第2話 連れてかれるマコト


 放課後、灘さんと帰る為に校舎の正門で待っていると後ろから声がした。


 振り返ると、そこには息を切らしている灘さんがいた。

 どうやら少し走ったあとらしい。

  

「マコトくん待った?? ちょっと日直の当番の仕事終わらなくて、時間かかっちゃった。待たせてごめんね? じゃあ、とりあえず行こっか。」


 そういうと、灘さんは行き先も教えてくれずに、さっさと歩き始めてしまった。

 スタスタと歩いていく灘さんの後ろ姿を追いながら、僕も置いていかれないようにいつもより少し早く歩いた。

 

ーーーーーーーー


 灘さんと一緒に帰ることに、少し不思議な気持ちを感じていると、あっという間に学校近くの駅前に辿り着いた。


 心なしかいつもより早く駅に着いた気がする。

 そんな風に思いながら辺りを見渡していると、灘さんがこっちを向いて話しかけてくる。何故か少しドギマギしながら。

 

「マ、マコトくんってさ、確かいつも同じ駅に降りてる……よね?」

「うん、そうだよ」

「だ、だよね。そうだよね。いつも同じ時間の電車乗ってるもんね。じゃあ行こっか。駅着いたらまた話すね」

 

 そう言うと、また歩き出す灘さん。

 何を言われるのかとちょっと身構えてたら、ただの降りる駅の確認だった。


 そもそも、普段から友達と話さないせいで、会話もいちいちなんて返したらいいか分からなくて悩んじゃう。

 それに、灘さんが何故か不安そうな顔で質問してくるから冷たい感じで返事しちゃった……。嫌な思いしてないかな、。

 

 なんて考えていると、知らない間に灘さんが先に駅の改札を通り過ぎていたので慌てて僕も改札に向かった。ピッ


 人混みをかき分けて二人でホームに向かうと、あっという間に電車が来て、ドア付近の端の席に二人で座った。


 隣の席に同級生の女の子が居る。横をチラチラと見ながらその事実に少しドキドキしていると、その隣の彼女から話かけられた。


「まことくんってさ、いつも一人だけどどうして?」


「えっ、。」


 電車に乗って早々、話しかけられたことが予想外の質問過ぎて、思わず声が出てしまった上にフリーズしてしまった。


 どうしよう、絶対に周りの人に変な子だって見られてる。それに他に乗ってる人にも聞かれただろうからめちゃくちゃ恥ずかしい……。みんなにぼっちだと思われるよ……。そうなんだけど……。


 そう思いながら僕は無意識にいつもの癖で手提げ袋から本を取り出す。


 会話が詰まった時にいつからかやるようになった動作をしながら、言葉を声に出していく。


「え、っとね、上手くみんなと話せないから……かな。それと本が好きだから。自分のペースで読めるし」


「ふーん、そっかぁ。なんかもっと深刻な理由があるのかなって思ってたから少し安心したかも」


 そう言いながら灘さんは、少し浮いている足の踵を少しジタバタさせる。


 どんな理由があると思ってたんだろう……そう思っていると、目をパーっと輝かせてワクワクした表情でこちらに上半身ごと振り向いてくる。

 

「ちなみに私も本好きだよ! その最近マコトくんが読んでる本も読んだことある」


 ドヤっとした顔で本を指差しながらそう言われて、思わず僕も前のめりになる。


「そ、そうなんだ! これ面白いよね! あ、そうだ! じゃ、じゃあ今度オススメの本あったら教えて欲しいな」

 

 なんて返しをしてしまう。少しはしゃぎながら、早口で。今日は気まぐれで一緒に帰ってくれてるだけなのかもしれないのに。


 やっちゃった……と冷や汗が全身から噴き出てくる。


 この後くる返事が怖いなぁ。こういう言葉って少し苦手かもしれない……。

 今度からは次の約束入ってるようなこと口走らないようにしなきゃな……。


「いいよ。じゃあ、明日何冊か持ってくるね」

 

「えっ。本当に?」


「う、うん?」


 思わず心の中の声が飛び出してしまった。案の定灘さん不思議そうな顔でこっち見てるし。

 

 え、でもそっか。なんか嬉しいかもしれない。こうやって約束することしたことなかったから。

 

 そしてふと気づく。自分が普通に同級生の子と話せてることに。それも女の子と。

 灘さんの力もあるんだろうけど、なんか久しぶりに話すのが楽しいかもしれない。

 

 なんて考えているとあっという間にいつも降りる駅に電車が到着していた。


「マコトくん降りるよ。ついてきて」


「う、うん」


 

 ーーーーー


 駅の改札を出て、言われた通り灘さんに付いていった僕は、若干不安を覚えていた。


 それと言うのも、灘さんが慣れた様子ですり抜けて行く道が、どれもこれも普段通らないようなビルとビルの間の小さな路地裏だったからだ。

 

 至る所にお店のゴミ箱や、瓶入れがあって、おまけにその中身があちらこちらに散乱している。

 そして、ずっとボーボーと鳴る埃だらけの排気口の音に、変な臭い、それから時々美味しそうな匂い。

 さらにそれらを超えた先には、またゴミが散らかっていて、もういつのか分からない食べ物の袋とか、ネズミの糞とかがある。

 壁にはパイプがびっしりと迷路のように張り巡らされていて、あみだくじが出来そうなだなって思う。


 そんな所を彼女はスイスイと、それはもう何も気にしませんよと言った感じで抜けて行く。

 

 僕も置いていかれないように、見失わないようについて行くけど、どうにもこうにもなれない場所で、足元にある何かが気になってしまう。

 

 そして、入り組んだ壁と壁の間を駆けて、結果的に灘さんを見失いかけること5回。

 それがもう3回ぐらい続いた後、そこでようやく灘さんの足が止まった。


 やっと追いついた、と安心したのも束の間、灘さんがこちらに振り向きながら口を開いた。


「マコトくん、着いたよ。ここがあたしの秘密基地!!」


 そう唐突に言われて辺りを見渡すと、そこには小さな神社があり、僕達は森の中に居た。

 


 

 

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