魔族と牧師
第2話 日常
我々人間は神によって生み出された。神から加護を頂き、神を信じ生きてきた。
神の天敵、相反する者は誰か。
それは魔族である。神の加護を貰わずに自分の力だけで生きていく。貰えなかったと言った方が正しいのだろうか。
信仰も祈りもない。個人が勝手にやっている世界。そして一番強いものがトップになる。力の社会。
弱き者は淘汰され、生きていくことは出来ない。では、そのまま死んでしまうのか?
否、神の名のもとに平等が制定されている。私は神を信仰し、神に従う。
『命あるもの上下を無として、慈愛と正愛で接しよ』
この言葉を信じ私は生きている。たとえ魔族だろうと、困っているなら手を貸す。それが神から習った事である。
「おはよー」
寝起きのボサボサの髪。立派とも言える太い角。人間とは決定的に違う見た目を兼ねそろえ、尻尾を引きづりながら教会内をウロウロしている。
そう、今この教会には魔族がいます。出会いは少し前の事、単騎で戦いに出た馬鹿である。
今もなお寝ぼけて壁に頭をぶつける始末である。神でも救いようの無い種である。
その後、しっかりと返り討ちに会いボロボロの状態の彼女を偶然見つけ手を差し伸べた。勿論魔族を助けるなど頭がおかしいのかもしれない。
しかし、神の前では等しく平等である。
「おはようございます。昼食の支度はできていますよ」
「おぉー食うぞ!」
少し皮肉混じりで言ったが、分かっていない。
食事と聞き目が覚めたのか、迷わずに机に向かう。尻尾は引きずったままだが、
「いただきます」
「今日も美味そうだな〜!」
と、言いスプーンを持つ。そのまま一口頬張ろうとするが視線を感じたのだろう。
「……いただきます」
なんとも美味しそうに食べてくれる。作った甲斐が有るものだ。
半分ほど食べた頃だろうか、勢いよく扉が開かれ一人の男が焦りながら入ってくる。緊迫した表情、よほど大きな出来事が起きたのだろう。
「牧師様! どうかお助けを!! ロザンヌが!」
何事かと思い食事を中断し走って行く。相当切羽詰まっている。一切走るペースを変えずに、むしろ速くなっていく。
もしや本当に大事件でも起きたのか? 少し多めに加護を使うかもしれないな。
道の端に座り込む一人の女性。小さな村だから大体の人は知っている。彼女がロザンヌさんだ。
特に血だらけということもなが、膝を擦りむいているがコケたのだろうか。
「大丈夫か? もう大丈夫だぞ! 牧師様が来てくれた」
「どうなさいましたか?」
「膝を擦りむいてしまって……」
少しの間待つ。7秒待てば収まる理論に基づいてだ。効果は多少ある事が分かった。多少だが。
「……まぁ、病気とか怖いですしね……」
ただ擦りむいただけで神の御加護を行使することが出来る存在である牧師を呼んだのか……?
一般的には聖女が、稀に牧師も神の御加護を行使して、回復や守護などができる。選ばれし者である。
少し苦笑いしながら呪文唱えると段々脚の傷は消えていき綺麗な脚になる。
「ロザンヌ!」
「貴方!」
「ロザンヌ!!」
「貴方!!」
「……コイツらは馬鹿ッ」
それ以上は思っていても言ってはいけない。しっかりと止める。
「では、私達は昼食の途中だったので戻りますね。途中だったので」
しっかりと嫌味……言い方が良くない。あえて言葉を強調した言い回しで言っておく。
さっさと教会に戻り、冷めてしまった昼食をいただく。
「ご馳走様でした」
「……ご馳走様でした……」
食べ終わると教会の家事をする。少し村から離れているため、あまり足を運ぶ人は少ない。
「暇だー牧師ー余は暇だ!」
「じゃあ、手伝ってください! 貴方の服もあるんですからたまには仕事をしてはどうですか?」
今日は快晴で洗濯物もよく乾くと思い、多めに洗ってしまった。
何個か服をかけ終わり、残り半分と言った所だろうか、
「え~~太陽眩しいし、暑いし……そうだ! 一回ぶっ壊してみるか!」
空高く輝く太陽。太陽には神々が住んでいるとも言われている神聖な場所である。それを壊そうなどと思う時点で魔族である。
「良いですか? 太陽と言うのはですね、あの輝きから──」
「サンブレイク・グライトパニッシュ──」
一切の躊躇なく魔力を練り始める。本当に話を聞かない。
彼女を中心に魔力が集まり出す。黒や赤、紫など暗い色が混ざり合い混沌とした不気味さが増す。
その不気味な魔力の渦に所々に光りが見える。闇があるから光が見える。光があるから闇ができる。
凝縮された魔力が肥大していく。固めてもこの大きさ。そしてこれを作れている。単騎で乗り込んだただの馬鹿では無い。実力のある馬鹿である。
轟音と共に放たれ、衝撃波は辺りに大きな被害を与え、草木諸共吹き飛ばす。
空からは雲が消え、暑い日差しが降り注ぐ。
肝心の太陽には未だ変化は無い。
「届かなかったか……余もまだまだ強くなれるな!」
「…………」
ゆっくりと辺りを見回す。木々は折れ、たっているところの草は剥げている。
「余は機嫌が良い! 手伝ってやろう!」
「じゃあ、吹き飛んだ服を回収して洗って干してください。ありがとうございます!!」
さっさと教会に戻っていく。途中手伝えなど文句などが聞こえたが関係なしに置いていく。
***
「……終わったぞ」
どこまで探しに行ったのか頭には葉っぱが着いている。服の袖は水に濡れポタポタと水滴が落ちていく。
「お疲れ様です。ちょうどお菓子が焼き上がりましたが、どうですか?」
聞いた瞬間表情がコロッと変わる。一目散に椅子に座ろうとするが、
「着替えてください。汚いですよ」
ドタドタと走って行き、少し静かになり、またドタドタと走ってくる。
「食べた!?」
「食べてないですよ」
「いただきます!」
両手に2個ずつ取り、美味しそうに頬張っていく。しっかりとこうなる事は分かっていたため、自分の分は別皿に避けてある。
「美味しいですか?」
「うまい!」
一つ手に取り口に運ぶ。確かに美味しい。流石は自分と言った所だ。
もう3つ食べ終わったようで残り一個をゆっくりと食べている。
「……食べますか?」
半分に割り、手を差し出す。グイッと顔が近づき、食べていく。自分で持てよとは思ったが、今日は頑張ったという事で大目に見る事にした。
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