第8話 放課後のコト
放課後、校舎前の正門で待ち合わせした灘さんから飛び出てきたのは「今からスイーツを食べに行きます!」と言う言葉だった。
それから10分後、僕達は駅前の通りにまで歩いてきていた。
「それで灘さん、本当に行くの?? というか、僕達だけでも入れるの?」
「大丈夫だよ。しっかりチェックしてるし、入れることも分かってる!」
本当に大丈夫かなぁとも思いつつ、僕は灘さんの後ろについて行った。
放課後、どこかお店に寄る。
それはどこか大人びた甘美な響きのするコトで、もっと年上の中学生だとか高校生の人達がやっていることのように思っていたコト。
そんなことを今から小学生の二人だけですると言うことに、多少のドキドキ感とワクワク感、そして不安を感じていた。
本当に大丈夫なのかな……。灘さん妙に自信満々だったけど……。
僕達だけだと入れないお店ってたくさんある気がするし、それにまだランドセルもあるし……。
あとどこに行くんだろう?? スイーツって何のスイーツ何だろう。
そう感じていると、唐突に灘さんが振り向いた。
「じゃじゃ〜ん!! ここです!! 着いたよ!! 私の大好きなケーキ屋さん!」
灘さんに言われ振り向くと、そこには大きなケーキ屋さんがあった。
ガラスの自動ドアがあって、その正面にはショーケースに美味しそうなケーキがずらりと並んでいる。
そしてその奥にはテーブル席が何個もあって、多分もっと奥の方にも続いている。
名前は英語でよく分からないけど、とにかく高そうなケーキ屋さんがそこにはあった。
「うわぁ……凄い。ってもしかしてここで食べるの!?」
「もちろん! ここのケーキすっごく美味しくてね、前にママと食べた時から大好きなの。てことで入るよ! ゴーゴー!」
「えぇ! ちょっと、灘さん待って……!」
灘さんは僕なんてお構いなしにさっさと入ってしまったので、慌てて中に入った。
ーーーーーーー
中に入ると、その中は意外と広かった。
天井にはライトと大きな扇風機みたいなやつが回っていて、壁にもライトが付けられていた。
入った瞬間に甘くて良い匂いが頭の中に広がって、すぐにお腹が空いてきそうになった。
あまり来たことないからどう言えばいいか分からないけど、とにかくオシャレなお店だということは分かった。
そんな感想を抱いていると、灘さんが手のひらをくいくい、として僕をそばに呼んできた。
「マコトくんそれでどうする?? どれにする?? 私はこのガトーショコラケーキといちごのショートケーキで悩むんだけど……。」
そう言いながらショーケースを眺める灘さんの隣で、僕も促されるままにショーケースを覗き込む。
そこには台が2段あって、一段ずつに8種類ぐらいのケーキが並んでいた。
真ん中の方に灘さんの言うガトーショコラがあって、その三つ隣にショートケーキがあった。
どうやら上の段には三角のケーキがたくさんあって、その下の段にはプリンとかタルトとか、他の種類のスイーツが飾られているみたいだった。
正直に言うと、全部のケーキの値段が高くて、僕は固まっていた。
高い……。
一応、一人で夜まで留守番することが多いから、夕飯を帰りに買ってこれるようにお小遣いはいつも多めに貰ってるんだけど、それでも高い……。
でも、こうやって友達と遊ぶこともほとんどないし、それでいつも貯金箱にほとんど全部入れてるから、こういう時ぐらい普通に頼んでみるのが良いのかもしれない。
それに、灘さんとケーキ食べられることなんて滅多にないだろうし。
どれにしようかな。
と言うかそもそも本当に大丈夫なのかな……? 一応買えそうではあるし、灘さんも普通にしてるけど、すごく不安だ……。
そう心の中で呟きながら、ケーキを眺めていると、灘さんが肩をトントンと叩いてくる。
「マコトくん決まった?? あたしはやっぱりこのガトーショコラにする! 一度食べた時から忘れられなくて……」
「そうなんだ。そう言われるとそれも気になる……。まあいいや、僕はこのモンブランにする。その、モンブラン好きだから……」
「おお!! なんかちょっと意外かも! てっきりその横のブルーベリータルトにするのかと思ってた! いいね! モンブランあたしも好き! ってことでお会計するね!」
「え、あっちょっと……」
そう言うと灘さんはおもむろに財布を小さなバッグから取り出した。
そしてそのまま半ば強引に、僕に何も言わせないような速さで、そのまま僕の分までお金を払ってしまった。
そのことで急に引け目を感じて不安に陥ってしまう。
どうしよう……。お金返さなきゃ。
灘さんのお小遣いで払ってもらうなんて絶対ダメだし、それにお金の貸し借りはダメだって言われてるし。
なんて言おう……。
てっきり一人ずつ払うと思ってたから、咄嗟のことで言い出せなかった……。
そう思っていると灘さんが僕の肩を叩いてきた。
「じゃあマコトくんあの奥の席行こ! ケーキは店員さんが持ってきてくれるから!」
明るく言う灘さんに手を引かれて、僕は一番奥の席に灘さんと向かい合う形で座った。
ーーーー
席に座ると、さっきのお金のこととか、小学生の僕達だけでこのお店入っても本当に大丈夫なのかな……? という心配で頭の中が埋め尽くされていた。
だからか、僕は無意識的にテーブルに置いてあったメニュー表を覗き込んで、隅から読んでいた。
すると、僕の不安を感じとったのか灘さんが笑顔で話しかけてきた。
「とりあえず、さっきのは気にしなくて大丈夫! その、あたしが食べたくてきたのに、ケーキなんて高いものマコトくんが買うのは違うし! それに、昨日も今日も、あたしのやりたいダメなコトに付き合わせて振り回しちゃってるし……。だから、そのお詫びってことにして欲しい!」
灘さんは早口でそう言うと、手を前に合わせて祈るようなポーズを取った。
「う、うん。分かったよ……。でもその、気になるは気になるから、今度僕にも何かお返しさせて欲しいな……。その、僕もお小遣いしっかりあるから……」
「もちろん! それは待ってる! というか本当に大丈夫だからね!? あたし多分、みんなよりも多くお小遣い貰ってると思うからさ……その、へっちゃらだから!」
そう灘さんが少し焦りながら言い切ると、笑顔の可愛い女性の店員さんがケーキとセットの飲み物を持ってきてくれた。
「はい、こちらガトーショコラケーキとモンブラン、オレンジジュース二つです。ごゆっくりどうぞ〜〜」
小学生の僕達なんて気にしない、そんな風にして店員さんが去っていった。
あと、知らないオレンジジュースが運ばれてきた。
店内で食べるとジュースが付いてくるとかなのかな……。
と、とりあえず去った難に安堵していると、そんなことも気にしない素振りで灘さんが早速食べ出した。
「さあ食べようマコトくん! んん〜!! 美味しい〜〜!! これが食べたかったの!! 本当に美味しいからマコトくんも早く食べて欲しい!! ああ……美味しい〜〜」
普段の数倍も高いテンションで食べる灘さんに驚きつつも、僕も目の前にあるモンブランを手元に寄せてフォークで掬い上げる。
ものすごく美味しそうだ。
お店のライトに照らされているからか、モンブランが金色に輝いてるみたいで、生クリームもツヤツヤしていて、期待感が高まる。
そして、一口食べてみる。
「んん!! 美味しい……」
何これ……初めて食べた……。
こんなに美味しいモンブランあんまり食べたことないかも……。
しっとりしてて、栗の味もして、なのに生クリームも中のスポンジ? もとろけるような感じでものすごく美味しい。
確かにここのケーキ屋さん来るのハマっちゃいそう……。
なんて思っていると、視界にニヤニヤしてこっちを見つめてくる灘さんの姿があった。
「どう?? ここのケーキめちゃくちゃ美味しいでしょ?」
「う、うん。その、初めて食べたぐらい美味しい……」
「でしょでしょ! だからマコトくん連れてきたかったの! あと、もう分かる通りここは先にケーキを買ってから食べるから、私達でもしっかり払えれば大丈夫なの! その、先に言っておかなくてごめんね」
そう笑いながら告げると、灘さんはまた目の前のケーキを食べ始めた。
そっか、先に払うから僕達でもお客さんとして入れるんだ。
そう思うと入店時からの不安が全て消え去り、店内がなんとなく明るくなった気がした。
ならモンブランを思いっきり食べよう! そう思いながらさらに食べ進めようとするところで、灘さんが席越しに、自分のモンブランの横を手で少し叩いてきた。
「それじゃあマコトくん、今日は今からこれからするダメなコトについて改めて話し合うよ!!」
本当の本題らしきものが出てきた。
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