第18話 想定外なコト


 回転寿司の「スシタベロー」

 

 それは回転寿司に行くなら最初に名前が上がる有名店だ。

 僕が小さい頃から、連れて行ってもらっている家族で来るお店。


 そんなお店に僕は初めて友達と来ていた。


「じゃあ入るよマコトくん!」

 

 なんだか緊張するなぁ……。それに不思議な気分。


 なんて思いながら僕と灘さんは、店内の液晶タッチパネルを押すと、すぐに番号が表示されて、その席に向かった。


 店員さん達に何か言われないかビクビクしていたけど、何事もなく座れたので良かった。

 思わず僕はおでこの冷や汗を腕で拭ったけど。


 そんな様子を見て苦笑した灘さんはタブレットを取ると、既に決めていたかのようにサーモンをまず注文していた。


「さあマコトくん頼も! わたしはサーモン祭りする!」


「う、うん。僕もサーモンまず食べたいから押して欲しい……かな」


「じゃあここは4つ頼んじゃうね!」


 そう言うとあっという間に注文が完了してしまう。

 何気に初めて自分で買って食べる回転寿司のお寿司だなとふと思う。


「さあ次は何頼もうかな〜〜」


 肘を机について、頬杖をしながらタブレットを楽しそうに眺める灘さん。

 普段学校では見せないラフな姿に、少し驚きつつも、僕もすかさずメニューを指して注文してもらう。


「お、マコトくんいくらの軍艦頼むんだ! じゃあ私も〜〜」


「う、うん。いくら好きだから、せっかくだしと思って」


「あのプチプチ感がいいよね! わたしいくら丼とかも好き」


 そう言いながらまたパパッとページをめくっては適当に頼んでいく灘さん。

 多分もう10皿ぐらい頼んでる気がする。

 何となく初めてケーキ屋さん行った時から思ってたけど、灘さんは意外と食いしん坊だ。

 でも、食べれる日と食べれない日がある気がする。何でだろう?


 なんて思っていると、お寿司が白いベルトコンベアのレーンから流れてくる。

 それを受け取って、完了を押す。

 もちろん来たのは一番初めに頼んだサーモン。


「じゃあ食べよ! マコトくん! ん〜〜〜〜!! おいひ〜〜!!」


「ん。おいし」


 僕が一皿目を食べてる間に、サラッと灘さんは二皿目を食べてる。

 好きなものを食べてる時の灘さんの手はいつも早い気がする。


 そして僕が一皿目の二つ目を食べていると、そんな灘さんの手が急に止まって、何かを思い出したかのように目線をこっちに持ってくる。


「そういえば、マコトくんって好きな食べ物何?? さっき聞き忘れちゃってたなぁと思って!」


 まさかの急な質問に思わず二皿目に醤油をたくさんかけてしまう。


「うわぁ。」


「ありゃりゃ。やっちゃったね! まあでもそれも美味しいと思うよ! ふふっ」


「そう、だね。ふふっ」


 思わず二人で苦笑してしまう。

 何でもないことだし、いつもなら落ち込むことなのに、何故か楽しい。

 そう思いながら、サーモンを一口で食べて、灘さんの質問に答える。

 

「え、っとね。それで、好きな食べ物なんだけど……ラーメンとか好きだよ。あと、天ぷらとか」


「ええ、なんか意外かも! でもどうしてさっき言わなかったの??」


「ほら、好きなものとその時食べたいものって違うから、さ」


「わたしは分かんないかも。いつだって好きなもの食べたいし、満たされたいし。あ、そうだ!」


 そう言って、灘さんが来る時にも見せてたいつもの悪戯顔になる。

 何かを思いついた! って表情でメニューをめくっていく。

 そしてキラキラした目でこっちに話しかけてくる。


「マコトくん!! せっかく来たし、今だから出来ることしよ! ダメなコト!」


「えぇ……。な、何するの??」


「それはね〜〜、お寿司スペシャルを作ること!!」


「う、うん?」


「たくさんお寿司を頼んで、一つのお皿に盛り付けてタワーを作るの!! そうすれば夢の寿司パフェになる! どう!? ってことで早速頼んじゃお!」


 僕が制止する間も無く、灘さんが勢いのままにまた15皿とか頼んでる。

 食べ切れるのかなと思うと、思わず体が震えてしまう。

 そしてしばらく経つと、一気に注文したお皿がやってくる。


「さあ作るよ! マコトくんも余ったやつで作ってね!」


 そう言うと、灘さんはパパパパッと二つ乗ったお寿司の片方を一つのお皿に乗せていき、あっという間に色とりどりのお寿司でいっぱいになる。

 そしてそこには、見たこともないようなお寿司のタワーが出来上がっている。

 マグロ、サーモン、甘エビ、ブリ、鯛、いわし、炙りサーモン、生ハム、ほたて、いくら、まぐろユッケ、うに、はまち、えんがわ。

 これらが一つのお皿の上に乗ってる……。

 量が凄い……。


「出来た!! お寿司スペシャル!! 美味しそう!!」


 はしゃぐ灘さんが自分のスマホで写真を撮っている中で、僕も言われた通り余ったお寿司を集めて盛ってみる。

 意外と美味そうなやつが出来上がり、ちょっとワクワクする。

 ダメなコトだけど、食べるなら問題ないし、遊んでるわけでもないから、これは良いダメなコトな気がしてくる。

 やってることはお寿司の上にお寿司を乗っけてるだけだし。


 なんて思っていると、灘さんはもう作ったお寿司スペシャルの半分ぐらいを平らげてる。

 

「んまぁ〜〜! サーモンと生ハム一緒に食べるの美味しい!! ウニとまぐろも美味しい!! 併せて食べるのやってみたかったけど、これは至福……。マコトくんもやってみて……」


 恍惚な表情で目を瞑りながら幸せそうに頬張る灘さん。

 頬が膨れてリスみたいになってる。

 だけど、そんな顔でおすすめされると、僕も自然とやってみたくなってしまう。

 なので、サーモンと生ハムのネタを半分にして、一緒に食べてみる。

 すると、口の中いっぱいに幸せが広がる。

 サーモンの甘さと生ハムのしょっぱさ、そこに絡むシャリの甘さが絶妙に絡み合う。

 思わず声が出てしまう。


「……!! うま……!! これ一番好きかも……」


「でしょ!! その組み合わせやばいよね!! それとね、ほたてとうにも美味しかったよ!!」


「ほんとに! じゃあ……やってみようかな」


 灘さんに言われるがままに、ほたてとうにも一緒に食べてみる。

 なんだかいけないことをしている気分になるけど、美味しさが口の中に広がるとそれらを忘れてしまう。


 なんてやりとりをしていると、あっという間に二人ともわけあった14皿分を食べてしまった。

 いつもならこんなに入らないけど、テスト終わりだからお腹が空いてたのかもしれない。


 そうしてお腹をさすると、急にトイレに行きたくなる。


「ちょ、ちょっと灘さん僕トイレ行ってくるね」


「うん! 行ってらっしゃい!」


 14皿の前に頼んだメニューを黙々と食べる灘さんを横目に僕はトイレに駆け込む。


ーーーー


 ふぅ。

 危なかったけど間に合った〜〜。


 なんて思いながら用を済ませて、手を洗っていると、急に肩を後ろから叩かれる。


「あ、やっぱりマコトくんだ! こんなところで会うなんて珍しいね!」


 ドキッとしながら振り返ると、そこにはクラスメイトの湯川 雄太くんが居た。


 黒髪で短髪、目がキリッとしているカッコいい子。

 サッカーをやってて、クラスの中心人物。

 灘さんの男の子版みたいな子だけど、正義感が強くて、いけないことをしている友達が居るとすぐに先生に言ってしまう僕の子。


 そして、いつもクラスで灘さんのことが好きだと言ってる子だ。


 そんな子に回転寿司の中で会ってしまった。


 どうしよう……!!!!


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