第17話 回る中で回るコト


「なんか今日は人の量がすごいね。普段の学校終わりよりずっと多い気がする」


「そう、だね。何かあるのかな?」

 

 テスト終わり、僕と灘さんはショッピングモールに行く為に駅前に来ていた。


 土曜日のお昼頃だからか、歩くだけでも通路の向かい側の人とぶつかりそうになる。

 心なしか、さっきから人によく見られている気がする。

 いつも登校する時には感じないのに、どうしてだろう。


「な、なんかよく誰かに見られてる気がするんだけど、気のせいかな?」


「あーー、たぶんだけど、土曜日だからランドセル背負ってる私達が珍しいんじゃない??」


「そっか、確かに」


 灘さんはなんでもないかのように質問を返してくれる。

 なるほど、とそう思いながら灘さんについて行くと、目の前の灘さんが駅の通路で急に立ち止まる。


「ってことで、そんなことも考慮して今日はここにランドセルを入れてからショッピングモールに行きます!」


 そこには灰色の大きなコインロッカーがある。

 四角い枠がたくさんある中で、灘さんが指で指し示したのは縦長の少し大きいサイズのものだった。


「コインロッカー使うの??」


「そう! さっきマコトくんが話してた通り、ランドセル背負ったままだと目立つからね! ダメなコトするのには向いてないから、前々からもしやるならと思って見つけておいたの! てことで入れよ!」


 そう言うと灘さんはガチャっとその四角い扉を開けて、ランドセルをヒョイっと入れてしまう。


「さ、早くマコトくんも入れて!」


「え、でもこれっお金かかるんじゃ……」


「それは別にいいよ! ほら、昨日もマコトくんの家で色々貰ったしこれでチャラ!」


「ええ…………」


 それ昨日も言ってたじゃん……。

 なんて言えないまま、灘さんに急かされるので、仕方なくランドセルをその中に押し詰める。

 まだもう一つぐらい入りそうだな、なんて思いながらそこを閉める。


「ってことでショッピングモールに行こーー!!」


 いつになく元気な灘さんが少し早く歩きながら先に行ってしまうので、僕もそれを追いかけるようにして歩き始めた。

 僕はテストの疲れがあるのに、灘さんには全くないみたいだ……。

 

ーーーー


 駅から繋がった蒸し暑い通路を通って、僕と灘さんはショッピングモールの中に入った。

 

 駅とショッピングモールを隔ててるドアを開けて入った瞬間に、蒸し暑さが消えてフワッと冷たい空気が全身を包み込んで、僕と灘さんは途端に顔を見合わせた。

 エアコンが効いてる世界が天国のように感じた。


「やっぱり涼しいのっていいね〜〜なんかこう、歩いてても癒される気がする」


「そうだね。学校までの道にもエアコン付いてて欲しい。外だけど」


「本当にそうなって欲しいね〜〜。九月末なのに外暑すぎるもん」


 なんて会話をしつつ、僕と灘さんはショッピングモールの奥へと向かった。

 

 突き当たりのエレベーターに辿り着くと、灘さんは上の階層ボタンを押した。

 するとちょうど目の前に止まっていたみたいで、僕たち二人だけで乗ることが出来た。

 そして中に入ると、灘さんがまたすぐに6階のボタンを押していた。


「6階行くの?」


「そう! もうお昼だから、行き先はレストランホール!」


 そう言われて灘さんが指す壁に貼ってある案内表示を見ると、そこにはレストランホールの名前が書いてある。

 そしてそれを見ると思い出したかのように、お腹が鳴る。


「考えてみればお昼今日食べてなかったね。確かにお腹空いたかも」


「でしょ!? だから最初に行くならここしかないなと思って! それより」


「それより?」


「マコトくんがお腹空いてなかったらどうしようと思ってたから安心した」


 そう悪戯顔で灘さんが話すと、ちょうどドアが開いたので、僕達はエレベーターから降りた。


 降りると、エレベーター前には広場? があって、その真ん中に大きなタッチパネルのようなものがあった。

 そこに行って覗いてみると、そこにはその階層のいろんなお店の写真とメニューが載っていた。


「てことでマコトくん何食べる??」


「うーん……全然思い付かない」


「だよね……」


 そこにはお肉からお寿司からハンバーガーまで。ありとあらゆるものが載っている。

 何でもあると逆に何が食べたいか分からなくなってしまう。

 そんな感じに僕も灘さんもなっていた。


「と、とりあえず適当に押してみよ! このローストビーフ丼とか! えいっ!」


 灘さんが勢い任せに押すと、そこには途轍もなく高いお金が表示されていた。

 お小遣いからだと厳しいぐらい。


「こ、これはちょっと高いね……」


「そ、そうだね。これは私でもちょっと高いかな……。じゃ、じゃあこの定食屋さんとか??」


「そこは安いけど、そんなに食べれる気しない、かな。カツが大きすぎるよ……」


「ホントだ。じゃあどうしよう。うーん。あ、というかそうだ! マコトくんって苦手なものとかあるの??」


「え??」


「ほら、いつも給食食べるの遅いし、そういえばどうなのかなって」


 本当に今閃いたみたいに灘さんが唐突に質問してくる。

 思わず目を見開いて固まってしまう。

 でも確かに灘さんに話したことないかもしれない。


「それでどうなの??」


「えっと、一応全部食べられるよ! お肉も魚も野菜も。いつもは食べる時間が短過ぎるだけだから……」


「そっか、じゃあどれにしても大丈夫だね! ちなみに私も全部食べられるよ! でもそうなると余計に悩んじゃうなぁ。マコトくんが食べられないものから選択肢から外してけばいいかなと思ったのに……」


 そう言うと灘さんはまた黙り込んで考えてしまった。

 たぶん二人ともが食べられる値段で、美味しくて、入れそうなお店を探してくれているんだと思う。

 それにしても、灘さん、どうして苦手なものだけ聞いて好きなものは質問してこなかったんだろう……?


 なんて思っていると、灘さんの独り言が聞こえてくる。


「二人とも食べれて安くて、量も大丈夫なところ……それで入れそうなお店……お小遣いでも大丈夫なところ……」


 そしてそれを聞いて、僕が閃いてそれを指差そうとすると、灘さんも同時にそこに指を指す。

 そして思わずお互いを見る。

 

「「回転寿司にしよ!!」」


 そうして僕達は回転寿司に向かった。

 

 

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