第3話 朝は早い
早朝、牧師の朝は早い。日の出頃には起きて神像に祈りを捧げる。
ステンドグラスに差し込む太陽の光が、神秘的な雰囲気を出す。
ここで一つ豆知識を言うと、神像の向きは全て一緒である。後光が指すように作られているためだ。
祈りが終わると神像周りを綺麗にする。
「おや、今日は早いですね」
「……トイレ。まだ寝る」
「…………」
次に行うのは食事の準備である。朝は中々起きてこないが、たまに起きてきて無いと怒る。
全く困った魔族である。
食事を済ませまだ掃除をする。神聖なる教会には塵一つ許されない。実は単に暇なだけだ。
「飯を出せ!!」
「……寝るのでは?」
「中々寝れなかった! さぁ余の飯を出せ!」
「もう準備してありますよ」
「そ、そうか。やるじゃないか」
こうやって黙らせるのが一番楽しいと思う。
「おい、牧師顔が悪い顔してるぞ……?」
顔に出ていたか、少し気を付けなければならないな。
あくまでも神のご加護を行使できる稀な牧師である。良い子にしていなくては使えなくなってしまうかもしれない。
堕天などしたくはない。この国では殺されてしまうからな。気を付けなければならない。
「ほら、トマトも食べなさい」
「嫌だね! 我は魔族だぞ? 言うことなど聞くか」
「……しょうがない。連絡して騎士を呼ぶか」
少し考えたのだろうこちらを嫌な顔で見ながらトマトを口まで運ぶ。
噛んで中から出てくるあの何とも言えないものが今この魔族を襲っている。
「最低牧師!」
健康を考えてあげているのに最低とは……やはり困った魔族だ。
***
そして昼過ぎの事。扉を叩く音がして開けてみると全身に鎧を身につけた騎士が立っていた。
「昨日ここらで魔族の者と思われる攻撃が見えたらしい。被害確認と目撃確認がしたい」
「わ、分かりました」
とりあえず嘘をついた。攻撃の破片がここに落ちた。本体の攻撃はもっと奥に行った。等、それっぽいことを言っておいた。
牧師などは意外と身分が高い方だ。ご加護を使えるとなると尚更だ。正直捕まると思っていない。
「──分かりました。ありがとうございます」
騎士が帰り一段落して教会に戻ると彼女の姿が見当たらない。
逃げたのだろうか? 教会を探し回っていると部屋のタンスから軋む音が聞こえた。
少し驚かそうと思い勢いよく扉を開ける。
「いたぞーー!!」
だが、そこには頭を抱えながら身を縮め震える姿があった。
目を瞑り、角を隠そうとしている姿があった。
過去に何があったかは聞いていない。単騎で乗り込む馬鹿、たとえ単騎でも乗り込んで倒したかった。人間界に大事な物があった。理由は分からない。
だが、今彼女は身を縮め恐怖に怯えている。騎士の中に相当怖いやつがいたのだろう。
そっと頭に手を伸ばし撫でる。背中をさすり安心させる。
『神の前では等しく平等』
たとえ魔族でも同じ。何回も言うが、これが無ければこの生活もなかっただろう。
「もう、大丈夫です。危険は去りました」
ゆっくりと目を開け今頭と背中に手を当てている相手を確認して安心したのか震えは収まりこちらにしがみついてくる。
「余を……余は邪魔じゃないよな……?」
「ここに居て大丈夫ですよ」
また泣き出してしまい。少し困るが優しく撫でてあげた。
***
「……だから何でまたトマトを入れるんだ!?」
「バランス良く栄養を摂るためです」
「牧師! もっと慈愛を込めてトマトを無くせ!」
「バランス良く栄養を摂るためです」
同じ返答を何回も繰り返し、相手も諦め静かな時間が訪れる。
馬鹿だがアホでは無い。向こうも勝てないことは分かっている。衣食住全ての権限を私が持っているからだ。ニヤニヤとし、口角が上がる。
「やっぱり悪い奴だな……牧師は」
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