第11話 三人のコト


 ケーキ屋さんに行った翌日の朝。


 僕は昨日と同じように、駅で灘さんと待ち合わせをして、一緒に登校していた。


 今日は何もせず、普通に登校したので逆にちょっとモゾモゾした気分になった。


 だけど、学校の友達と話しながら登校するという、今まで出来なかったことが出来てることに、改めて嬉しさを感じていた。


 そんなこんなで灘さんと学校前の校門まで来ると、前の方から急に視線と気配を感じた。


 そしてよく見ると、そこには校門の裏からひっそりとこちらを見ている金髪の少女––––相田さんの姿があった。

 そして、僕と目が合った瞬間に、一気に走って向かってきた。


「うわああああああ!!!!」


 思わず急いでその場から離れようとするも、何かに引っ張られて走り出せない。

 そして後ろを見ると、灘さんが何故か僕の背負っているランドセルを掴んで逆方向に引っ張っている。


 どうやらこれは逃げられないイベントらしい。

 

 そんな焦っている僕を見る灘さんは悪戯顔をしている。


「大丈夫だよマコトくん! るみちゃんは怖くないから大丈夫。てことでマコトくん捕まえたよ」


 そう言うと、すぐそこに朝から元気な相田さんの姿がある。

 走ってたはずなのに息切れ一つしてない……。


「ありがとなこちゃん! てことで二人ともおはよう!」


「おはよ!」

「お、おはよう」

 

「まあ、捕まえて貰ったところで用事はほとんどないんだけどね。改めて昨日のこともう少しお話したいから、お昼休みみんなで話そうねって約束をする為に待ってたの」


 ええ……。

 それだけの為にどのぐらい相田さん校門で待ってたんだろう……。

 時々朝早く登校した時とか、いつも必ず居るし……。


「それで、二人とも大丈夫?」


「わたしは大丈夫だけど、マコトくんは?」


「僕も大丈夫、かな。頑張って早く給食食べなきゃだけど……」


「じゃあ決まりね! なんだか楽しみ! それじゃあ私職員室行くからバイバイ!」

 

 それだけを言い残し相田さんは去っていった。


 朝から心臓に悪いぐらいの勢いで迫られたせいか、僕の胸がまだバクバクと鳴っているし、なんとなく疲れた……。


 そう思っていると、隣の灘さんがニヤリと笑っている。


「マコトくんうわあああ!! だって。ふふ、可愛かったよ」


「うぅ……」


ーーーー


 朝からどっと疲れてぐったりしていた僕は、何とか力を振り絞って午前中の授業を終えた。

 そしてようやくお昼の時間が来た。


 給食もなんとか早く食べ切って、やっと休めると思ったが、朝の約束があることを思い出し、少し憂鬱になる。


 せめて5分ぐらい寝たい……。

 それとして友達と話したり遊んだりするのは、やっぱり結構疲れることなのかもしれないなぁ……。


 なんて思っていると、灘さんと相田さんが一緒に僕の前に来る。


「マコトくん、やっほ! 遊びに来たよ。とりあえず、ここじゃ先生に聞かれちゃうし、3階の空き教室に行こ」


 そう灘さんが小声で話しかけてくるので、僕はそっと頷き教室を出た。


ーーーー


 僕達は、クラスがある2階から3階へ上がって、突き当たりの教室まで移動した。

 空き教室だから当たり前だけど、すごくがらんとした場所で、机もなければ椅子もなくて、おまけにカーテンも無い。


 そんな、日差しが差し込む教室に三人で囲むようにして座る。


 昼休み、誰かと話して過ごすなんて初めてかもしれない。


「それじゃあ二人に改めて聞くけど、ダメなコトをする遊びってどういうことするの?? 昨日の説明だけじゃよくわからなかったんだけど」


「え、分かってなくて一緒にやろうとしてたの?」


「そうだよ? だって楽しそうだし、なこちゃんと私も遊びたいし……」


「てっきりあの時の説明だけで分かったのかと思ってた」


 そんな会話をする二人を他所に、窓の方を眺めていると、パンッ! と手を叩く音がした。

 ビクッとして前を向くと、笑顔で手を合わせてる相田さんが居る。


「それで、どういうことするの!! 私も参加するならそこのところしっかり教えて! というか、なこちゃんとの間に秘密あるの嫌!」


「分かったって。それに秘密にするつもりなかったよ? るみちゃんには話して誘う予定だったし」


「そうだったんだ」


 てっきり二人だけの秘密を貫くものだと思ってた……。


「じゃあ話すけど、まずダメなコトをして遊ぶのはこの三人です! そしてルールは三つ。誰かを傷つけないこと! モノを壊さないこと! 取り返しのつかないことはしないこと! これだけです!」


「おおっ」

「おお」


「それで今決まってるのは、大人なお店に行くことと、映画観に行くことと、本屋さんに行くことぐらいかな! あ、学校終わりとかに私たちだけでね。大人にも秘密! って感じなんだけど、るみちゃん的にはしてみたいことある??」


「ほおほお。つまり大人にも秘密なことで、かつ所謂やったらダメなコトをして遊ぼうってことね! だけどしっかり私達の出来る範囲内のことをする……。理解したわ!」


 そう言って相田さんはものすごくうんうんと頷いている。

 僕は理解するのにすごく時間かかったのに、今聞いただけで理解出来ちゃったのか……すごい。


「さすがるみちゃん話が早い!」


「「イェーイ!!」」 ハイタッチ


「じゃあるみちゃんは何してみたい??」


「うーん、あんまり思い浮かばないけど、とりあえずその、帰り道で何か買って食べてみたいかな……。どう?? 私したことないから……」


 モジモジとしている相田さん。

 その横で僕と灘さんは顔を同時に合わせた。そして思った、昨日の朝やったやつの帰り道版じゃんと。

 

 そして次の瞬間、灘さんがパチンと手を合わせて立ち上がった。


「じゃあ二人とも今日は放課後帰りにコンビニに行こう!!」


 高らかな宣言と共に昼休みが終わった。

 


 

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