第21話 説明するコト


 本屋さんに居る僕は、灘さんが消えたと同時に先生と遭遇して焦っていた。


 内田 香織先生。

 クラスの担任の先生で、赤縁のメガネをしてて、キリッとした目にスラッとしたスタイルの先生。

 身長も高くて、モデルさんみたい。

 いつもお団子に髪を纏めてて、前髪があって、美人な先生。

 だけど、怒ると凄く怖い。

 普段はにこやかで優しいから、人気の先生だ。


「せ、先生こんにちは。え、えっと今はその、本を買いに来てて……」


 何も悪いことはしていないのに、何故か緊張してしまう。

 灘さんどこに行っちゃったんだろう?? 早く戻ってきて欲しい……。


 なんて思っていると、先生が頷きながら笑顔で話かけてくる。


「そっかそっか。確かにマコトくんいつも本読んでるもんね。好きな本読めばその分だけ人生で役立つし、良い趣味だと先生は思うよ! それで、ちなみにその一番上のやつはどんな本なの?」


 そう言われて目線を下に落とすと、そこにはさっき灘さんが置いていった本が乗っている。

 タイトルと表紙を見ると、そこにはさっき一緒に買おうと約束した「僕達はイケナイコトをする 2!!」の文字がある。

 そしてそれを見て、思わず目を見開いて、唇を噛んでしまう。


 なんとそこには、一巻と違って男女が抱き合って、周りにバラが散らされている表紙が描かれている。


 ええええ、どうしよう!?

 これはなんか言われてもしょうがないというか、誤魔化すの難しい気がする……! 

 なんか先生も困惑した顔してるし。

 え、なんで……。学校爆発させたり、プールで怪獣飼うお話じゃ……。

 これじゃなんか、その、えっちなやつに見えるというか……。

 タイトルもタイトルだし……どうしよう……。


「僕達はイケナイコトをする? これどんな本なの?? マコトくんホントはいつもこういうの読んでるの??」


「え、えっと……。その、本当は違うくて……」


 エアコンが効いてるお店の中なのに汗がダラダラと止まらないし、キョロキョロするのが止まらなくなる。


 どうしようどうしよう。

 なんかダメなコトしてるのを見られたみたいで、お腹がきゅうーーっと締め付けられる気がする。

 お腹痛くなってきた。

 もう言い訳できない……。


「あ、マコトくん居た! あ、内田先生も居る!! こんにちは!」


「あら! 灘さんも一緒だったのね。てっきりマコトくん一人かと思って心配したんだけど……なら安心ね!」


 救われた……。

 やっと灘さんが来てくれた……。

 遅いよ灘さん……。

 でもこの本なんて言えばいいんだろう……。


「あ、マコトくんあたしの本持っててくれてありがとう!」


「あ、うん」


 そう言うと、灘さんは僕に預けた本を自分の腕に抱え込む。

 そして、一番上の本を持って、先生に見せる。


「先生これ知ってる!? 『僕達はイケナイコトをする』って本!! さっき見つけたんだけどね、学校を爆発させたり、プールでモンスターを飼うお話なんだって! 面白そうだから買ったの!」


「へ、へぇそうだったんだ! じゃあその男の子と女の子が抱き合ってる同じタイトルのやつは何?」


「うわ! ホントだ。何これ。あ、なんか一巻で育ててたモンスターが女の人になって、それで主人公と同じ学校に通うようになったら、怪物なのがみんなにバレちゃって、それを主人公が助けたら恋に発展して、って書いてある! ビックリした〜〜」


「そうだったのね! 私もビックリしちゃったわ。マコトくんがそんなの読むんだと思って。良かった、普通のラノベだったのね。てっきり私も読んでる官能……ゴホッゴホッ。とりあえず、楽しそうな本なのね!」

 

「そうみたい! 早く読んでみたいです。ね? マコトくん?」


「う、うん」


 灘さんの登場から、本の誤解が解けるまで。

 ずっとドキドキしてたけど、とりあえず上手く収まって良かった。

 なんか、最近は心の中で思うことが多い気がする。


「じゃあ先生はそろそろ行くね。あ、一応聞くけど今日は誰か大人と来たの??」


「そうです! 私のお母さんに連れてきて貰ってて、今は私達で本を買いに行くって言ってきてます!」


「そうなのね! なら安心。じゃあ二人ともマナー守って楽しんでね!」


「は〜い!」


「は、はい」


 そう言うと先生は本屋さんの奥の方へと消えていった。

 灘さんのスラスラ出てくる嘘にもビックリしながら、僕は灘さんの方を見た。


「ふふっ。二人だけで来たのに、嘘吐いちゃったね」


「ダメなコト……だね」


「そうだね。じゃあ私達も本買おっか」


 二人で静かにクスッと笑った後、僕と灘さんはレジに向かった。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る