第16話 答えるコト


 勉強会をした翌日。つまりテストの日の朝。空はすごく晴れていて、涼しい風が吹いていた。

 

 土曜日の朝だからか、いつもよりも車も人も少なくて、とても歩きやすい。


 そんな普段より歩きやすい道を歩いているのに、僕の心の中は不安と緊張で埋め尽くされていた。

 そして朝からお腹が痛かった。


「うう……どうしていつもテストの日の朝はお腹痛いんだろう……。でも今日は暑くないからまだ良かった……」


 なんてお腹をさすりながら一人で呟く。

 そしてテストの緊張とは別に関係無い不安や不満がたくさん頭の中に出てくる。

 

 どうして僕の通ってる学校は、土曜日にテストがあるんだろうとか、テストは来週が良いとか……。

 

 学校まだ始まらないで欲しい、テストまだ来ない欲しい、なんてことを思っていると、あっという間に駅に着いてしまった。

 その事実にさらにお腹が一段と痛くなり、もう帰りたいと思ったのと同時に、誰かに後ろから肩を叩かれた。

 そこには、今日も朝からニコニコしている黒髪の同級生が居た。

 

「おはよマコトくん! ってどうしたの!? なんか朝から顔真っ青だけど!」


「な、灘さんおはよう。だ、大丈夫だよ。ちょっと緊張しちゃって……」

 

「ええ〜〜それにしても青すぎるよ! 本当に大丈夫?」


「う、うん。たぶん」


「そっか。まあでも、緊張することなんてないよ! ほら、昨日とかみんなで頑張ったし、だから大丈夫だよ!」


 そう笑いながらガッツポーズをして励ましてくれる灘さん。

 優しさがすごく伝わってくる。

 思えば今週はほぼ毎日灘さんと朝から会って話してる気がする。

 

 なんて考えていると、不思議とお腹の痛さが引いていく。


「あ、なんか痛くなってきたかも」


「ふふん。それはあたしパワ ーが効いたのかもね! じゃあとりあえず行こっか」


 本当に灘さんのパワーな気がすると言えないまま、僕は改札を通った。


ーーーーー


 学校の校門前に着くと、灘さんが急に肩をトントンと叩いてきた。


「じゃあ、今日の放課後よろしくね!」


 それだけを言うと灘さんは他のクラスメイトの女の子二人組のところに駆けていった。


 言われた内容の意味がよく分からなかったけど、急に昨日の夕方のことを思い出して、今度はお腹がドキドキしてきた。


 そんなことを考えながら、今日の花の水やり当番として、学校の花壇の花に水をあげていた。


ーーーー


 そうして当番を済ませてから教室の席に座り、朝のホームルームを終えると、いよいよテストの時間がやってきた。


 昨日やったけど、今週はあんまり自分では出来てなかったし、解けるかすごく不安になってくる。


 お腹の痛みは無くなったから良かったけど、しっかり解けるかなとどうしても思ってしまう。


 そうして自問自答していると、数学のテストの紙が配られる。


「始め!」


 赤ぶちのメガネをかけていて、いつも真っ赤なリップを塗っている田村先生がそう言うと同時に、みんなが一斉にテストの用紙をひっくり返して解き始める。


 そして問題を見て驚く。


(うわぁ、すごい。全部昨日灘さんと相田さんに教えてもらったやつだ!)


 そう思いながら一問目から順に解いていく。

 すると、自分でも笑いそうになるぐらい、普通に解けていく。

 今までなら一問にすごく時間かけて頑張って解いていたのに、今日はスラスラと解けていく。


 だがしかし、解いている中で分からない問題がやってくる。

 分からない。そう思うと、何故か緊張して汗が出てくる。


(ここ分かんないなぁ……。でも確かこれ、灘さんと相田さんが間違いやすいって言ってたやつだ、えっとだから……。こうだった気がする!)


 昨日のことを思い出して、ゆっくりと解いてみる。

 すると、しっかり解けて、最後の問題にまで辿り着く。


 最後の問題を解いてる途中で、「辞め!」


 と言われて、テストが終わる。


 最後の問題は解けなかったけど、初めてテストが解けた! 問題が分かった!

 そんな気持ちに包まれて、僕は初めて分かる楽しさを知った。


 ーーーー


 そんなこんなで4教科が無事終わり、午前中で授業が終わると、灘さんと相田さんが僕の席にやってきた。

 なので二人が話かけてくる前に僕から先に口を開く。


「な、灘さんと相田さんその、えっと……ありがとう!! なんか、初めてしっかり問題解けて、気付いたら集中して出来てた!」


「なら良かった! わたしも教えた甲斐があるよ!! だから朝言ったでしょ? 大丈夫だって!」


 そう言いながら灘さんが自慢気な顔で親指を立ててグッとやってくる。


「フフッ、まことくんがしっかり解けたなら良かったよ! 昨日しっかり伝えられたかなって心配だったから」


 相田さんも灘さんの真似をして親指を立てながらそう言ってくれる。

 二人ともにまた何かお返ししたいな。


 なんて思っていると、相田さんが慌ただしくなる。


「あ、もうこんな時間。お迎え来ちゃうから私は行くね! 二人ともじゃあね!」


 そう言うと、慌てて相田さんは教室から走って出て行ってしまった。


「るみちゃんはテスト終わりなのに今からまた習い事なんだって。今日は茶道だって言ってた」


「えぇ……それはすごいけど、なんか大変そうだね……」


「だよね……。もう少し遊べる時間あっても良いのになぁって思っちゃう」


「う、うん……」


 話が終わると、一拍おいてから灘さんが胸の前でパチンと両手を鳴らす。


「まあそれはそれとして! とりあえず駅まで行くよマコトくん!」


 相田さんに共感していた時の表情とは打って変わって、悪戯顔の灘さんがそう急かしてくるので、僕は慌ててランドセルを背負った。


 ーーーーー


 学校を出て、しばらく歩くと、灘さんがニヤニヤしながら話しかけてくる。


「それでマコトくん、今日はデートなんだけど、今からどこに行くと思う??」


 デートという言葉に思わず反応して、胸がドキンと一瞬なりつつも、どこに行くつもりなのかを考える。

 いつもの神社では無いだろうし、コンビニでも無いだろうし……。

 うーん。どこなんだろう……。


 なんて考え込んでいると、灘さんが人差し指をバッテンにしてこっちに向けてくる。


「ブッブー。マコトくん時間切れーー。もう〜〜答えるの遅いよ」


「ええ、だって全然思いつかなくて」


「そんな考え込まなくても大丈夫だよ。だってもう目の前にあるし」


「え?」


 そういうと、灘さんは駅から線路を挟んだ向こう側にある大きな建物を指差す。


「正解は、あのショッピングモールに行って遊ぶ! でした!!」


「ええええええ」


「今日は今までよりも大きなダメなコトするよ!!」

 

 

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