第9話 働いてみたい

「まだ少し体が重いな……」


 一晩たち自力で動けるまでは回復した。今日は昨日の分の仕事もしなければならない。念入りに掃除をする。


「牧師ー! 目覚めたーご飯ー」


「おはようございます」


 彼女の魔力も回復し動けるようになった。もっと動いて欲しいものだがやらせるには頼りない。


「牧師! 余は働いてみたい!」


 絶対に彼女の口からは出てこないと思われていた言葉『働く』まずは自分の耳を疑う。目を閉じ、深呼吸をする。心を落ち着かせてもう一度聞き返す。


「いや、だから〜働きたいって言ってるんだよ」


 困惑。まだ夢の中にいるのだろうか、確かに昨日は色々あった。体が疲れているのか脳が現実を見たくなくなったのか、真実はこの二つのうちどちらかだろう。現実という選択肢はない。


「いや、聞けよ!いつも忙しそうにしてるだろ? なんか無いのかよ!?」


 今日で世界が終わってしまうのかもしれない。控えめに言って今日でこの村は潰れるのかもしれない。やる気満々なのがさらに怖い。何を企んでいるのか、後で何を要求されるのかが怖い。


「疑ってるのか!? 大丈夫だから〜な〜?」


 今度からはやらないとか言われるのも面倒なことだ。危なっかしいが簡単なことをやらせてみて観察しよう。


「じゃ、じゃあ掃き掃除でもしてもらいましょうか」


 罰として何度かやらせたことがあるが箒を毎回折ってくる始末。掃き掃除をやれば全てが分かる――


 箒をルンルンで手に取り一度振り回すがその後は普通に掃き掃除を続ける。しっかりとゴミも集められており、何より折れていない。


 絶句。一体何が起こっているのかが分からない。完全に監視する事を選らんだので自分の仕事が進まない。だが、目を離すのも怖い。


「良いぞ牧師! 余は大丈夫だからな」


 疑いは良くない。相手を信じる事こそが神を信仰するうえでも大切だ。皆が信頼しあい助け合う世界。協会の理念には魔族は当てはまらないが私が信じているのは旧教会のやり方であるため良しとする。


「では、頼みましたよ。椅子も奇麗に並べといてください」


「任せておけ!」


 その場を後にし、他の場所の仕事に取り掛かる。台所など危険な場所はやらせないようにしているのでそこをさっさと終わらせる。


 未だ大きな音も悲鳴も聞こえて来ないため安心している。などと思いきやガラス質の物が割れるような高い音が聞こえる。


「大丈夫ですか!?」


 疑っていた訳では無いが、何かは起こると思いいつでも走って迎えるように準備はしてあった。疑っていた訳では無い。


 感も当たり素早く音の発生源に向かうことが出来た。床が水浸しになっており花瓶の破片と花が散らばっている。

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