしたけど、よくよく考えたらこれが普通だったっけとなり、少しだけ寂しい気持ちになった。


 だけど、灘さんが遅れてくるかも分からない状況で待ってて、学校に遅れちゃうのも不味いし……。

 そう考えた僕は、仕方なく一人で登校することにした。


 僕と灘さんが乗ってる電車って、その次の一本逃すとなかなか来なくて、次の次だと学校遅れちゃうから、今日は先に行くしかないなぁ。


 なんて思いながら電車に乗って、学校まで一人で歩き、教室まで向かった。


ーーーーー


 教室に入ると、まだ数人ぐらいしか居なくて、シーンとしていた。


 僕としてはこういう静かな教室の方が好きだから、久しぶりに朝からゆっくり出来そうで嬉しい。


 なんて思いながら、席の後ろの方から入って、窓際の僕の席へ向かおうすると、後ろから肩をポンポンと叩かれた。

 なので思わず振り返ると、そこには湯川くんが立っていた。


 朝から急な展開に、思わず痛くなるお腹を抱える。

 今日も朝からキラキラオーラが出てて眩しい。

 でもなんか、いつもの湯川くんと違ってどこかモジモジしているような雰囲気を感じる。


「おはよマコトくん! 土曜日ぶりだね!」


「う、うん。そうだねおはよう湯川くん」


「土曜日はまさかマコトくんと外で会うなんて思ってなかったからビックリした!」


「あはは……そうだね」


 なんてことない会話で良かった……。

 そう思った途端、湯川くんがこの前みたいに僕の隣に来て、至近距離で話し始める。


「それでさ、俺やっぱり思ったんだけどさ」

「うん」

「学校の外でも灘さんと会うのってもう運命だと思うんだよね。マコくんはどう思う?? もう土曜日そればっかり考えちゃってさ」

「えぇ……う、うん。どうだろうね?」


 急なマコくん呼び……。

 それとして湯川くんが土曜日会った時みたいに目がキラキラしてる。


「それでさ、そこで俺は思ったわけよ。同じ日に出会ったマコくんこそが俺と灘さんの恋のキューピーなんじゃないかって」


 キューピッドな気がする……。

 なんて思った途端、湯川くんが手を合わせて、お願いのポーズをしてくる。


「だからさ、マコくん今度灘さんに遊ぶ約束する時、一緒に来てくれない?? なんか、マコくん居た方が良い気がするんだ!」


「えぇ……!!」


 どうしようどうしよう?? これ灘さんのこと考えると断った方がいいやつじゃ……。

 でも断れそうにないし、本当にどうしよう……。


「いつも灘さんの前に行くと、なんか声出なくてさ……。それで灘さんに『どうしたの?』って笑い返されたら何も言えなくなっちゃうんだ……。だけど! マコくんが居たらその、言える気がするんだ! だからお願い出来ないかな……頼む!」


 必死な湯川くんの顔が目の前にある。

 うーん。これたぶんどっちにしても良くないやつだよね……。

 でも湯川くんこんなに頼んでるし、あとお願いするときに一緒に居て欲しいってだけだし、一回ぐらいなら付き合ってあげてもいいかもしれない……。


「お願いマコくん、……いてててるみちゃん何するんだよ」


「どうせ雄太がマコトくんに無理言ってるんでしょ。全くもう、この今にも悩みに悩んで死んじゃいそうな顔が見えないの??」


「あ、本当だ。マコくんごめんね」


「あ、うん……いいよ」


 僕そんな顔してるんだ……。

 というか、相田さんが来てくれて助かった……。

 でも相田さんと湯川くんがこんなに仲良いのは知らなかった。

 

「とりあえず朝のチャイムもう鳴るから席ついて。ごめんねマコトくん」


「う、うん」


 こうして僕はやっと席に着いて、朝の騒がしさから解放された。

 

 本を読む時間がだいぶ減ってしまった……。


 なんて思っていると、チャイムギリギリで灘さんが教室に入ってきた。


ーーーー


 そんな朝を経て、授業を受けて、お昼ご飯を食べて……。

 いつも通りの学校生活が過ぎると、あっという間に放課後になった。

 一人で階段を降りながら、校舎の玄関を目指して歩く。


 今日はまだ灘さんと話してないなぁ。

 なんか久しぶりに一人な一日だった気がする。

 今日の授業は、移動教室ばっかりで、休憩時間は移動してたし。

 お昼も灘さん忙しそうにどこか行ってたし。

 結局喋れなかったなぁ。


 なんて思っていると、後ろからドタバタと廊下を走ってる音が聞こえてくる。

 なんか揉めてるような会話もしてる。


「ねぇ、なこちゃんどうして私には習い事があるの!!」


「そ、それは仕方ないよ……」


「私もショッピングモール行きたかったよ〜〜〜〜!!」


「わかった。わかったよるみちゃん。じゃあ今から行こ?? 今日は習い事ないんでしょ??」


「う、うん。ないよ」


「じゃあ決まりね! って、あ! マコトくん居た!!」


 相田さんに泣きつかれながら早歩きしてきた灘さんと、廊下で目があった。

 会話の内容はこの前のことらしい。


 灘さんは僕を見つけると、いつもの悪巧みをするような不適な笑みを浮かべる。


「ふふん! るみちゃん! マコトくん!! 今日は今からダメなコトクラブとして、ゲームセンターに行きます!!」


 唐突に今日の放課後の予定が決まってしまった。


 

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