第10話 知りたいコト


 ケーキ屋さんの奥の席。


 僕と灘さんは正式にダメなコトをする友達なりに、乾杯したその直後。

 ふと横を見ればそこにはクラスメイトの相田さんが立っていた。


 相田さん、こと相田 るみさん。

 同じクラスの学級委員。

 ブロンズの透き通った金髪が目立ち、青い眼を持つ目が大きい子。


 身長は灘さんと同じぐらいで、僕と目線が同じぐらい。

 クラスの中でもトップクラスに頭が良くて、容姿も整ってる。

 灘さんが引っ越してくる前はクラスで一番男の子にモテてた子で、いつも灘さんと仲が良い子。

 授業中座ってる姿もお人形さんみたいで、確かどこかの国の人とのハーフだったと思う。

 今もお姫様のドレスのようなワンピースを着ていて、すごく目立ってる。

 なんというか、メルヘンな感じ。

 

 そんな彼女に見られたくないタイミングで、灘さんとの姿を見られてしまった……。


「それで二人は何してるの? というか、二人だけ??」


 不思議そうな顔で相田さんが灘さんと僕の顔を行ったり来たりしながら見つめてくる。


 どうしよう……何か言い訳考えないと……。

 というか、さっきのダメなコトについて話してたのとか聞かれてないかな……? 大丈夫かな……。


「え、えっと……」

「あ、るみちゃん! やっほー! そうそう二人だけだよ! 帰りに寄りたくて寄ったの! あたしとマコトくんいつも行きと帰りの電車一緒だから誘ったの!」


 僕が話そうとすると、灘さんがそれをさえぎるようにして、あることないことを話し始める。

 僕は思わず苦笑いして、二人を見る。

 今言ったことの半分ぐらいは嘘なのに、灘さんは本当のことのように話している。

 でも確かに見方によっては間違ってないような気がする。

 灘さんはすごいなぁ。


 そんな灘さんの反応を見て、相田さんが少し驚きつつも、納得の表情を浮かべる。


「そうだったのね! てっきり私みたいにお母さんとかと来てるのかと思ったけど、違ったのね。それとして珍しい組み合わせだったから、思わず声かけちゃった。なこちゃんがマコトくんと仲良いの初めて知ったんだけど、いつから仲良いの?」


「えーと、昨日ぐらい? あたしから誘ってみたら、マコトくん普通に遊んでくれるから、一緒に遊んでる」


「へぇそうだったんだ。 ちなみにどんなことして遊んでるの??」


「神社行ってみたりとか? あたしが一人で行けないところに付き合ってもらってる感じかな。ほら、るみちゃん誘いたくてもいつも習い事で誘えないし」


「うっ、確かにそれはそう。それならマコトくんには感謝しなくちゃだね。マコトくんありがとうね! このおてんば娘の相手してくれて!」


「う、うん。僕の方こそ遊べて嬉しいよ」


 そう言いながら相田さんが笑顔で手を差し出してくるので、僕もその手を受け取って握手する。

 どうやら今の会話だけで誤解は解けたみたいだ。

 というか、相田さんと灘さんってこんなに仲がよかったんだ。知らなかった……。

 あとやっぱり僕が居ることに不思議さを感じてたんだ。

 まあでも確かに仲が良い友達が他の子と居たら気になるのかもしれない……。

 

 それとして、二人でケーキ屋さんに来てること自体には何にも思わないのかな?

 まあでもとりあえずさっきまでの話は聞かれてなさそうで良かった。

 ちょっとホッとした。


「それでさっき、なこちゃんがダメなコトがどうのって聞こえたんだけど、それって何?? まさか変なことしてないよね??」


 やっぱり聞かれてた……。ヤバい、どうしよう。

 冷や汗が全身から出てくる。


「あははは、やっぱり聞かれちゃってたか。」


 そう言いながら灘さんがジト目でこっちを見てくる。

 なんとなく、『ヤバい』って伝えてきてる気がする。


「やっぱりってことは、何か隠してるってことよね? なこちゃん話して! さあ!」


 相田さんは眉間に皺を寄せながら、ニタッと笑った表情を作って、灘さんの顔に、自身の顔を近づけていく。

 気のせいか髪が逆立っている気がする。


 そしてその気迫に押し負けたのか、珍しく灘さんが降参のポーズとして手を上げる。


「分かったからるみちゃん怖いから近づかないで! 目が笑ってないよ!」


「分かったならよろしい。じゃあ話してください」


「えっとね……」


 それから灘さんは相田さんにさっきまで話してたことを全部話した。


 これからやりたいダメなコト、大人に秘密のやりたいことをやる友達関係を結んだこと、そして今日はその記念すべき1日目ということ、それらを相田さんに伝えた。


 すると、相田さんは話を聞きながら徐々に表情を変えていき、怖い顔だったのがキラキラした目になり……。


「ええ! じゃあ二人でそんな面白そうなことするってこと……!? えーー良いなぁ! 私もやりたい! そのダメなコト! ねぇ加えてくれない? お願い! ねぇ、なこちゃん〜〜〜〜」


 急にバレるどころか一緒にやる仲間になりかけていた。

 今は灘さんに抱きついてお願いしている……。


 相田さん、さっきまでと違ってすごく楽しそうだ……。灘さんは戸惑ってるけど。

 あとなんかびっくりするぐらい必死にお願いしてるけど、どうしてだろう。


「もう〜〜!! 分かった、分かったよ! けど、あたしじゃなくてマコトくんにもお願いして。ほら、これってあたしとマコトくんで始めたコトだし」


「うん。ねぇ、マコトくん私も一緒にダメなコトする仲間に加わってもいいかな? その、楽しいことには私も参加してみたくて……」


 モジモジしながら相田さんがお願いしてくる。目線がチラチラっと時々合う。


「も、もちろん僕はいいよ。灘さんが誘ってくれなきゃ僕も遊べてなかったし」


 僕がそう言うと、相田さんの顔がパーっと晴れていき、輝き出す。


「本当! ありがとう! じゃあ私もこれからはマコトくんとダメなコトフレンズだね! よろしく!」


「う、うん。よろしく」


 ものすごい笑顔で言われて、思わず僕も返事を返してしまう。


「ところでるみちゃん一緒に遊ぶのはいいけど、習い事とかは大丈夫なの?」


 灘さんのその一言が入った途端、その楽しそうな顔が一瞬で崩れて、相田さんが少ししょぼんとする。


「そうなのよね。そっちは休めないから、結局一緒に遊べるのは月に数回とかかも……せっかく入ったけど、二人ともごめんね」


「ええっと、僕は気にしないから大丈夫だよ」


「あたしも大丈夫」


「本当にありがとう!! 嬉しい。私その、この習い事あるせいで普段からあんまり友達と遊べてないし、その上でいつも大人と居るから、二人のその大人に秘密のダメなコトをして遊ぶって言うのが羨ましくて……だからその、遊べる時は全力で遊ぼうね!」


 そう言う相田さんの顔はものすごく笑顔だった。


「じゃあそろそろ私お母さんのところ戻るね! 二人ともまた明日!」

 

 相田さんは手を振りながらそのままケーキ屋さんの出口の方へ歩いて行った。


 しばらくすると、灘さんがふぅーーっと息を吐きながら、椅子にもたれかかった。


「流石にびっくりしたぁ。まさかるみちゃんが居るなんて思ってなかった。マコトくんも色々あったけど大丈夫?」


「う、うん。僕は大丈夫。でもなんか疲れたかも」


「だよねーー。ふふっあたしも。じゃあそろそろお店出よっか」


 こうして僕と灘さんは荷物を持って外に出た。


ーーーー


 外はもうすっかり暗くなりかけていて、車もライトをつけ始めていた。


 そんな中で、灘さんと僕は駅に向かって歩いていた。

 灘さんがふと何かを思い出したかのようにこちらを見る。


「そういえばすっかり夜になっちゃったけど、マコトくん大丈夫? その門限とか……」


 確かに、17時半は過ぎてるだろうし、普通なら帰ってる時間か。あと遅いって怒られてしも仕方ない時間な気もする。


「僕は一応大丈夫、かな。いつもお父さんもお母さんも帰ってくるの遅いし」


「そっか。なら安心だね。マコトくんが怒られる原因作っちゃってたら申し訳ないと思って」


 灘さんは一瞬思案した後に、笑ってそう言った。

 それを見て、ふと灘さんは大丈夫なのかなと思った。

 すると、灘さんが何かを察したようにまたこちらを向いた。


「あ、私ももちろん大丈夫だから安心して! その、あたしもパパとママ帰ってくるの遅いんだ〜〜だから一緒だね」


 そう言った灘さんは一瞬寂しそうな顔をした後、くしゃっとした笑みを浮かべた。


「じゃあサッと電車に乗って帰っちゃおう!」


 目の前には駅がいつの間にか見えていて、灘さんは何かを隠すように、僕を置いて先に早歩きで改札に行ってしまった。


 それを僕も追う。


 そんな中で、さっき初めて灘さんと何かが通じ合った気がした。

 

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