第6話 朝からダメなコト
九月半ばのまだ暑さ残る早朝。
朝から灘さんに捕まった僕は、そのままいつも通りの時間の電車に二人で乗り、学校のある方向とは反対方向の駅の出口前に居た。
朝の通勤時間でものすごく混んでいる中、僕と灘さんは廊下の端に二人で立っていた。
「さて! マコトくん問題です! 私達は今からどこに行くでしょ〜〜うか!」
「えぇ、いきなりそう言われても……。学校でしょ??」
「ブッブー! ダメなコトするのに普段と同じなわけないでしょ! 全くもう、適当に答えないでよ! 絶対今分かってて言ったでしょ?」
灘さんが腕を前でクロスしながら怒っている。しかもバレてる。
そして朝からテンションが高い……。
というか朝にこんな駅の廊下で小学生二人が立ってて怪しまれないかな……。
「マコトくん、いい?? 今から行くところは普段ならそれはもう行きたくても行けない場所よ!! 特に小学生が朝に!」
「えぇ、どこだろう……。全然思いつかないや」
「本当に?」
「う、うん。こればっかりは本当に……」
「えーーなんで分かんないのーー、夢の場所なのに……。じゃあ正解は着いたら分かるということにして、とりあえず行くよ!」
そう言うと灘さんは、普段滅多に歩かない学校とは反対側の駅の外へと歩き出したので、僕もついていく。
昨日みたいにビルの間を抜けて、朝から神社とか行き出したり、公園に行ったりとかはしないよね……? 流石に遅刻とかは灘さんもしなさそうだし……。
そう思っていると、案外とすぐに灘さんが立ち止まる。
ピポピポーーン! ピポピポーーン!
そこには朝から大勢の大人が出たり入ったりしているコンビニがあった。
「正解はコンビニでした!! 今日はここでジュースとお菓子を買って食べながら学校に行くよ!!」
「えええええぇ。それは流石に不味いよ!! 多分!」
「大丈夫大丈夫。今日はしっかりゴミ袋も持ってきたし、隠せるトートバッグも持ってるし」
「いや、多分食べて歩いてるところ見られたらすぐバレちゃうよ……。」
「じゃあ、バレないようなもの買ってこ! さあ遅刻はしたくないし早く買お〜〜」
そう言うと灘さんはさっさとコンビニに入ってしまったので、僕も慌てて店内に入った。
店内はそれなりの広さがあり、少し大きめのコンビニという印象だった。
奥にあるガラス張りの飲料コーナーにて、灘さんがさっとペットボトルを手に取るので、僕もその隣で、飲み物を選ぶ。
なんとなく、一応バレても問題なさそうなスポーツドリンクを選んでおく。
その一方で、隣を見ると、灘さんのやけにオシャレな見た目のペットボトルが目に入った。
すごく気になるけど、どうやって話しかけたらいいかな……なんて考えてる間に、灘さんがレジ前のパンコーナーに行くので、僕も後を追う。
パンコーナーに着くと、灘さんがしかめ面で顎に手を当てながら考え込み始めた。
「うーーん。どれにしようか悩む。朝の菓子パンこそ至高、だからこそ悩む」
「登校中に菓子パン食べてくの!?」
僕は思わず店内で少し大きな声を出してしまう。ちょっと恥ずかしい……。
「え、そうだけど? 美味しいし安いし二人でわけっこすれば食べ切れるかなと思って」
「不安点そこ!? まあ確かに二人なら食べ切れるだろうけど……」
初めから僕と一緒に食べる前提らしい。
「でしょ! でもこのメロンパンとちぎって食べるもちっと生クリームパンどっちにしようか悩む〜〜。
マコトくん的にはどっちがいい??」
「う〜ん。僕は生クリームパンの方が好きかな。チョコクリームも挟んであるし」
「じゃあこの生クリームパンにするね! さあ決まったことだしささっと買っちゃおう!」
ーーーー
コンビニでジュースとパンを買った僕達は、駅下のトンネルを潜りながら学校方面へと歩いていた。
二人とも片手に飲み物を持って、時々飲みながら歩く。
「それでマコトくんは何のジュース買ったの??」
「僕はスポーツドリンクのポカミスエット買ったよ。これならその、バレても大丈夫かなと思って、まだちょっとだけ夏だし」
「ふふっ、マコトくんらしいね。確かにその発想はアリだし私も今度やってみよ〜〜」
またこれやるつもりなんだ……。
「それで灘さんは何買ったの? ほら、なんかすごい見た目してる飲み物買ってたし。緑とか黄色とか、赤とかオレンジとか」
僕が灘さんの手元のペットボトルを指差して聞いてみると、灘さんが差し出すようにして見せてくれる。
「ああ、これ? 最近ハマってるんだ!! 新作のフルーツティー! これが好き過ぎて、どうしても朝から飲みたくてね、それで今日コンビニに寄ったの」
これが目的だったのか……どうも灘さん飲んでる時ニマニマしてて嬉しそうだと思った。
「へぇ〜どんな味するの?」
「えっとねぇ、甘味の後に爽やかさが来る感じ! マコトくんも飲んでみる??」
そう言うと灘さんが飲みかけのフルーツティーを何の気無しにそのまま差し出してくる。
「え、いいの? ええ……でも……」
なんか灘さん普通にしてるけど、これっていいのかな……。漫画で時々見る間接的なあれだよね……。
気にしたらいけないのかな……。
僕が差し出されたフルーツティーを見つめて、黙ったまま葛藤していると、灘さんが首をかしげて、不思議そうにする。
「え、いいよ? え、何かいけないことある?」
「い、いやないけど……」
「じゃあ良いじゃん! どうぞ! 味の感想教えてほしいな〜〜」
「じゃあ貰うけど……」
え、え、どうしよう!? やっぱりこのままじゃマズイ気もする……。でも断ったら断ったで揶揄われる気もするし……。
そうだ!
「や、やっぱりこの水筒の蓋に注いで欲しい! その、そっちの方が飲みやすいかなと思って……」
「あははっ、マコトくん律儀だね〜〜私気にしないのに。えーーでもなぁ、なんかここで注いだらあたしの負けな気がする……。だからやっぱりそのまま飲んで! はい、ぐびっと」
そう言われるがままに、ニヤッとした灘さんが手にしたペットボトルの飲み口を僕の口に当ててくる。
思わず水筒の蓋を持っている方とは逆の手で僕もボトルを支える。
すると爽やかな甘さにどこか少しだけ苦味があるような味が口の中いっぱいに広がる。
「どう??」
「お、おいしい」
「でしょ〜〜!! これ美味しいでしょ!!」
「う、うん。初めて何とかティーって飲んだけど、こんなに甘くて飲みやすいんだね。もっと大人が飲むやつかと思ってた」
「だよね〜〜。私もそんなイメージあったから今まで飲んだことなかったんだけどね、この前ママに買って貰ったらすごく美味しくてね、そこからハマっちゃったの」
灘さんはそう言いながら、フルーツティーをまた飲んだ。
僕は思わず反対側に顔を逸らす。
け、結局灘さんに無理矢理飲まされちゃったけど、まあ灘さんが気にしてないならいいの、かな……?
これもイケナイコトとかダメなコト何じゃないのかな……。
ま、まあいいや。とりあえず今起こった事実は一旦忘れよう。
僕はフルーツティーを飲んだだけ、飲んだだけ、飲んだだけ、飲んだだけ……。
なんか顔が熱くなってきた気がする……。
「マコトくん顔赤いけどどうしたの??」
「な、何でもないよ! それより早くそれ食べないと学校着いちゃうよ」
僕は誤魔化すように灘さんの手にしているビニール袋に刺さる生クリームパンを指す。
「もちろん今から食べるよ! でも食べきれないと思うんだ〜〜」
「ええええ、じゃあどうするの?? 流石に学校に持ち込むのはマズイよ」
「ふっふっふ。だからこそのマコトくんなんだよ」
灘さんが不敵な笑みを浮かべる。
「どういうこと?」
「ふふっ、どういうことも何もないよ。普通に初めからマコトくんと分け合って食べようと思って買っただけ!
私一人じゃ食べきれないし。だから買う時もマコトくんにどっちがいいか聞いたんだよ。
それに今日朝から誘ったのも、いつも登校の時に買いたくても学校までに食べ切れる気がしなくて断念してたこのダメなコトを、マコトくんがいれば出来るじゃん! って気付いたからだし」
「な、なるほど?」
「だから一緒に食べてこ! はい、半分こ。これマコトくんの分」
そう言って灘さんが半分にちぎって分けたクリームちぎりパンを渡してくる。
「あ、ありがとう。いただきます?」
「ふふ。どういたしまして! とりあえず食べよ。早くしないと学校着いちゃう」
「う、うん。」
そして、僕と灘さんは同時にちぎりパンを口に含む。
「甘くて美味しい〜〜!! やっぱりこのパンもちもちしてて好き。」
「ほ、本当だ。美味しい。あと、クリームも美味しい……」
「だよねだよね! ふふっ、朝からやっちゃいけないダメなコトしながら美味しいもの食べるの楽しいね! あと、いつもより美味しく感じる気がする」
「う、うん。なんか、楽しいかも」
そう言い合いながら、僕達はパンを食べ切って、遅刻ギリギリで学校に着いた。
朝からダメなコトをしている罪悪感を感じながらも、ドキドキして食べるパンとジュースの味がいつもより甘く、美味しく感じた気がした。
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