第20話 静かなコトで突然なコト


 回転寿司屋さんを出た僕と灘さんは、6階から4階に降りて、本屋さんに向かっていた。


「それにしても本当にバレなくて良かったね! でも帰る時ヒヤヒヤして楽しかった!」


「そ、そうだね。でも、僕はもうあのヒヤヒヤは体験したくないかも……」


「あははっ。マコトくんさてはお疲れだね??」


「まあ、うん。今日テストもあったしね」


「そういえばそうだったね。忘れてた」


 涼しいショッピングモールを歩きながら、エレベーターを出たところから真反対の奥の方にある本屋さんへと歩く。


 僕も灘さんも、周りのお店をチラチラと見て、気にしながら歩いていた。

 相変わらず元気な灘さんの方が、心なしか歩くペースが早いように感じた。


「それにしてもここ本当に広いね!! 久しぶりに来たからかもしれないけど、そう感じる!」


「そうだね。外から見た時はそんなにかなと思ったけど、中に入ると結構広い。不思議だ……」


「わたし達の歩く速度が遅いからかもだけどね。まあそれとして、とりあえず本屋さん行く前にここ寄らない??」


「ええ?」


 灘さんの急な誘いに驚きながら、指差す方を見ると、そこにはドーナツ屋さんの「ミセスドーナツ」があった。

 メイドの女の人がドーナツを持ってる看板がよく目立ってる。


「ここなら休憩がてら座れるし、本屋さんの前にここ寄ろ!」


「ええええ!! 灘さんさっきお寿司たくさん食べてたのにもう食べるの!?」


 思わず声を荒げて、話してしまう。

 さっきお寿司10皿以上食べてたのにまだ食べるらしいことに思わず驚愕しつつ、自分のお腹はもうパンパンなことにも気づく。


「ええ〜って言われてもなぁ。ほら! さっきデザート本当は頼むはずだったけど、湯川くん居てササっと出る為に頼まずに出ちゃったし、だからデザートがわりにと思って!」


「それでも食べたばっかりだよ??」


「食べたばっかりだから食べたいの! さあとりあえず行こ!」


「うわ、あっ、ちょっと!!」


 灘さんはにこやかにそう話すと、僕の手を引っ張ってお店の中に入ってしまった。


ーーーーーー

 

「うわぁ。いい匂いする!! どれも美味そうだね! どれ食べよっかな〜〜」


 店内に入ると、匂いだけでも食べられそうな甘い香りのする空間が広がっていた。

 灘さんはトングとおぼんを持つと、吟味しながら商品を見ていた。


 その隣で僕もドーナツを見ていると、不思議とお腹が空いてくる。

 そして、全然そんなつもりじゃなかったのに、1個ぐらいは買って食べたいと思ってしまう。

 不思議だ……。


「とりあえずモチモチリングと、天使のドーナツ、あとはこのクリームドーナツにしよ! ああ、このドーナツボールも可愛くていいなぁ。どうしよう!」


 僕が一個に悩んでる間に、灘さんのおぼんにはドーナツがポンポンと乗せられていく。

 よく入るなぁ、と思いながら、僕も食べるやつを決める。


「うーん、悩むなぁ。マコトくんはどれ食べる?? 決まった??」


「僕もこの天使のドーナツにしようかな。これの抹茶味」


「これも美味そうだよね! しかも期間限定のやつ! わたしもこれにしようかなぁ。もういいや、そうしよ! 決定! じゃあマコトくんチャチャっとお会計するね!」


 そういうと灘さんはあっという間にレジに進んでしまったので慌てて追いかける。

 そして、この前のこともあったので、今日はあらかじめお金を用意して、灘さんが買う時に一緒にお金を出した。

 すると、灘さんに小声で、『私が誘ったからドーナツ一個ぐらい私が買うのに』と言われた。


ーーーー


「さあマコトくんドーナツ食べよ! ん〜〜〜〜! やっぱり天使のドーナツ美味しい!!」


「ホントだね。抹茶味初めて食べたけど、おいしい」


 ドーナツ屋さんのテーブル席に座ると、僕と灘さんは早速頬張った。

 確かに、あれだけ食べたのに、甘いものは何故か食べれた。別腹ってやつなんだろうけど、不思議だ。

 そして、僕よりも灘さんの方がもっと食べてたのに、普通にドーナツを今食べられてる灘さんの胃袋も不思議だ。

 もしかしたら胃袋も優等生で、僕のダメな胃袋とは違うのかもしれない……。


 なんて思っていると、灘さんはもうすでに三つ目を食べていた。


「ところでマコトくんは抹茶好きなの??」


「す、好きかな。普通の味と抹茶味があったら、いつも抹茶選んでる気がする」


「ふーん。じゃあ今度抹茶の何か食べに行こ!」


「わ、分かった」


 そんな会話を終えると、あっという間に目の前のドーナツが灘さんの口の中に収まる。

 自分も最後の一口を食べ終えると、灘さんと席を立った。


「ふぅ。美味しかった〜〜! てことで、本屋さん行こう! 流石にもう食べられないし」


「う、うん。そうだね」


ーーーー


 ドーナツ屋さんを出た僕と灘さんは、そのまま本屋さんに向かった。

 本屋はドーナツ屋の3つ隣にあった。


 店内に入ると、ショッピングモールの中の少し騒がしい声が急に聞こえなくなり、遠くから人の足音がするぐらい、静かな世界が広がっていた。


「てことで、マコトくんがいつも読んでる本があるところ行こ!」


「う、うん。あっちかな」


 灘さんの問いかけに答えつつ、漫画やライトノベルのある方へと向かう。

 

 そういえば、灘さんと初めて会った時にもオススメの本があったら教えてって頼んだ気がする。

 何冊か持っていくよってあの時灘さん言ってくれてたけど、本当に次の日学校に持ってきてくれたから、びっくりしたんだった。

 でもそれで灘さんとちゃんと友達になれる気がしたから、今こうやって普通に話せるようになったし、同じ本が好きで良かったなと思う。

 そう考えると一緒に本屋さんに来れたの、なんだか嬉しいな。


 そうふと思い返していると、灘さんが本棚を指差す。


「あ、これこの前教えてくれた漫画の新刊だよね! こっちは教えてくれたライトノベル新刊? だけどなんかちょっと違う気がする」


 囁くような声ではしゃぎながら楽しそうに話す灘さんを見て、思わず目を逸らしてしまう。

 自分の好きなものを誰かも好きと言っていると、こうも嬉しいのかと、口角が思わず上がってしまう。


「そ、そうだね。新刊だ。発売されてるの知らなかった。あ、そっちはたぶん外伝? みたいな本編とは違う軸のやつだと思うよ」


「そっか、だから名前も似てるけど少し違ったんだね! 納得」


 そう言いながら、灘さんがその本達を手に取るので、僕も同じのを手に取る。

 なんとも言えない気持ちが心に溢れる。


「せっかくだし、同じの買わない?? なんか新しいやつ!」


「い、いいよ。どれにしよう?」


「じゃあ、このダメなコトしてそうな本とかどう?? 『僕達はイケナイコトをする。』なんか高校生達が学校を爆破したり、学校のプールでモンスターを育てたりするライトノベルだって」」


 灘さんがその本を手に取ると、その表紙には四人ぐらいの高校生の格好をした男女と、学校を盛大に爆発させてる全体的にコメディみたいな感じのやつが描かれていた。


「えぇ……なんか僕達のダメなコトよりよっぽど凄いことしてるね」


「そうだね。ふふっ。でもこれ面白そうだからこれにしない??」


「僕もそれが良いかな、なんか読んでみたい」


 僕もそれを手に取って、裏表紙を見ていると、唐突に灘さんから数冊の本を渡される。


「マコトくんちょっとだけの間これ持ってて! 私用事!」


「え、」


 そう言われるがままに本を置かれて、僕は一人になる。


 どうしようかな……。


 なんて思っていると、後ろから視線と影を感じる。


「あ、柳くんこんにちは。今は一人?? こんな所で会うなんて珍しいわね」


 そこにはなんと、担任の先生である内田先生が立っていた。


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