第7話 ガッコウのコト


 朝から灘さんに振り回され、ダメなコトをして疲れた僕は、2時限目が終わった後の休み時間にも関わらず、机の上でぐったりしていた。

 

 昨日よく寝たのに、朝から甘いものを食べたせいか既に眠い……。

 そのまま寝たいけど、まだ授業あるから昼休みまで寝れないなぁ。


 なんて思いながら周りを見渡すと、灘さんは僕とは違い、いつも通りの元気さと明るさで周りの友達と遊んでいた。


 眠気とは無縁のハツラツさが太陽のように眩しくて、僕が影みたいに感じる。


 そしてそれを見て、どうして同じ人間なのにこんなにも違うのだろうかという、普段なら考えもしないことが頭に浮かぶ。

 もしかしたら灘さんは宇宙人なのかもしれない。


 なんてことを考えつつ、こうしていつもの学校生活を送ってみると改めて思う。

 

 やっぱり灘さんはすごい。

 

 授業中も積極的に手を上げて発表するし、大体正解する。

 国語の授業ならみんなが知らない漢字も知っているし、どこの文章がどこを指しているかとかもしっかり当てて、レポートなんかもしっかりとした大人みたいな言葉でまとめてある。

 算数の授業も大体満点だし、社会も僕が知らない国のこととかをいつもたくさん話してる。

 英語の授業でも、英語を軽くなら喋れるって言って先生と喋ってたし、体育の授業なんかは男子と同じぐらい走るの速いし、音楽の授業でも歌が上手だし、ピアノも弾ける。

 図工の時もよく分からないものを作ってるし……。

 

 とにかく、灘さんは凄いし、頭が良い。

 多分、天才とか何だと思う。

 少なくとも僕はそう思う。

 

 そんな頭が良くて、人気者で、誰かと常に一緒にいて、優等生な灘さんが、どうしてこんなダメダメな僕と、昨日も今日の朝も、仲良く遊んでくれているのかなとすごく思う。

 なんだか不思議な気分になる。


 それに、昨日も今日もきっと誰にも言えないようなことだけをして遊んでて、その事も含めると、余計にどうしての気持ちが膨らんでくる。

 どうして灘さんは遊んでくれるんだろう?

 

 なんてことを考えていたらチャイムが鳴って、授業が始まってしまった。

 少しぐらい寝るつもりだったのに……。


ーーーーーーー


 なんとか眠気と戦いながらも2時間分の授業が終わり、やっとお昼の時間になった。

 いつも残してしまう給食を何とか食べ切った僕は、久しぶりに長い昼休みを得られて密かに喜んでいた。

 今は自分の席に座りながら、本を取り出して、栞の挟まったページを開いてる。


 よし。これで今日はいつもより長く休める。

 やっぱり、僕には給食の量が多すぎるなぁっていつも思う。でも、残しちゃいけないから、結局長い時間かけてでも食べなくちゃいけなくなるんだよなぁ。

 けど、量はいつも食べられるから、本当は僕が食べるのが遅いからなのかもしれない。

 ほら、今日とか朝から灘さんとパン食べたのに食べ切れたし。

 だとしたら早く食べる練習すればいいのかもしれないな。

 帰ったらやってみーー


「マコトくん! 遊びに来たよ! あれ、今日はもう給食食べてない! 珍しいね? あれ、マコトくん??」


「!!」


 唐突に視界が暗くなったと思ったら、そこにはニッコニコの灘さんが居た。

 僕は突然のことにフリーズしてしまった。

 こんなこと初めてというか、お昼休みに僕の前に誰かが来ること自体無いのと、昼間からの眠気で眠かったのとで驚き過ぎてしまった。

 たぶんもう少し眠かったら大きな声も出てたかもしれない。


「あ、灘さんどうしたの?? ちょっと今ビックリしちゃった。その、昼休みに誰かが来ること滅多に無いから」


「マコトくんいつも一人だもんね。でも一生懸命食べてるところ意外とみんな好きなんだよ? まあそれは良いとして、朝言い忘れてたんだけど、今日も放課後ダメなコトするよ! じゃあまた放課後ね!」


 最後の方だけ囁くような小声でそう言うと、灘さんはサッと笑顔で手を振ったあと、自分の席に戻っていった。

 

 灘さんが席に戻ると、他の友達、えっと確か名前は相田さん? が「なこちゃんマコトくんに何話してたの??」と話しかけて聞いていた。なので思わず、聞き耳を立てると、「ちょっとだけ用事〜〜」とだけ話して、灘さんはすぐに話題を変えていた。


 やっぱり僕と友達なこととかあんまり知られたくないのかな、なんて思いながら僕は午後の授業を受けた。



 ーーーーーー


 午後の授業が終わると掃除時間があり、それが終わるとすぐにホームルームがある。そしてさらに、それを終えると、やっと放課後が訪れる。

 

 昼休みに灘さんに話しかけられて以降、今日の放課後はどんなダメなコトをするんだろうということで頭がいっぱいだった。


 そうして、もんもんとしたまま、僕は自分の荷物を持つと、昨日と同じ校舎の正門前に向かった。

 そこに辿り着くと、まだ灘さんが居なかった。

 なので、一人で待つことにした。


 放課後に誰かと待ち合わせて遊ぶ。

 たったそれだけのことも今までは想像出来なかったのに、それをしてくれる友達が出来たんだなぁなどと思っていると、また昨日と同じように灘さんが走ってきた。


「ごめ〜〜ん!! マコトくん待った!? ちょっと先生に頼まれごとあって遅れちゃった。今日は何にもない予定だったんだけどね、なんか先生困ってたからつい聞いちゃって……。」


「全然待ってないから大丈夫だよ。僕もその、今来たし」


「そっか、なら良かった……。とにかく、今日するダメなコトでこれは挽回するから楽しみにしてて! 今日はもう凄いことしちゃうから!」


 そう言うと灘さんは手を大きく上げて、人差し指で駅の方向を指した。


「今日は今からスイーツを食べに行きます!!」

 

 

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